お風呂へ入ってデートする
「あ、あの、ナオヤさん。皆さん、ご迷惑をかけました。ごめんなさい」
居間で落ち着いた頃にベネットが謝ってきた。泣きはらした顔が少しむくれていて目が赤かった。
「俺は気にしてないから。でも、もしベネットに何かあったら、ここにいる皆もそうだし、ダイロンも悲しむからさ」
そう微笑んで言うとベネットは頷いた。続けて、
「ま、後は気の済むまでここにいればいいよ。皆、ベネットの味方だよ」
そう言うとカレラが隣にいたベネットを黙って抱きしめた。リンディは温かく見守っている。
「皆さん、ありがとう」
ベネットは恥ずかしそうに礼を述べた。それから疲れているベネットを自室のベッドに寝かせると瞬く間に寝入っていた。
居間に戻るとリンディとカレラを庭へ誘った。二人とも不思議そうな顔をしていたが来てくれた。
「じゃあ二人とも目を閉じて」
そう言うと大人しく従ってくれた。リンディがにやけている…。バレた?
いそいそと昼に買ったネックレスを二人の首にかけた。もう二人ともわかったのかニヤニヤしている。
「はい、開けて」
言うが早いか二人が抱きついてきた。
「ホントはさ、デートの最後に渡そうと思ったんだけど予定が変わったから、家でゴメンね」
「そんなのどこでもいいよ! ありがと!」
「私もです。ありがとうナオヤ!」
リンディとカレラは満面の笑みで言ってきた。渡せて良かった、二人の笑顔に嬉しくなる。
と、後頭部に何かぶつかった。
顔を向けると怒りのクルールとレミアがいた…。
『ナオヤー。あたしたちにはー?』
ええ!? そっち? ああ、もう。
「ご、ゴメン。ほ、ほら、クルール達は小さいから特注で作ってるんだ。だから少し待っててね?」
そう言うと喜び始めた。ホッ、一安心。でも、後でフィアに言って作ってもらわないと。と思っているとリンディとカレラに押し倒された。
「……ナオヤ、私の話しを聞いてくれますか?」
カレラが真剣な表情で言ってきた。
「あたしは外そうかい?」
リンディが気を利かせるとカレラは首を横に振って
「いいえ、リンディにも聞いて欲しい。わ、私の家族だから…」
顔を赤らめ言ってくる。リンディは微笑んで頷いた。
「それで、どんな話しなんだ?」
聞くと抱きついた手に力が入るのがわかった。顔を伏せたカレラは語り始めた。
「あなたは過去にとらわれないとモルティットに聞きました。ですが、私の事をもっと知って欲しい……」
カレラの一族は森ではなく高地に住むエルフであまり他の種族との関わりを持たず暮らしていたようだ。
ある日、人族の集団に襲撃され一族が滅んでしまった。まだ幼かったカレラは重傷を負い虫の息だったが、ちょうど集団を追っていたバガン率いる“転移者狩り”に助けられ一命を取り留めた。やがて元気になるとバガンから襲撃者は“転移者”が首領をする集団だと教えられ、その時からカレラは復讐を胸に活動を共にすることを決意する。
それから月日が過ぎ“転移者狩り”の一員になったカレラはバガンから剣や格闘、狩猟に関する手解きを受け、みるみる腕を上げたようだ。その間、“転移者狩り”として危険な“転移者”や害を及ぼす者を相手にしつつ復讐の相手を探していた。
ある時、精霊の導きを受け、風の精霊との契約に成功すると立場が変わる。精霊と契約できる者は“祝福されし者”として非常に貴重な存在だったようだ。さらに、それまでの戦い方と違い、圧倒的な精霊の力が敵対者に対して効果がある事でバガンの右腕として並び立つことになった。
やがて復讐の相手を発見し討ち滅ぼす事ができたが、余りにもあっけない敵の最期、力の差に自身の体が震えた。このままだと自分が駄目になると悟ったカレラは退団を申し出たが、仲間達に引き留められ、その余りにも過酷な実情を知っているだけに暫くいる事を約束した。
俺達と出会ったのは、その後の事だったようだ。初めて敵対者に精霊使いがいる事がわかり慎重になったが、何故か突然内輪もめし始めて唖然としたそうだ。思い出すと恥ずかしいな、これは。そして俺が精霊を行使すると、自分との力量の差を見せつけられ背筋が凍ったようだ。さらに“契約者”と知って驚き、また、その謙遜ぶりにも驚いたようだ。そうなの?
