登場した月子さんを
4日目
次の日は朝から大雨だった。あんまりにも雨が強くて、心配した保護者が車で送ってくる生徒もいた。
そんな車を横目に見ながら、カオルは傘と長靴といういたって普通な恰好で登校中だった。そして校門をくぐったところで、ちょうど横付けされた車から、生徒会長が降りてきた。
「生徒会長、おはようございます!」
「おはようございます!」
「おはよう」
「きゃー!」
生徒会長の姿が見えると、校門付近にいた女生徒たちから黄色い声があがっていた。
それを見てカオルは、無駄に爽やかだなと思いつつも、その黄色い声についていけず、ついのけ反ってしまった。あまりその中に入りたくない。一緒にされるのは嫌なので、彼らが通り過ぎるのを待っていた。
しかし、生徒会長はなかなか歩き出さない。
人だかりは増える。
どうしたのかと思ったら、なんと同じ車から月子さんが出てきたのだ。
「気を付けて」
生徒会長が、傘をさしてあげながら、反対の手で月子さんのレインコートを押さえている。
そしてそれを見て、キャーキャーと騒ぐ女生徒たち。
《うるさい・・・》
カオルは、生徒会長と月子さんが一緒に登校したからと言って特に疑問には思わなかった。
近所に住んでいるのかも知れないし、途中で生徒会長が乗せてあげたのかもしれない。
ところが、登場した月子さんを見て、カオルは変な声をあげた。
「ウェ!?」
思わず口から出てしまった、カエルが潰されたような声を慌てて両手で塞ぐカオル。そして周囲の生徒たちを見渡した。
こんなに驚いているのは自分だけなのだろうか。
良いのか、あの格好で。
―― 月子さん?
月子さんの恰好は大雨ということを考慮しても異様ないでたちだった。
レインコートはわかる。レインハットも、まあ、良しとしよう。レインコートのフードはツバが狭い(もしくは無い)ものが多いので、頭部が濡れやすい。だからレインハットをかぶるのは、女子高生にあるまじきセンスとしても、この大雨だったらあるかもしれない。
しかしだ。
問題は下半身だ。
長靴という選択肢はわかる。ていうか、この大雨で長靴を選択しないのは逆にいただけない。
しかし月子さんが着用していたのは、長靴は長靴でもカオルの想像をはるかに超えていた。
《まさかウェーダーで来るとは》
カオルは自分の目を疑った。だいたい、制服のスカートはどうなっちゃったんだ?あのウェーダーの中に無理やり押し込んだのだろうか。そういえば、お尻の辺りがごわごわともたついているように見える。
胸まであるウェーダーに、たっぷりとしたレインコートとレインハット。そんな個体識別不可能な恰好をしているのに、月子さんだとわかるたっぷりした頭髪と大きな眼鏡。
実に異様である。
それなのに、そこに群がる生徒たちは誰も月子さんの異様な姿を気にも留めず、生徒会長だけに挨拶をしているのだ。
こういうものなんだろうか・・・
カオルはこの光景を受け入れるために、月子さんの異様さ以上に生徒会長が爽やかすぎなのだろうと思い込むことにした。
生徒会長は、月子さんが水に弱いということを印象付けないためについつい必死になりすぎていたことをカオルは知らなかった。
ウェーダー:魚屋さんや釣りの時に着用する腰や胸まである胴長靴のこと。ゴムでできたオーバーオールみたいなやつ。