表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

その隣の席の子が月子さん

登校初日


 入学式から5日目に、中里カオルは初登校となった。

 ホームルームの時間に、前に立たされて先生が紹介した。まるで転校生のような扱いだ。

「今日からこのクラスの新しい仲間になる、中里カオルさんだ。みんな、早く溶け込めるように仲良くしろよ」

「よろしくお願いします」

 カオルが深々と頭を下げると、クラスの生徒たちから温かな拍手が響いた。一体何のための拍手なのだろうか。しかし、生徒たちは早くカオルに会いたかったのだ。思わず、拍手をして迎えてしまう気持ちは、まあ、わからなくもない。

「席はあそこだ」

 先生が指したところは、窓側から3列目の一番後ろの席だった。

 まだ入学して間もないため、出席番号順なのだろう。地元公立高校なので、見知った顔もあり、カオルはホッとしていた。

 カオルの列は女子で、右側の列は男子だった。カオルが座ると、右隣の男子が声をかけてくれた。

「中里さん、よろしく。俺、浜田マサオ。西中出身」

「あ、どうも。西中?私、六中」

 隣の席の浜田とカオルの出身中学はわりと近いところだった。塾の友だちでも浜田と同じ西中の子がいたはずだ。

 前に座っている子も、振り向いて声をかけてきた。

「西中なの?ウチ、三中、よろしくね。私ヨウ子」

「三中?近いね。ヨウ子ちゃんね、よろしく」

 そんな風に、斜め前の男子たちも代わる代わるカオルに振り向いては、挨拶をしてくれた。ホームルーム中だというのに、先生も気にしないらしい。

 とにかくみんな、フレンドリーだ。

 カオルは、インフルエンザなどになって高校生活を出遅れたと思っていたものの、意外にも大丈夫そうだと少し安心した。


 カオルの左隣の列は、男子列であったが、一番後ろの席だけ女子が座っていた。多分、このクラスは女子が一人、いや二人多いのだろう。

 カオルは左側に顔を向けて、その女子の顔を覗き込んだ。

 ものすごく髪の長い女子で、あんまり顔が良く見えなかった。腰くらいまである髪の毛を、二つに結んでいる。前髪のボリュームが妙に多くて、しかも長い。大量にメガネにかかっている。

「あの、よろしくね」

 カオルはその子にも声をかけた。

 なんとなく、クラス全体が自分を見ているような気がした。

 すると、隣の女子は目線と顔を水平に保つような、妙な遅さでゆっくりとカオルの方へ向いた。

「綿貫です。よろしくお願いします」

 そう言うと、綿貫はまた目線と顔を水平に保ったまま、ゆっくりと前を向いた。

 クラス全体がカオルと綿貫をジッと見ていたけれど、カオルはそんなクラスの様子など全く気にならなかった。

 ただ、綿貫のその目線が何か怖くて、もう前を向いてしまった彼女から、目が離せなかった。

 何か、違和感があった。

 別におかしなところは何もない。髪の毛が異様に多くて長いことだって、別に変なわけではないし、メガネをしているせいか目は大きく見えるけれど、きれいな目をしているし、顔も多分美人な類の方だと思う。カオルに向いたのはほんの2秒くらいだったので、よく見えなかったけれど、肌も綺麗だし、少なくとも不細工ではない。

 じゃあ、何が変なのかというと、多分その顔の動かし方が変なだけであって、それくらい個性なのだろけれど・・・カオルは、ホームルーム中、ずっと綿貫を見つめっぱなしであった。


 その隣の席の子が、ロボットであるということを、カオルは知らなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