27.むらさき色の小石
25日クリスマス。
今年は金曜日だから、イブよりもこっちの方が盛り上がるとの予想。実際、ケーキの配達も昨日より今日の方が多い。クリスマス休暇のない日本だからそんなもんだ。
俺は、予約伝票と配達先、ケーキのチェックを始めた。
「奏田くん、今日は何軒か種類違うから気をつけてね」
店長が言ってきた。
「え、違うんですか」
「だいたいは、あのレプリカのだけど、カタログで選んでちょっと高級なの注文してる人いるから」
「高級なのか」
他の種類があるのは知っていたが、こだわる人は、ケーキ屋に行くと思ったから、わざわざコンビニで注文する人っているんだと思った。
店長がカタログを見せてくれた。
「ちなみに、二丁目の竹沢さんのところは、これ」
「え?」
なんで、わざわざ竹沢だけ教えてくれるんだと? 変な警戒をしてしまった。
「美味しそうだから、ウチも買っちゃった」
「そうなんですか」
そういうことか。どんだけ美味しそうなんだろうと、カタログの写真をよく見た。
あ。
俺は、アレクサンダのむらさき色の小石を見つけた。
「予約伝票書いてる時、お母さんが、しきりに言ってたんだよね。中学生の娘さんが巨峰好きなんだけど、この季節ケーキに乗ってるのってないのよねって。見つけて嬉しそうだったよ。冷凍ケーキだから可能なのかね」
「へえ」
俺はカタログの能書きを見た。
冷凍とはいえ、ブドウの季節から作ってるわけじゃなく、厳選したブドウを一番いい状態で保つために、砂糖で煮詰めてあると。ジャム以上果肉そのまま未満なコンポートってやつらしい。生クリームの上に乗ってて紫色の宝石みたいだ。
「だから、間違えないようによろしく」
「了解いたしました」
今年のクリスマスは38年ぶりの満月らしい。
38年ぶりって、すごくないか。しかも、晴れてて、すごくキレイだ。
満月の夜は、きっと魔法がかかる。
実家から持ってきた、日本史と世界史と国語、あと体育実技とか、使えそうな教科書と資料集を集めて俺は本を完成させた。
その名も「改替伸書」(かいたいしんしょ)
もちろん、杉田玄白の「解体新書」のパクりだが、「伸書」ってところがポイントだ。奏田伸にしかできないだろうっていう、このくだらなさ。
教科書でおなじみの偉人たちの写真や絵、昔のマンガをスキャナーで取り込んで拡大してプリントアウト。手書きでほどよく落書きして、それを再びスキャンして、パソコン上で文字を入れたり大きさそろえたりレイアウト編集した。春画のコラージュよりクオリティーは高い。印刷してホチキスで製本して、クリスマスっぽい紙袋に入れて、配達用のバイクにケーキと一緒に乗せた。
時間指定枠が幅広いので、竹沢家を最後にした。無駄のないルートを事前に考えたので、個人的な事情でそうしたわけじゃない。スムーズに配達が進み、あの時、電話ボックスを探し回ったのも無駄じゃなかった気がしてくる。
竹沢家の門扉のインターフォンを押すと、楓らしき声が応答した。
「クリスマスケーキをお持ちしました」
「その声は!」
俺は口ひげの位置を整えて、ドアが開くのを待った。
ドアから楓が顔を出した。
「メリークリスマス」
「奏田さん」
俺は首を横に振った。口ひげで顔は半分見えない。
楓は外に出て門扉の所まで来て、開けてくれた。
「ワタシハ、サンタクロースデス。ケーキオモチシマシタ」
「ありがとうございます」
「ムラサキイロノコイシモ、アリマシタ。ツキハミチテマス」
「むらさき色の小石?」
「ハイ。オカアサン、ミツケマシタ」
「お母さんが」
「アナタノホシイモノ、キットテニハイリマス」
「欲しいもの・・・・・・」
「ソレカラ、コレハ、トクベツニ、プレゼントデス」
俺は、この日までに頑張って作った絵本を渡した。
「カナシイトキ、サミシイトキ、ツライトキ、キエタクナッタトキ、ヒライテクダサイ」
「え」
「ソレデハ、サムイノデ。ヨイ、クリスマスヲ」
「あ、サンタさん!」
「ナニカ?」
楓は満月を見て笑った。
「月がきれいですね」
俺は頷いて手を振った。
そして、バイクという名のトナカイに乗って去った。




