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まさか月子さんが

8日目


 カオルは月子さんのことをあまり気にかけなくなった。ように見える。教室でも必要以上に話しかけたりしないし、以前のようにどこへ行くのかを目で追ったりしなくなっていた。


 とはいえ、無関心というわけではないようだ。

 その時間は調理実習だった。

 数人ずつの班になり、決められたメニューを作る。今日の献立はキノコのパスタとジャガイモの甘煮とスープ。

 たまたまカオルと月子さんは同じ班だった。他にはヨウ子とあと3人の計6人チームである。

 さすがに高校生にもなっているので、みんな手際が良かった。

「じゃ、私たち玉ねぎやるから、そっちでジャガイモの芽を取ってくれる?」

「は~い」

「あとヨウ子ちゃん、ベーコン切ったらパスタ頼んでいい?」

「オッケー」

 チャチャっと分担して、楽しくお喋りをしながら作業に取り掛かっているが、カオルと月子さんは何も仕事がなかった。

 カオルは怪我をしているから参加できないのは仕方がない。しかし、月子さんは違うはずだ。カオルは直立不動で固まっている月子さんに気づいて声をかけた。

「月子さん、お料理苦手なの?」

「はい」

「そっか。じゃあ、シメジと舞茸を一緒にやりましょ?包丁使わないでできるから」

「はい」

 その様子を、他のメンバーたちが横目で見ている。しかし、ここで下手に口を出すことはできない。月子さんはやらなくていい、なんて言ったら、逆に怪しまれるだろう。

 カオルはキノコ類をボウルに入れて月子さんの前に置いた。

「こうやって手でちぎれば良いからね。ひと口大になれば良いから、2センチを目安に、1センチ以上3センチ以下でちぎってみて」

「はい」

 カオルの指示通り、月子さんは上手にキノコをちぎりはじめた。

「へえ、月子さん上手じゃない」

 ヨウ子が感心したように言った。まさか月子さんが、こんなに違和感なく調理実習に混ざれるとは思ってもなかったのだ。

 キノコの下ごしらえができると、カオルがヨウ子に言った。

「月子さんにパスタ任せて大丈夫と思うから、ヨウ子ちゃんはソースを頼んで良い?」

「え、良いけど」

「月子さん、パスタやってみたいのよね?」

「はい」

 いつの間に意志の疎通をしたのか、月子さんがパスタを茹でたいと言うので、ヨウ子は渋々というか、半信半疑でそこをカオルと月子さんに任せた。

「じゃ、月子さん、お鍋のここのラインまでお湯が吹いてきたら、このコップの水を100ccお鍋に入れてね」

「はい」

「45秒ごとにこれでパスタをかき混ぜてね。楕円に3周よ」

「はい」

「今から5分30秒たったら火を消して、あとはヨウ子ちゃんにお願いしてね」

「はい」

 そう言うと、カオルはそこを月子さんに任せた。

 他のメンバーはハラハラしながら月子さんを横目に見ていたが、月子さんはお湯を吹き溢すこともなく、きちんと時間通りにパスタを茹でることができた。

 こうして調理実習は月子さんを交えて問題なく終えることができた。

 試食の時間になると、月子さんはお腹が痛いと言って保健室へ行ってしまった。



 この日の月子さんはあまりにもロボットっぽさがなくて、クラスメイトの方が月子さんとカオルを遠ざけるのを忘れてしまっていた。



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