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妖精王と会い、精霊主が現る

 

 そして、なぜか逃げるモーピアをモルティットが追いかけ始めた。アワアワして散り散りになるモーピア。なんか可哀そうになってきた。

「モルティット! もういいだろ? さすがに八つ当たりだよ」

 言いながら近づくと睨んできた。しょうがないなぁ。

「わかってるの! それになんでナオが一匹抱いてるの!?」

 ビシッと指をさしてきた。

「だって、モルティットの魔法で寒いから」

「プッ。なんでナオは普通に抱いてるの? 幻の獣なんだよ?」

 今度は吹き出して笑い始めた。怒ったり笑ったり忙しいエルフだね。

 俺が抱きしめているモーピアは大人しくしている。

「俺に用があるの?」

 抱えているモーピアに聞いてみると頷いた。おおー言葉が通じる。

「ダメだからね! お人好しさん!」

 モルティットが腕を取ってきて反対している。そっとモーピアを降ろしてモルティットを抱きしめる。

「ほら、この問題を解決した方が早く二人になれるよ?」

「もう! だったら、さっさと終わらせるよ!」

 プンプンしているモルティットが睨むと、モーピアはさっと俺の後ろに隠れた。怖がらせてるなぁ。

 腰を下ろしてモーピアを撫でて落ち着かせる。目を閉じて気持ちよさそうだ。モルティットは腕を組んで見ている。

「どんな用かな? 喋れるの?」

 そう聞くとモーピアは首を傾げ、トコトコと進んでこちらを見た。

「ついてこいってこと?」

 頷いてきた。ちらりとモルティットを見るとぶすっとしているが大丈夫なようだ。

 それからモーピアの後をついていった。


 しばらく歩くと霧が出てきた。霧には良いことが無いのでモルティットの手を取ってモーピアの隣を進む。

 霧の中を見失わないよう進んでいると開けた場所に出てきた。

 そこには巨大なモーピアが横たわっていた。三メートルぐらいありそうだ。

 恐る恐る近づくと頭を上げこちらを見た。大きいがつぶらな瞳…。なにを言いたいのか?

 全身を見ると足を怪我しているようだ。モルティットを見るとため息をついて近づいてきた。

「は~、わかった。言わなくてもわかるよ!」

 プリプリしながら怪我している足に手を当て詠唱を始めた。

 案内していたモーピアがトコトコ近づいてきたので抱きかかえた。撫でると目を細めている。嬉しいのかな?

