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月子さんが個室から出てきた

3日目


 高1の理科の授業は、意外と簡単なものだった。

 理科の授業を受けながら《これって、中学の時やったことじゃん》と、カオルは思っていた。

 要は、中学の時の復習をしているのだ。先生はいつものように出席番号一番から、簡単な問題をポンポンと当てて行った。そして41番までは普通にやってきた。

 カオルが注目したいのは42番だ。先生は、躊躇せずに42番を指した。

「次。身体の呼吸を司る臓器はなんだ、綿貫」

「はい」

「正解」

 自然だった。

 自然な問いに、自然な回答だった。

 身体の呼吸を司る臓器は「肺」だ。

 あまりの自然さに、今度はカオルも、何とも思わなかった。しかし、カオル以外のみんなは、心の中で《グッジョブ》と親指を立てていた。



 その日のお弁当の時間、生徒会長が月子さんを迎えに教室に来ていた。

「生徒会長ってよく月子さんのこと呼びにくるよね?」

 カオルがヨウ子に聞くと、その仲間たちがみんなゴックンと変な嚥下音を鳴らした。

「ど、どうかな~、気付かなかったなあ」

 と、ヨウ子は困ったような、微妙な笑顔で濁していた。



 昼食を終えて、みんなでトイレに行った。すると月子さんがやってきてカオルの後ろに並んだ。

 順番に個室に入り、用を足してカオルが出てくると、月子さんの姿はなかった。まだどこかの個室に入っているらしい。

 水道でハンカチをくわえて手を洗っていると、月子さんが個室から出てきたのが鏡に写って見えた。

 手を洗い終え、カオルが月子さんに場所を譲ると、月子さんはカオルの方を向いて、ギっ、ギっ!と腰を折り、伸ばした。

 それから、水道の前に立ち、制服のスカートのポケットに手を入れて、何やらまさぐっている。そんなに大きなポケットではないはずなのに、必死になって手を動かしてハンカチを探しているようだ。そこにハンカチはない、とカオルは確信した。

「月子さん、ハンカチ貸してあげようか?」

 カオルが言うと、月子さんは首をゆっくりとカオルの方に向けて

「はい」と言った。

 それから、おもむろに、クルクルと水道の蛇口をひねり、信じられないほどの勢いで水を流し、辺りを水浸しにしながら手を洗った。


― ビッシャー! ―


「うわわわわ、つ、月子さん!水!水!」

 カオルが横から蛇口をひねって、水を止めると、月子さんは眼鏡をびしょびしょにしたまま、突っ立っていた。

「ちょっと、大丈夫?」

「はい」

 カオルはハンカチを月子さんに貸してあげると、月子さんは不器用に手を拭いて、まだ全然乾いていない手のまま、ハンカチを返した。

「ありがとう、ございままままま」

「う?うん」

 カオルは心配になりながらも、ハンカチを受け取った。

「失礼し・・・しまままま」

「ええ?」

 月子さんは、そのままトイレを出て行った。

 カオルが心配になって、月子さんを追ってトイレを出ると、廊下にヨウ子たちが待っていた。

「あ、カオルちゃん!遅かったじゃん!」

「お腹痛いの?」

「大丈夫?」

「カオルちゃん~、随分濡れてるけど」

 と、口ぐちに皆が言うものだから、カオルは月子さんを追うことができなかった。

「あの、いえ、あ、ほら・・・」

 月子さんがいかに変な動きをしていたのか、びしょびしょで心配だということすらも、彼女たちに伝えることをさせないほどに、ヨウ子たちはカオルに口を挟ませずにまくしたてた。



 どうやら月子さんは、無理して手を洗おうとして、どこかの隙間に水が付いてしまってエラーが出たようだ。




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