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二学期、君が死なないように  作者: 牧田沙有狸


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5.心の調査表

 大学生の夏休みも終わり。

 久しぶりに学校に行くと、友達と呼べるのか分からない微妙な知り合い二人がすり寄ってくる。

「伸、ひさしぶり~」

「夏休みエンジョイしてました?」

「ええ、とっても」

「だろうね。奏田くん。君の彼女、可愛いもんな」

「S短大だろ。いいな~」

「いいだろう」

 俺は、コンビニのクレーマー対応のように感情をこめないで返す。

 そりゃ、君たちが羨ましがるようなリア充の夏休みを過ごしていました。はい。

 それは、それは、あんなことやこんなこと。

 もったいなくて言いません。

 言葉にすると俺の妄想だったような気がしてくる。

 自分でも現実味がなくて、俺のベッドで二人過ごした夜は、どうしようもない空虚な気持ちになった。本当に俺でいいのだろうかという不安が押し寄せた。

 愛加の白い肌が、柔らかい唇が、当たり前のように俺に触れる。何も悪いことはしていない。いや、それどころか、俺とこうしていることを愛加が望んでいる。

 この不安の根っこにあるのは、ないから、と言った方がいいのか、自己肯定感ってやつのせいだろうか。自分が普通に生きてて価値があるように思えない。愛加は本当に俺でいいのか。

「愛加は、俺なんかにはもったいない」

 思わずそうぼやいてしまったが、彼女には褒め言葉に聞こえたらしく、嬉しそうに抱きつかれた。そんな幸せすぎる状況に、俺はまだ慣れない。

「なあなあ、本当に彼女の友達でフリーの子いないの?」

「知らない」

「頼む~。彼女の友達と合コン、セッテイングしてよ」

「だから、何度も言ってるけど、無理だと思う」

「奏田くん!!」

 いつもは伸と呼ぶくせに、奏田くんと呼ぶ。その時は大抵、合コンの話だ。

 去年のクリスマス前にも散々断ったのに、夏休み前、そして夏休み明け。しつこい。

 確かに、愛加の行ってる短大は清楚なお嬢様っぽい子が集まっていそうな所だ。そんな子達が、俺らを相手にするだろうか。俺が相手にされているから、という望みをこいつらは捨てていないんだろう。ある意味、俺は希望の星なのかもしれない。

 しかし、俺は愛加の知り合いに紹介されることを恐れている。陰で「愛加、趣味悪い」とか言われそうで、なるべくなら会いたくない。だから愛加の友達は一人も知らない。

 俺は、そのしつこいり合いから逃げるように教室に入った。


 誰もが羨む完璧な彼女が、自分を選んだ。

 それだけで自分の価値が上がったような気になってた。嬉しかった。

 人生が変わる気さえした。もう昔の俺じゃないんだ。

 愛加のおかげで、今までの嫌なこと全部帳消しになる、そのくらいに思った。

 けど、俺自身は何も変わっていなかった。

 愛加の存在がブランド品みたいで、一緒にいるだけで価値があがった。それを手にする資格がある人になったんだ。そう思ったけど、違った。

 キラキラした愛加のそばにいると、一緒に輝くんじゃなくて、自分が何も持っていないことに気づかされる。空っぽなのが浮き彫りにされるようで怖くなる。

 愛加によって帳消しにした俺の、俺が俺である部分が、昔の自分が、忘れないでって言っているような気がする。

あの子に会ってから・・・・・・。



 「絵本は一人で読んでも楽しいけど、

  誰かに読んでもらおう。読んであげよう。

  絵本は読む人と読んでもらう人のコミュニケーション。

  その思い出はかけがえのない財産になります」


 駅に隣接する本屋の絵本売り場に、店員の手書きのPOPがあった。

 財産か。

 平積みされた絵本をざっと眺める。

 たかが絵本。されど絵本。


 駅から家に帰る俺は、いつもと違う道を歩いていた。半分枯れたヒマワリが不気味陰を作り、至る所にセミの死骸が落ちている道を抜けると図書館に着いた。自分に何ができるか分からないが、気がついたら足が図書館に向かっていた。

 もちろん、楓はいなかった。ここにいないということは、家に居場所があるか、ちゃんと学校に行けていると解釈して喜ぶべきなのだが、夏の終わりを感じさせる空気感がもの悲しさを誘い、ザワザワした気持ちが続く。彼女がきちんと笑っていることを自分で確認しないと落ち着かなかった。


 その日は夕方からバイトだった。俺はいつものように弁当を棚に入れていた。背中に気配を感じたので、何か探している客かと思って顔を上げると、楓が立っていた。店員として対応する。

「いらしゃいませ」

「あの、これ」 

 楓は四つ折りにした紙を渡して、走って去って行った。

 俺は、とっさに周囲を見渡し、ズボンのポケットにねじ込んだ。中学生にラブレターをもらってしまったと思った。俺がここでバイトしてること言った覚えないし。別に、俺じゃなくて、ただ店員に渡してきただけかもしれない。全然そんな雰囲気じゃなかったのに、何をドキドキしているんだろうか。彼女がいても、自分の所にわざわざ来た女の子の好意は単純に嬉しいので、都合のいい方にしか頭が働かなかった。

 俺は、バックヤードで誰もいないことを確認して、その手紙をそっと開いた。

<子供の命を守る取り組みについて>

 二枚綴りになっている学校で配られたと思われるプリントだった。1枚目は保護者あての手紙か、子供の自殺対策についていろいろ書かれていた。テレビでも自殺が話題になっているので、事前に防ぐため、同時に学校も何かをしていたという証拠作りだろうか。

 今、こんなの配られるのか。

 ラブレターと一瞬でも勘違いした自分が恥ずかしくなる。


 二枚目はアンケートのようになっていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 【心の調査表】

                      2年2組  竹沢 楓

   ■悩んでいる時、誰に話しますか?

     家族・ 友達・ 先生・  ○その他の人(コンビニのバイトの人)

     いない


   ■何か困っていることがありますか

     ○ある・ ない・ わからない


   ■その他、気になることがあれば書いてください。

    「毎日、図書館にいます」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 担任に渡すはずのものを俺に提出した。

 コンビニのバイトの人と書いてある。奏田伸とは書いてない。

 俺だと分かって来たんだよな?

 学校に行く気はなく、明日から図書館にいくのだろうか。


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