表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

愛。

作者: 長井瑞希

 世の中には、いろいろな人が居る。例えば、真っ当な恋愛を経て結婚し、幸せな家庭を築く人。あるいは、他の何よりも好きなものがあって引きこもっている人。または、殺人衝動を抑えられなくなって連続殺人犯となってしまった人。この世界には、本当にいろんな人が居る。

 そんな、多種多様な人間がいるこの世界の中では、私の持つ個性など目立つようなものではないと思う。

 それが俗に言う、ヤンデレ、というものであっても。


 ☆  ★  ☆  ★  ☆


 自分で言うのも何だけど、社会の中での私の評価は「聞き分けのよい子」だと思う。

 人に頼まれたら決して断らず、にこにこして淡々とこなしていく。そんな、どこにでも居るような普通の女の子だ。

 ギャルゲーにおける幼なじみポジションにいるようなキャラクターだと自負している。

 そんな私にも、つい先日好きな人ができました。

 大学受験を直前に控えた状況で何をのんきなと思う人が居るかもしれません。ですが、恋をしてしまったその時から、女の子は1人の『女』へと昇華するものなのです。

 彼は、私に優しくしてくれます。面と向かってかわいいとも言ってくれます。私を気遣ってくれます。

 それだけでなく、勉強も教えてくれます。

 彼は今大学生なのですが、学校やバイト以外で時間が合えばいつも一緒にいてくれます。

 私は、そんな彼がどうしようもなく好きなのです。

 狂おしいとさえ思うほどに、愛しているのです。

 恋を、してしまっているのです。


 そんな私たちですが、今日は彼の様子がどこか変でした。

 体調が悪いのかと聞いてもそんなことはないと答え、私に笑顔で接してくれるのですが……私には分かります。これは、何かを抱えている、と。

「どうしたの?」

「……あのさ」

 ごまかせないと悟ったのか、ようやく口を開いてくれました。

「俺たち、ちょっと急ぎすぎてないかな? もっとゆっくりでもいいっていうかさ」

「は?」

「いや、別に嫌いになったとかそんなわけじゃないんだよ? ただ……」

「他に好きな人ができたと?」

「えっ!?」

「ああ、やっぱり。でも、ダメですよ?」

「ダメって、何を……?」

 うふふ。私がこんなにも愛しているというのに。こんなにも愛しているというのに!

 愛してるのにあいしてるのにアイシテルノニ!

「何を言ってもダメです。絶対に離しませんから」

「いや、まだ高校生だしさ……」

「離しませんから」

「そ、そういうところが合わないって思うんだよ!」

 あら? いったい何を言っているのでしょうか彼は。

「愛に障害はつきもの、なんですよ?」

「何を言って……」

「まぁ、いいでしょう」

「え?」

「離れたいというなら、勝手に離れていけばいいんです。ただ……」

 最後には私と一緒に居たいと思うようになりますけどね。


 ☆  ★  ☆  ★  ☆


 女の戦いというものは、それはそれはすさまじいものです。

 私は彼と別れたあと、花嫁修業にいそしみました。大学受験はしてません。

 料理を研究し、掃除を繰り返し技術を磨き、頼れる妻になるためにあらゆる知識を吸収しました。

 すると、あれから3年が経ってから、彼は戻ってきてくれました。

 この3年のあいだに、彼と付き合った女性には何らかの不幸が訪れていました。かわいそうですね。

 ですが、私は彼を幸せにできます。彼も私を幸せにしてくれます。まさにwin-winですね。

 花嫁修業は報われましたとさ。めでたしめでたし。


――


――――


――――――


――――――――


――――――――――


 これは、空白の3年の間に起こった、ある出来事である。

 夜。その日はなぜか街灯の光が弱々しく、闇が濃かった。

 その女性は、付き合っていた彼の家から自宅へと帰宅する途中だった。

 闇からぬるっと現れた1人の少女……いや女性が請う。

「申し訳ありませんが、彼と別れていただけませんか?」

「あ、あなた誰? どうして彼とのことを知ってるの!?」

「そんなことはどうでもいいのです。それより、彼と別れていただけませんか?」

「ま、まさかこれまでのことは全部……!?」

「これで最後ですよ? 彼と別れていただけませんか?」

「い、いやぁぁぁぁぁ!!」

「そうですか、嫌、ですか。ならば仕方ありませんね」


 後日、1人の女性の遺体が発見された。

 これといった外傷はなく、現代の科学では死因すら特定できなかったという。

 似たような事件がここ数ヶ月で頻繁に発生していながら、犯人逮捕の目処が立っていないこともあり、警察は無能の烙印を押され、1人の男が次に襲われるのは自分なのではと恐怖に駆られた。

 1人のヤンデレが不気味な笑みを浮かべていたが、それを知るものは誰も居なかった……。

関係を持った女性に別れるように詰め寄りますが、満足のいく答えが得られなかった場合は毒殺します。

彼女の花嫁修業とは、完全犯罪のためのものでもあったのです。

彼が最終的に彼女の元へと至ったのは、これ以上は心が耐えられなくなったからですね。

つーか、元カノが殺されても新しい彼女を作る辺り、彼はクズですね。

もしくは、その傷を治すために彼女を作ったのか。謎ではありますが、知ったこっちゃねぇぜ。

彼が刺されるだけで済むのか、はたまたそれでは終わらないのか。現実世界でそうなりそうな可能性をもつ友人には是非とも刺されてニュースに載って欲しい……おっと不謹慎でしたか。

そして、ヤンデレの皆々様には、このような形であなた方の愛をねじ曲げたことをお詫び申し上げます。

一個人としては、ヤンデレというものは少しばかり束縛力が強かったり愛が人一倍強かったりするだけだと思っております。私は、あなた方の恋愛を応援しています。

あー、ヒモになりたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