「……ですが、なによりもナオヤがとても眩しく見えました。その姿が瞼に焼き付き、いつまでも消えないどころか、ますます鮮明になりました。ある時、私は気がつきました、それは恋いだと……。こんな血塗られた私がナオヤに出会えたのは幸運でした。想いが遂げられた今は幸せです。ありがとうナオヤ」
そう言い終わると軽く口づけをしてきた。リンディとカレラをギュッと抱きしめる。
「余り高評価だと後でガッカリするよ、カレラ?」
「フフ。そうならないように頑張ってくださいね」
頬を赤らめカレラが答える。リンディがカレラの手を握って話しかける。
「…大変だったね、カレラ。でもここにいるなら関係ないからさ。何かあればあたしも力になるよ、家族だもんね!」
「ありがとう、リンディ…」
それからしばらくその場に留まり互いの身体を暖かめ合った。
居間に戻るとマクレイとモルティットは戻っていて、お茶を飲んでいた。
リンディとカレラは挨拶するとお風呂場へ消えていった。ずいぶん仲が良くなったな。
「マクレイ、モルティット、今日はありがとう」
二人に声をかける。マクレイはギョッとし、モルティットは苦笑いしている。
「いつ気がついたんだい?」
慌てたマクレイが聞いてきた。
「ソイルが教えてくれたんだよ。ずっと見守ってくれたんだろ? ベネットをさ」
「ふふっ、さすがね。リンディ達が出てきたから私達は手を出さなかったの。三人には秘密にね、旦那様」
モルティットが微笑みながら答えた。
二人をそれぞれギュッと抱きしめてからフィアの部屋へ向かった。
ドアをノックし声をかけ中に入る。机に向かっていたフィアは顔を上げこちらを見た。
「どうしまシた? ナオヤさン」
「ごめん。少し相談があるんだけど…」
フィアはちょうどこの間、採取した花について調べている所のようだった。
「実はクルール達のネックレスを作って欲しいんだけど、いいかな?」
「もちロん! さ、始めましょウ!」
聞くと即答。なんていい子なんだフィアは。思わず抱きしめる。
「もウ! 嬉しいですケど、今じゃないデす!」
フィアが怒ってきた。ははっ、かわいいなぁ。
それから俺がアウルムに金属と鉱石を出してもらいフィアが加工して、小さなネックレスを作成した。
銀のチェーンにダイヤが輝くヘッド。とても豪華な小さなネックレスが二つできた。…しかしホント小さいな。
「とても綺麗デす。良い物ができましタね」
嬉しそうにフィアが完成したペンダントを見ている。
「ああ、なんか凄いのが出来た気がするけど…。フィアのお陰だ、ありがとう!」
そう言って、今度こそ抱きしめると目を細めてフィアが喜んでいる。
あまり夜更かししないように言い、部屋を出てクルール達の所へ行った。自分の部屋へ戻ると二人の妖精はいなかった。
居間に行き見るといない……。あれ? どこだ? フラフラどこかへ行ったのか?
と、風呂場から音が聞こえた。また風呂に入ってるのか…。
遠慮なく風呂場のドアを開け中に入るとマクレイがお湯につかっていた……。あれ?
「な、なななナオ!? そ、そそそそんなに一緒に入りたいのか?」
湯船に鼻までつかってブクブク言ってる。ハッ! これはチャンスだ! というか、なぜ今まで気がつかなかったのか?
いそいそと服を脱いで風呂に入ると、真っ赤な顔のマクレイが背を向けていた。髪を上げているため、うなじが真っ赤だ。
「マクレイ、こっち向いたら?」
「む、無理。恥ずかしいから!」
もうマクレイの耳まで真っ赤だ。かわいいだろ、これ。
肩に手をかけて振り向かせようとするが、凄い抵抗している。
「嫌って! ナオ! 明るいから恥ずかしいってば!」
マクレイが俺の手をギリギリ掴んだ。痛いが、我慢して離さない。ああ、ダメだ! 痛すぎる! もう無理!
