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二学期、君が死なないように  作者: 牧田沙有狸


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1.脳内ナレーション

2015年。月がやたらキレイな年だった。

中秋の名月にスーパームーン、38年ぶりにクリスマスが満月。

君との出会いは、統計で18歳未満の自殺者が一番多い、二学期が始まった日。

と、言っても二十歳の大学生である俺は、絶賛夏休み中だったけど。

 


「おう、兄ちゃんよ、あのカフェラテつうのは、砂糖入ってんのか」

 関西弁風の五十代ぐらいの柄の悪そうな男が、露出度の高いケバい女を連れて、レジにいる俺に聞いてきた。住宅街の隅にあるコンビニ。俺のバイト先。入り口横に立てられた “お店で挽き立てコーヒー、アイスカフェラテも登場”ののぼりが、風でそよぐこともなく日に焼けて色が薄くなっている。

「入っておりません」

 俺は、丁重に答えた。

「ほんとか~?」

「はい」

「なんや、他の店で頼んだら、こんな甘いの飲めるかーってのあったからよ」

「牛乳特有の甘みであって、それがお好みでなければ、コーヒーを飲まれた方がいいですよ。ボクは甘いとは思いませんが」

「そうか。兄ちゃんが甘くないって言ったんだから、カフェラテもらうよ。もし甘かったら殺すよぉ」

 趣味の悪い金のネックレスを提げた顔が、至近距離に来た。ケバい女が「やめなよー」と言いながら笑っている。俺はカフェラテ用のカップを差し出した。

「180円です」

 女が金を払い、男はさっさとカップを持ってコーヒースタンドに行った。俺は表情をピクリとも変えず、客観的に見て変えていないだろうと思われるぐらい無表情を意識して会計処理をした。

 ボクはなぜ、殺されなければならないんだ? 実際に殺されたりはしないが、こんなことで軽々しく殺されると言われ、笑われる。いつもそうやって、世の中の底辺にいる。何もしていないのに、悪口を言われていい人とされる。顔が言われてもいい人なんだろうか。何もしないのが最良の策だし知っているだけなのに、何もできない奴だから何を言ってもいいと!!!?? なんという不条理。

 ・・・・・・なんて、苦悩のナレーション脳内で呟いて、俺はムカつく出来事を客観視してふざけたコントに仕上げ、何もなかったように淡々と仕事をこなす。

「奏田さん、さすがっすね。冷静だ」

 クレーマー男が去ったのを見届けるなり、三歳下の川上君が尊敬の眼差しを向けてきた。

「あいつ、これで3回目だ」

「え、マジっすか」

 そう。慣れたもんだ。お客様は神様と勘違いしている人種が、店員は自分より立場が弱いから何を言ってもいいと主張する。文句言いたい放題だ。俺の接客態度が悪い、商品に満足いかない、店の雰囲気が悪い。どんなクレームでも聞く。いや、聞き流してテキトウにあしらってやる。頭のおかしい人達の戯言を聞くのも業務の一部、いや、慈善事業、徳を積んでいるんだと思ってやってやる。

でも、本当に、殺すとか、死ねとか、いい大人が軽々しく言うな。えせ関西弁で虚勢を張るだけの、言った本人が滑稽に見えるだけの、コント内だけで通用する言語であって欲しい。


 言いやすい。そんな理由で、死ねとか、殺すとか、言われていい人間なんていない。

 ボクが何をしたって言うんだ。

 ストレスのはけ口として、丁度よかったんだ。

 おい、のび太、むしゃくしゃするから一発殴らせろ。

 そういうノリだ。

 もちろん、そこにはジャイアンとのび太みたいな友情はない。

 むしゃくしゃした時期の奴らは、少しでも自分より劣っている奴を標的にする。

 自分だって、どうにかして欲しかったんだ。

 自分のやったことがこんなに人を苦しめるなんて思わなかった。

 だって自分たちだって、満たされないんだから。

 罪の意識のない奴らが、自分の満たされない部分をボクで埋めよとする。

 それを上手に交わしたボクを、

 ボクを守ってくれた人を

 結果的に苦しめた。

 ボクは、自分が攻撃されるより悲しい思いをした。

 ボクの泣き叫ぶ声は、セミが消してくれた。

 セミがうるさい。

 セミが、

 ミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーン


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