その名前は月子さん
3人称視点ですが、キャラクターの特性上、月子は”さん”付けになっています。
違和感があったらすみません。
公立縦横高等学校入学式。
その日、新入生中里カオルは欠席であった。流行の過ぎ去ったインフルエンザにかかっていたのである。
だから、カオルは知らなかった。
この学校には、いや、この学校の生徒会には、いや、カオル以外の全ての生徒たちはカオルの知らないヒミツを共有しているということを。そして、そのために、カオルは全校生徒から興味と憐みの目で、日々観察、いや、見守られることになった。
そのヒミツとはこうだ。
生徒会長は天才で、自力でほとんど人に見えるロボットを作り出した。ロボットの名前は”月子さん”。
生徒会長は、それをロボットであることを知らない人が見たとき、いつまで人間だと勘違いしてくれるだろうかという自由研究をしていた。
これに一枚かんだ先生たちは、教室に月子さんを置くことを許可した。
そうして、たまたま、入学式に一人欠席であった、カオルが月子さんを見て、それがロボットであると気づくのはいつか、研究対象となったわけである。
そして、この生徒会長の自由研究に協力するのが、高校に属するカオル以外の人間全てとなった。
彼らはみな、月子さんがロボットであることを知っていながら、普通の友人のように接する。そして、カオルには月子さんがロボットであることを知らせずにおくことが決められている。もし、故意であろうと過失であろうと、“月子さんがロボットである”というようなことをカオルに言ってしまった場合は、退学にさせられるという恐ろしいペナルティまである。
しかし、生徒たちはそんな理不尽なペナルティよりも、カオルが月子さんにいつ気付くのか、または気づかないでどんなふうに接するのかを見ることのほうが、ずっと楽しいということに気づいていた。だから、この生徒会長の自由研究に喜んで協力した。
すべての生徒と教職員が面白がって見守るこの壮大な自由研究に、カオルはいつ気付くことができるだろうか。そして、どんな反応をするのか、学校中が見守っていた。