肩から手を離して、後ろから抱きついた。ああ、肌が密着してるわ。もうマクレイは全身真っ赤だ、これ。
「ところでマクレイ」
耳元で囁く。
「な、なんだい?」
「クルール達を見なかった?」
「は!? そっち? なんで風呂に入ってきたんだい?」
真っ赤なマクレイが怒りながら振り返った。
「いや、なんとなく…マクレイがいたから」
照れて言うとマクレイはぶ然としながら頭に手を頭に持っていき、俺の前に差し出した。
そこにはクルールとレミアの二人がワクワクして座っていた。
「……いるじゃん」
感想を漏らすと真っ赤なマクレイが顔を逸らした。妖精二人はキャーキャー騒いでいる。
「クルールにレミア。後でプレゼントがあるから先にあがってもらっていいかな?」
そう聞くと二人の妖精は嬉しそうに頷いて脱衣所へフラフラ飛んで行った。ふー、一安心。
「で、ナオは?」
凄く睨んできた。マクレイの手を握って目を見つめる。赤紫色の瞳は戸惑っている様が見て取れた。
「ふ、風呂でするのもアリ?」
「あ!? ふ、ふざけてんの?」
もう真っ赤だ、俺もマクレイも。顔を近づけて声を上げる。
「本気だ! さ、湯冷めしないうちに!」
「い、イヤだよ!! 恥ずかしいって!」
マクレイが顔を遠ざけて逃げる。逃がさないように密着すると抵抗しだした。
二人で攻防を繰り広げていると風呂場のドアが勢いよく開き、怒りのモルティットが出てきた!
「もう! あんた達はうるさい!! いつまでやってんの!」
凄い勢いで怒られた。
「ご、ごめん」「ごめんよモルティット」
二人して謝る。それから大人しく風呂から上がり、モルティットに説教されながら着替えた。
苦笑いしているマクレイと膨れているモルティットにおやすみを告げて居間へ向かう。
居間で待っていたクルールとレミアへネックレスをプレゼントしてそれぞれ首にかけた。
二人は嬉しそうにクルクル回ってお互いに見せ合っている。
「これはフィアの力作なんだ。後でお礼を言ってね」
妖精二人に話しかけると笑顔で頷いて、早速フィアの部屋へ飛んでいった。かわいすぎだろ、もうメロメロ。
それからひっそりとマクレイの部屋に行き、小さくノックして中へ入った。
「な、ななんだ? どうしたの?」
ちょうど髪をとかしていたマクレイが櫛を片手に驚いている。
「いや、さっき風呂でマクレイを見ていたらムラムラしてきた」
「は? モルティットに怒られたばかりだよ?」
呆れて櫛を下ろしマクレイが言ってきた。
「それは風呂だから。今は部屋でしょ?」
「あ、まあ、そうだね」
「さあ、ほら!」
なんとなく納得したマクレイの手をとりベッドへ導いた。
「はぁ。なんでナオはこういうのばっかり強引なんだい?」
ベッドで下になったマクレイが苦笑して言ってきた。素直に従ってるじゃん。
「嫌なの?」
「馬鹿!」
そう言うと唇を重ねた。深く口づけを交わし確かめ合う。顔を離すと真っ赤なマクレイが囁いた。
「ほんと、馬鹿…」
めちゃくちゃ興奮して再び唇を奪うと熱い吐息が漏れた。もういいわ、世界がどうなろうとも!
それから激しく身体を重ね、朝チュンした。
翌日、朝の支度を済ませて居間へ行くとふくれ面したモルティットぽつんと一人いた。
「おはよー」
声をかけると無言で見ている。何故だ?