 すると、霧の中から豪華な服を着た美形の子供が出てきた。

「ヘルリオーネ!」

「久しぶりだな、“契約者”よ」

 にこやかにお辞儀をしてきた。俺もお辞儀を返す。

「ちょうど良かった。ずっとお礼を言いたかったんだ」

「はて? 何もしていないのに、か?」

 かわいい子供の顔を傾ける。でも声は渋いぞ。

「あの“妖精の羽”だよ。おかげで大切な家族が助かったんだ。ありがとう」

「ハハハ、これは丁寧に。役に立ててもらえて嬉しいよ」

 嬉しそうにしているヘルリオーネ。あ、まだあった。

「あと、クルールの事だけど……」

「あの妖精の事か? ハハッ、心配性だな。彼女は人族に嫁いでいったのだ。だから安心してくれ」

「えー!?」

 意味がわからない。いつの間に嫁入り? だめだ、混乱してきた。このことは忘れよう。そうしよう。

 と、肩を叩かれた。振り返るとモルティットがいた。あ、治療は終わったのね。

「ふふっ。また問題なのかな?」

 怖い笑顔で言ってきた。やばい話題を変えよう。

「ほら、こちら妖精王のヘルリオーネ。彼女は俺の奧さんでモルティット」

「はじめまして妖精王」

 紹介すると優雅な仕草でモルティットが挨拶した。

「これはこれは、はじめして。今回もあなた達を呼んだのは私なのだ。ご立腹なのは承知しているが許してくれ」

「本音で言うと少し思う所もありますが、お役に立てて喜ばしい限りです」

 ヘルリオーネの言葉に微笑んでモルティットが答える。さっきキレてたじゃんと思いながら見てると睨まれた。

「そう言ってもらえて助かるよ。ありがとう。ではな…」

 妖精王はそう言うと霧のように消えていった。ふと周りを見渡すと、さきほどいた巨大なモーピアも消えていた…。


 そこは今までいた草原の中だった。空は快晴で柔らかい日差しが辺りを包んでいる。いつの間にか抱いていたモーピアもいなくなっていた。

「ほ、ほら、モルティットのおかげで早く終わったよ。俺からもありがとう!」

 言いながら抱きしめた。モルティットが耳元で囁く。

「ねぇ。クルールってどういうことかな?」

「それについては俺も知らなかったから! クルールは何も言わないし。よし! 聞かなかった事にしよう!」

 モルティットは困った顔をして、

「まあ、そうね。しょうがないか…」

 そう言って唇を重ねてきた。草原に押し倒しモルティットが上になった。

「さ、これで邪魔者はいないね。ふふっ」

 嬉しそうに微笑んで顔を近づけてくる。あー、なんていうか。めちゃ目に入ってるんだけど…。

「も、モルティット。横、横」

 目で横を示すとモルティットが顔を向けた。

 そこにはモーピアが一匹、佇んでいた。

「も、もう! なんで!?」

 モルティットが声を上げるとモーピアは首を傾げた。それをプルプルして見ている。

「ナオっていつもそう! ずっとわかってたよ。バカっ」

 声を上げたモルティットが抱きついて胸に顔をうずめる。何とも言えず彼女を抱きしめ頭を撫でていた。


 たそがれるモルティットを励ましながら夕暮れの道を歩いている。後ろにはモーピアがひょこひょこついて来ていた。

「なあ、悩みがあるなら聞くけど……」

 声をかけると恨めしい顔で見てきた。

「そうね、あなたのその体質をなんとかしたいよ。それが私の悩み。わかった?」

「えー。そんなコト言われてもさ、しょうがないし。またデートしようよ? ね?」

 モルティットの手を握る。

「…マクレイディアの気持ちがわかったかも。ホントにしょうがない!」

 そう呟いたモルティットは笑顔で、

「ごめんね、わがままで」

 謝る。

「ハハ。いいよ、ワガママでさ。それがモルティットだろ?」

「ふふっ。そうね」

 少し顔を赤らめモルティットが頷く。後ろのモーピアに手招きすると走って近寄って来た。

 モーピアを抱えてモルティットに聞いてみる。

「こいつってさ、何食べるんだろ?」

「さあ? 幻だからねぇ。皆と一緒でいいんじゃない?」

 そう答えながらモルティットはモーピアの頭を撫でている。目を細めて嬉しそうだ。

 馬車道に映る細く伸びた黒い影を従え、モーピアの話しをしながら帰宅した。


「そ、それって“モーピア”?」

 リンディがビックリして聞いて、カレラも驚いている。そしてロックは片隅で佇む。

「そ。ふふっ、驚いた?」

 モルティットが微笑んで答える。さすがにもう慣れたようだ。

 居間に行き降ろすとモーピアはキョロキョロして歩き回っている。新しい仲間にクルールとレミアは周りを回って楽しそうに観察している。

「しょうがないねぇ。ほら、そろそろ夕食だよ。話しは後で」

 マクレイはそう言うと目をキラキラしてモーピアを見ているフィアを伴って台所へ向かった。

「あ、私も!」

 カレラも手伝うようだ。パタパタ後をついていった。頑張れ!

 椅子に座るとリンディが隣に腰掛けて聞いてきた。

「ねぇ。どこで拾ったの?」

「あー、皆が揃ったらモルティットと説明するよ」

 苦笑いで答えた。何か想像ついたようでリンディは微笑んだ。

 やがて夕食ができたので皆で運んでから食べ始める。モーピアには猫まんま的なものをマクレイが出していたが嬉しそうに食べ始めていた。雑食かな?

 食事をしながらモーピアの顛末を皆に語る。時々、モルティットが補足してくれた。

「へぇー、妖精王はどこにでも出るんだねぇ」

 マクレイが感想を漏らす。あまり興味なさそうだね。

「でも、不思議ですね。モーピアは幻って言われているのに、ここにいるなんて」

 食べているモーピアを見ながらカレラは目を細めている。

「私も初めて見ました! あ、これ美味しい!」

 ベネットは食欲のほうが重要なようだ。頬張ってモグモグしている。

 賑やかな食事の後は片付けを手伝い、それから一人庭に行きくつろいだ。するとなぜかモーピアもついてきた。


「ここにいましタか。探しまシた」

 フィアが来た。何か用かな?

「どうしたの?」

「モーピアを見にきまシた」

 フィアはそう言うとモーピアの横に座って撫で始めた。

「フィアってモーピアの事、知ってる?」

 楽しそうに撫でているフィアに聞いてみる。

「ハイ。幻の獣と呼バれ、見ると幸運が訪れルと言われていまスが、書物によルと精霊や妖精に近い存在だそうデす」

「へえ~、だから現れたり消えたりするのかなぁ…」

 寝転びながら呟くとモーピアがくっついて座った。なんで?

「フフ。かわいいでスね」

 フィアもモーピアにくっついて寝転んだ。

 二人と一匹で横になって夜空を眺めると月がキラキラと輝いている。なんか心地いい感じ。

「おや、珍しいね」

 マクレイがひょっこり来た。手招きすると隣にくっついて手を握って寝てきた。

 しばらくそのままでいるとマクレイが囁く。

「……幸せだよ」

「俺も」

「ワタシもデす」

 俺とフィアが続けるとマクレイが頬に口づけた。

「ありがと、ナオ」

 はにかんでいるマクレイにお返しで唇を奪った。

 モーピアは頭を横にしてすでに寝ているようだ。早いね。

 辺りは幸福感に包まれいて、とても居心地が良い。これはモーピアの効果なのか? 不思議だ。

 ほんわかしていたらクルール達が来て俺の胸の上に寝てきた。レミアも笑顔でゴロゴロしていた。

 そのまま何も言わず美しい月を皆で眺めていた……。


 夜も更けて、それぞれ眠るため部屋へ戻った。クルールとレミアは熟睡しているのでそっと両手に持っていった。

 モーピアはそのまま庭で寝ているようだ。

 自室に戻り、妖精二人を専用のベッドに寝かせ一息つけると後ろから声をかけられた。

『こんばんは』

 振り返るとソイルがにこやかに立っていた。

「あれ? どうしたの? 部屋に出るなんて珍しいね」

『あ、あの、お話しがあります……』

 ソイルが俯いて言ってきた。何か重大な事かな? それとも警告?

