月子さんが助けてくれた
5日目
何かが変だ、と思いながらも、カオルは誰にも月子さんのことを相談できなかった。
本人に聞こうとか、誰かに相談しようとすると、なんだか邪魔が入るのだ。
諦めて、カオルはその日を終え、帰ることにした。みんなは部活に入ったようだが、カオルはまだ部活を決めかねていた。
それより家でやりたいことがあったので、カオルは1人で帰り道を歩いていた。
学校から5分ほど歩いたところで、生徒会長と月子さんを見つけた。二人は仲良くゆっくりと寄り添うように歩いている。
《ち、リア充、爆ぜろ》
よくよく見れば、二人はとてもお似合いだ。生徒会長は長身でイケメン。月子さんは、眼鏡っ子で髪の毛が異常に多いが、顔は可愛い。お人形さんのようだ。
二人を横目に、カオルが小走りに抜かそうとしたところだった。
そこは、細い横道があり、なんと、見えにくい角から自転車が勢いよく飛び出してきたのだ。
「あ!」
飛び出してきた自転車と、飛び出した形になったカオルは、ほんの一瞬のことなのに、妙に長い時間見つめ合った。
《轢かれる!逃げなきゃ!でも足が動かない。このまま、この自転車が私に突っ込んできて、お腹の辺りにバッチリ当たる・・・》
と、カオルの頭の中でグルグルと思考が回転している、その時だった。
カオルの前にバっと、月子さんが立ちふさがったのだ。
「月子!」
生徒会長の素敵ボイスが聞こえた瞬間。
― ドン! ―
と、自転車が月子さんにぶつかる音がした。月子さんの身体が、衝撃で一瞬ぐらついた。そして押された勢いで倒れ込んできた。月子さんの背中に押されて、カオルは尻餅をつき、そのまま月子さんがカオルの上にあおむけで転がってきた。
《あ、月子さんが、助けてくれた》
カオルの目の前には、派手な音を立てて転ぶ自転車と、あり得ない方向に曲がった月子さんの手首が見えた。
そして、気を失った。
◇◇◇
カオルが気が付くと、病院だった。
大慌てで駆け付けたお母さんがいた。月子さんや生徒会長の姿はない。
お母さんの話によると、自転車に直接ぶつかったのは、月子さんではあったが、月子さんは大した怪我もなく、そのまま家に帰ったということだった。
自転車に乗った青年は、警察に連れて行かれ、少しの罰を受けることになったらしい。
そして、カオルのところには、その青年からお見舞いが届いていた。事故ということで、カオルも警察に出向いて事情聴取をされるということだった。
色んな事が起こって、カオルは混乱していた。
しかし、わかっていたことは、月子さんが助けてくれたということだ。彼女がカオルの前に立ちはだかってくれなければ、もっと酷い怪我を負っただろう。
《月子さんは大丈夫だったのかしら。怪我をしていないから帰ったと聞いたけれど、本当かしら?彼女の折れた手首を見たような気がするのに》
しかし、カオルはなんとなく気づいていた。
月子さんが怪我を負わなかったのならば、彼女は普通の人間ではないのだろう。そう考えれば、今までの彼女の不思議な行動が理解できる。
ただ、誰もそのことを自分には教えてくれなかったが・・・
しかし、そんなことを考えてもしょうがない。今、考えなければならないのは、彼女にきちんとお礼を言いたいということだけだ。
彼女がどんな人間であれ、月子さんが助けてくれたことだけが、まぎれもない事実だった。
カオルが、月子さんの秘密に薄々気づいたということを、誰が知るだろうか。生徒会長は、今こそカオルのそばにいて、その気持ちを調査しなければならない時だということに、気づいていないようだった。