「ど、どうしたのモルティット?」
「今日はデートね! わかった?」
有無を言わさず怖い笑顔で聞いてきたので高速で頷いた。怖えぇ。
よくわからないがモルティットを抱き寄せる。素直に従ってギュッとしてきた。
「もう、なんだがもどかしいよ…」
「仕方ないだろ、嫁だくさんなんだから」
モルティットが甘えてきてた。かわいすぎる。唇を奪うと応じて満足したようだ。
それから椅子に座り直すと皆が入って来た。互いに挨拶する。
フィアが朝食を作るのをモルティットとマクレイが手伝っていて、その間、リンディとカレン、ベネットと楽しく話しをしながら待っていた。ベネットは昨日の事もあってか、少し恥ずかしそうにしていたがいつも通りに接した。
朝食後、モルティットとデートに手をつないで出かけた。なぜかリンディとカレンが手を振って見送っている。
「ふふっ。じゃあ、行きましょ!」
上機嫌なモルティットが先導していく。この状態の時は無茶苦茶美人でかわいいのになー。
商店街には寄らず、そのまま森と反対側の草原へ歩いて行く。モルティットは片腕にべったりくっついている。
「毎日見てるけど、こういう所に来ると新鮮でいいね!」
「そうだね。でも俺は飽きないけど、モルティットは綺麗だし」
モルティットにそう答えると頬を赤くして怒りはじめた。なんで?
「もう! ずるい!」
体ごとギュッとしてきた。ああ、怒ってるんじゃなくて照れてたのね。
やがて見晴らしの良い場所に出た。
布を敷いてくつろぐ。お昼まではまだ時間があるな。
今はモルティットの膝枕で横になっている。ニコニコしている顔が下から見える。
「ふふっ、こうしてると思い出すね」
微笑みながら言ってきた。ああ、昔の話しだぁ、恥ずかしいからやめて!
「……」
「あら? 何か思い当たった?」
「モルティット!」
そう言ってモルティットのお腹に顔をうずめる。いい匂いがするなぁ。ふふっと声が聞こえて髪をすいている。くそー、からかわれてる。
それからお弁当を広げてお昼にした。
「他に行きたい所はある?」
「うーん、ここでいいかな。他に誰もいないしね!」
笑顔で言ってきた。うっ、かわいい。
いそいそと食べ終えて、一息ついてからモルティットを押し倒した。
「もう! 早いよ!」
「いや、今がその時だ!」
呆れたモルティットが言ってきたが構わず唇を重ねると情熱的に返してきた。早くないじゃん!
甘い吐息が漏れるとさらに興奮してきた。と、肩が叩かれた。なんだ?
「今、取り込み中だか……」
言いながら振り返るとペリカンみたいな頭の細長い二本足の獣が俺の肩をつついていた……。何者?
とっさに言葉も出ず、つぶらな瞳のペリカン顔と見つめ合う。
「もーー! なんでなの!!」
叫びながらモルティットが起き上がって獣を氷の粒で追い払う。ペリカン頭の獣はビックリして逃げ出した。
憤慨しているモルティットに聞いてみる。
「あれ、何?」
「あれは幻の獣と言われている“モーピア”! 出会うと幸せになれるんだって!」
「いや、知ってて追い払ったの?」
「当たり前でしょ。私はナオと二人きりになりたいの!」
怒って言ってきた。幸せより俺を選んでくれるのは嬉しいけど、ストレスが溜まってるのかな?
モルティットを抱きしめて囁く。
「ほら、落ち着いて。いつでも二人になれるから、ね」
「うそ。いつだって邪魔が入るよ」
ギュッと密着して反論してきた。もう、しょうがないな。
「誰も邪魔しないから。さっき追い払ったろ?」
「……そうね。じゃ、キスして」
今度は甘えてきた。リクエスト通りに熱く口づけを交わす。……ふと気配を感じ顔を上げる。
「……も、モルティット?」
「なに? 何でやめるの……え!?」
モルティットも気がついたようだ。なぜか周りをさっきのモーピアがたくさん取り囲んでいた…。
一匹が近づいて俺の肩をつつく。何か用でもあるのかな?
目を見つめて意思の疎通を図ろうとした時、プチッと音が聞こえた。
「ああああああ! もーーーー! 邪魔するな~~~~!!」
怒髪天のモルティットが叫ぶと辺り一面吹雪になった。さ、さぶい! とっさに肩をつついた一匹を抱き寄せる。はー、少し暖かい。
「いい? 今日はナオと二人がいいの! 用があるなら他の日にしてちょうだい!!」
怒りのモルティットは吹雪の中、うろたえてるモーピア達に怒鳴っている。なんで俺の嫁さんは皆、攻撃的なんだろうか?