「わかった。ベッドに座る?」

 そう聞くと頷いて二人でベッドに腰掛けた。なぜかソイルがピッタリくっついている。

「何かあるの? 危険なこととか?」

 先に尋ねると首を振って否定した。なんだろ?

 そしてソイルは目を見つめて口を開いた。

『私は長い間、この世界を見つめてきました。また、幾人との“契約者”と共に旅をしてきました。やがてナオヤを見つけました……』

「ああ、ありがとう。ソイルがいなければ今の俺はなかったよ。ハハ…」

 笑って答えたが、違うようだ。ソイルは真剣な眼差しで続ける。

『そして今回の旅は特別でした。わ、私は一人の若者に心を奪われ、胸が苦しくなりました。仮にも彼は人族。私とは生きる意味があまりにも違います。しかし、それを感じさせない彼の心はいつも温かかった……』

 ええ!? なな、なんで? ビックリして見つめているとソイルが抱きついてきた。

『もう、耐えられません、私は自分に正直になります。愛してます、ナオヤ』

「ま、待って! ソイル。気持ちは嬉しいけどっ…」

 慌てて言っている途中でソイルが唇で塞いでベッドに倒れてきた。そのまま深い口づけを交わす。って、ダメじゃん!

 理性をフル動員して、なんとか顔を離す。

『なぜです?』

 悲しい顔をして聞いてきた。ああ、どうしたらいいんだ?

「俺もソイルは好きだけど、恋人としては……。ほら、知ってるだろ? 奥さんがいっぱいいるし」

『関係ありません。私は婚姻などには囚われませんから』

「そ、それ以上迫られると理性が……」

 ぐいぐい来る。も、もうダメ、甘い吐息が…。助けてアーテル! みんな!〈フフ。受け止めてください……〉ええー!?

 ……

 ……精霊主と甘く神秘的な体験をしてしまった。そしてソイルは耳元で囁いた。少なくともこの家にいる間は俺の中へ戻らない事、俺達と共に生活する事を。


 部屋のドアをノックする。

「はい。あ、ナオ! と、え?」

 扉を開けて俺とソイルを見たモルティットは驚いている。

「ごめん、少しいいかな?」

 中に入れてもらい、モルティットに説明する。ソイルは顔が真っ赤だ。

 ニコニコしてた顔がみるみる恐ろしくなってきた……。わかる! わかるけれども!

「ナオ! そこに正座!!」

「はいっ!」

 怒りのモルティットが床を指さすと素直に応じた。こ、怖すぎる。

『まあ、どうして? ナオヤは悪くありませんよ』

 不思議な顔でソイルが聞いてきた。

「精霊主様、これはけじめです。事前に相談をしないのがいけないのです」

『それなら私も同罪だわ。それに“ソイル”と呼んでください、モルティット。今は同じ立場ですから』

 不機嫌なモルティットが説明するとソイルが応じた。ああ、助けて!

「わかりましたソイル。なぜ私の所へ?」

『ごめんなさい、しばらく服を借りたいのです。』

 はにかんでソイルが答えるとモルティットはため息をついた。

「…わかった。着替えたら下に全員集合するから。いい?」

『はい、ありがとう。優しいですね』

 ニコッと笑ってソイルはモルティットと服を選び始めた。


 沈黙が怖い……。今、俺は絶賛正座中。

 居間に全員が集まってモルティットとソイルから話しを聞いている。クルールとレミアは寝ているのでそっとしといた。

 そして説明が終わると再び沈黙が訪れた。

「……」

 ……重い。空気が重い。助けて! と、リンディが肩を震わせ吹き出した。

「プ。アハハ! 面白~い! あたし達と変わらないね!」

 モルティットがジト目でリンディを見ている。

「ま、こうなるとは思ってたよ。フフ、リンディの言う通りだね」

 マクレイはそう言うと正座している俺を立たせた。ふー、助かった。

『みなさん、よろしくお願いします』

 ソイルが皆に頭を下げた。その横に行き俺も頭を下げる。

「えーと、そんなわけで、仲良くしてもらえるかな?」

「私は大丈夫ですけど、その…他の精霊主様はいいのですか?」

 カレラが聞いてきた。

「え!? ハハ、ま、まさか、ね?」

 そう答えてソイルを見ると微笑んでいた……。あるの?

 フィアがお茶を運んできた。皆、受け取って一息つく。

 はー、長い一日だ。



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