19.財産をつくろう
土曜の午後、楓と図書館に行った。
兄妹。妹の宿題を手伝う兄。そんな設定だ。別に背中に設定が書いてあるわけでもないが、そう思っただけでこの間よりも絵本エリアにも行きやすい。
入り口そばの企画本を集めている本棚は、赤と緑と白で飾り付けられ、クリスマス本でいっぱいだ。
そこで足を止めた楓が聞いてきた。
「奏田さんはサンタクロースって何歳まで信じてました?」
「うーん小2ぐらいかな」
「いいな。あたし、信じてたことない。サンタクロースは本気でドラマやアニメの中の話だと思ってたから」
「またそれか」
「もう六歳差って、平気で小さい子の夢壊すんですよ。もっと大人なら温かく見守るんだけど、中途半端に現実を知ってるから。親はサンタなんかいない方が楽でいいから、そういう分かってるけど夢を壊さないようにする配慮をあたしにはしてくれない。枕元にプレゼントを置いているのが親だったとしても、窓や煙突から入ってきたサンタがそっと置いてくれるって信じてる。そういう時代があるって素敵だなって思うのに」
「じゃ、今からでも信じなさい」
「え、もういいです」
「今年は絶対来るよ」
「なんでですか?」
「サンタクロースはは信じている子の所に来るから」
きっと親が予約したんだろうが、楓の名前でクリスマスケーキの予約伝票があった。
絵本コーナーには、たまたま誰もいなかった。
読みたい、読んで欲しい本を持ってここに持ってこようと、それぞれ好きな本のところに行った。
俺は、愛加が好きだと言ってた絵本を片っ端から本棚から出した。シリーズものや、名前を聞いたことがある作者のもの、読んだことあるのも、ないのも、好きなだけ出した。
からすのパンやさん
こぐまちゃんとしろくまちゃん
ねずみくんのチョッキ
ぐりとぐら
レオ=レオニ、エリック・カール
せなけいこ、さのようこ、あまんきみこ・・・・・・
俺はカーペットの上に持ってきた本を並べた。
「奏田さん、こんなに読むんですか」
「金持ちになっちゃうな」
「なんで?」
「絵本は読む人と読んでもらう人のコミュニケーション。その思い出はかけがえのない財産になります」
俺はありがたい教えを説く牧師みたいな口調で言った。
「なんですか、それ?」
「本屋に書いてあった」
「へえ。素敵ですね」
「財産つくりますか」
「はい!」
さすがに楓を膝の上に乗せて読むことはできないので、横に並んでページを一緒にめくり読んだ。
こういうことを愛加ともやれば、彼女の力になれたのかな。ふと思った。
愛加は好きな絵本の話をよくしてくれた。それを聞くだけで一緒に読んだことはない。絵本の奥深さを理解してなかった俺は恥ずかしくてできなかった。もちろん、俺の方が読むなんてやったことがない。
「これ、小学校の読み聞かせで読んでもらったことある。節分の時」
あまんきみこ『おにたのぼうし』を手に取って楓が言った。
あまんきみこも教科書でおなじみの人だ。
「小学校の読み聞かせって?」
「朝の10分間にお母さんたちが、読んでくれるの」
「へえ、お母さんに読んでもらう機会あるんじゃん」
「人のお母さんね」
「あ、そういうこと」
「ボランティアだから読める人しか来ない。うちのお母さんは一回も来たことない。まあ、高学年になると恥ずかしいから来て欲しくないけどね」
「そっか。これ、読む?」
「うん」
おにたのぼうし
節分の日。鬼の子の「おにた」はどこにも行けず、帽子でつのを隠して歩いていると、
豆のにおいのしない家を見つける。
病気のお母さんと女の子が住んでいた。
お腹がすいている女の子を喜ばせようと、おにたはごちそうを用意する。
だけど、女の子に
「だって鬼がくれば、きっとお母さんの病気が悪くなるわ。」と言われ
おにたは、姿を消してしまう。
いわさきちひろ の絵も合わさって、胸にずしりと残るものを感じた。
どんな読み方をするかは、人それぞれだけど、俺はおにたに自分と楓を重ねた。
鬼の子は鬼。
あのじじいの孫だから、
あの引きこもりの妹だから、
何も悪いことをしていないのに、悪く言われてしまう悲しさが痛い。
中3で孤立して、俺は教室に入れなくなった。
もちろん、家になんかいられない。
壊された傘を見て、だんだん、自分がそこにいなくなっていった。どんどん、遠くに行って、上の方で自分を見ている自分がいた。
すべてがバカらしくなっていく。
俺が何をしたというんだ?
ストレスのはけ口として、丁度よかっただけなんだ。
むしゃくしゃした時期の奴らは、少しでも自分より劣っている奴を標的にする。
自分だって、どうにかして欲しかったんだ。
自分のやったことがこんなに人を苦しめるなんて考えもしない。
だって自分たちだって、満たされないんだから。
自分の満たされない部分を誰かのせいにして埋めたいだけだ。
思いっきり豆をぶつけられる、存在自体が悪な鬼が欲しかったんだ。
俺は何もしていない。
いじめてくるやつだって、何もされていないの分かっている。
誰かの敵、悪い奴の血縁だから懲らしめていい。
八つ当たりする、言い訳が欲しいだけだ。
最近、絵本にやられっぱなしだ。
俺は堕ちていく姿を楓に見られないように、気楽そうな絵本を手にした。
歯医者とか病院に絶対1冊はあった絵本。わかやまけんの、こぐまちゃん、しろくまちゃんシリーズ。
「これ読もう、岐阜県出身わかやまけん」
「あ、しろくまちゃんのほっとけーき!!」
「これ見るとホットケーキ食いたくなるよな」
「分かります。リアルな絵じゃないのに、すごく美味しそうに見える」
「今度、俺んちで秋刀魚じゃなくてホットケーキ焼くか。去年、ホットプレート買ったけど、全然使ってないから。あ、でも、愛加は編入で忙しいから、来れないけど」
俺は楓に愛加と別れたことをまだ言えない。
彼女がいるから安心な奏田さんだから。
「ホットケーキぐらいなら、あたしもできます」
「じゃあ、しろくまちゃん、やるか」
「はい!」
こういう楓の妹キャラが心地よい。
俺は、完全に自分より幼い存在に癒やしを求めてしまっている。




