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新しい同居人と蛇

 

 怖い。家に入るのが怖い。特にモルティットが怖い。

 そんな俺とベネットは家の玄関前で佇んでいた。

「どうしたんですか? 入らないんですか?」

 隣のベネットが聞いてくる。なんでそんな安心しきってるんだ? あーもう!

 意を決して家に入り居間に行くと、待ってましたとばかり全員が集まっていた。

「お帰り。ナオ」

 気がついたマクレイがにこやかに出迎えた。

「た、ただいま。ちょっと、皆に話しがあるんだけど…」

「ふふっ。だいたい検討はつくけどね?」

 モルティットが怖い笑顔で言ってきた。あーもうバレてる。

「ダイロンの頼みでベネットを預かることになった。異論は認めない! というか、ダイロンが王都でいろいろ情報を得たらしくて……」

「あー。あたしの事もバレたんだ!?」

 俺の言葉にリンディが反応した。愛想笑いで肯定する。

「はぁ~。そうだと思った」

 モルティットが頭を抱えている。珍しいな。

「あ、あのー。末永くよろしくお願いします」

 照れているベネットが勘違いしそうな挨拶をしてきた。皆、苦笑いで応えた。


 急に立ち上がったモルティットに庭に連れてこられた。

「もう! なんでこうなるの!」

「ご、ゴメン。でも不可抗力って言うか。でもベネットと結婚するわけじゃないからさ、皆の妹的な感じでいいと思うけど?」

 かわいく怒られ、言い訳するとモルティットが続けた。

「ナオがそれでいいなら、しょうがないけど。いい? ただでさえ二人の時間がないの! わかる?」

「えー。それを言うならマクレイ達だってそうじゃん?」

「それはそれ! これはこれ!」

「あーもう!」

 そう言ってモルティットを抱きしめる。胸に顔をつけてモルティットもギュッとしてきた。

「ごめんね」

 耳元で囁くとモルティットが顔を上げ微笑んだ。

「ふふっ。わかった」

 そう囁き返すと唇を重ねた。と、おなじみの鼻息が聞こえる。

 モルティットと顔を離して音の方を向くと柱の陰からベネットが見ていた…。怖っつ!

 気がつかない振りをして何事も無かったようにモルティットを引き連れて居間へ戻る。

 居間にはまだ全員いて注目を浴びている…。モルティットは頬を染めて、何事もない風に椅子に座った。

「あー、お風呂行こうっと!」

 そう宣言して俺は風呂場へ逃げる事にした。あー怖い。


 お風呂に行くとクルールとレミアが待っていたので、三人で楽しくお風呂に入った。

 特にレミアはお風呂がお気に召したようで一日二回は入っていた。

 風呂を上がり居間へ戻ると皆、それぞれに過ごしていたのでベネットに声をかけ二階の部屋へ案内した。

「ここが私の部屋ですか? お屋敷より広いんですけど…」

 中を見渡してベネットが感想を漏らした。部屋には必要な家具や机、ベッドしかないので広々見える。

「大丈夫だよ。必要な物が欲しい時は言ってくれれば作るか、買いに行くから。じゃあ明日!」

 そう言って去ろうとするとベネットが袖を掴んできた。

「あ、あの…。私って、そんなに魅力が無いですか?」

 少し顔を赤らめ聞いてきた。襲われたいの?

「いや、魅力はあると思うよ。ただ、俺には妹みたいに感じるだけで」

「え? い・も・う・と?」

 すっごいショックを受けた顔で見てきた。えぇー。

「ほ、ほら! 今日は疲れただろ? さ、ゆっくりしてくれよ!」

 無理矢理ベネットをベッドに座らせて部屋を出る。これは後で誰かにフォローを頼まないと…。


 慌ててマクレイの部屋へ行き、ノックをして中に入るとフィアと二人で何かをしていた。

「ナオ! どうしたんだい?」

 マクレイが来た。とりあえず手を取ってベッドにお互い腰かける。フィアが不思議な顔で頭を傾けた。

「ちょっと相談したいことがあるんだ……」

 と、先ほどのベネットの話しを聞かせた。

 最初神妙な顔で聞いていたマクレイは最後には呆れていた。フィアは難しい顔をしている。

「はぁ~。ナオもさ、少しは気づいてあげなよ」

「ええー! だって気づくもないじゃん! いつ惚れたんだ?」

 驚いて言うとフィアが、

「夕ご飯の時はよくナオヤさンを見ていましタよ?」

「マジで!? だからって…」

 もうよくわからん! 隣のマクレイに抱きつく。

「ほら。そんな事しても事態は好転しないよ?」

 マクレイが俺の頭を撫でながら言ってくる。すごく優しい…。スパルタなマクレイが優しい…。泣けてきた。

「な!? なんで泣くんだよ? アタシ何かしたかい?」

「ち、違う…。優しさが嬉しくて…」

 そう言うとギュッと抱きしめてきた。

「フフ。馬鹿だねぇ、旦那には優しいよ」

 マクレイが耳元で囁いてきた。ジーンとしてくる。一緒になって良かった。

 顔を上げると微笑んでいる。かわいすぎだろ、これは!

 思わず唇を奪うと返してくる。ああ、ダメだ止まらない。と、

「あノ、ワタシいますカら……」

 顔が真っ赤なフィアが言ってきた。ハッと思い、マクレイと同時に離れる。お互い顔が真っ赤だ。

「ご、ゴメン、フィア」

「イイエ。でも目の前でされルと、目のやり場に困りマす」

 フィアは恥ずかしそうにしている。マクレイはそっとフィアを抱きしめた。

 なんか悪い事をしてしまった。反省。

 それから話し合ってマクレイとファイにベネットの様子を見てもらう事にしてもらった。


 翌日、朝食を終え片付けを手伝っているとベネットが台所に来た。

「何かお手伝いしましょうか?」

「ありがとう、もう終わるから大丈夫だよ。後でギルドに行く時に呼ぶよ」

 そう言うと嬉しそうに頷いて居間へ向かって行った。それを見て隣で作業しているフィアに聞く。

「ねえ、フィア。昨日はベネットの部屋に尋ねたの?」

「ハイ。行って話しを聞きまシた。ナオヤさン、頑張ってくだサい……」

 少し顔を赤らめて答えるフィア。が、頑張れって、これはいつものだよね?

「マジか……。どうしてこうなるの? ちなみにフィアって俺の事、どう思ってるの?」

「もちろん好きでスよ。フフ」

 そう言って抱きついてきた。かわいいなぁ。サラサラな銀色の髪を撫でると嬉しそうだ。

「俺も好きだよ。って、痛て!」

 フィアに言うと後ろから叩かれた。振り返ると怒りのモルティットがいた…。

「ああ、ち、違うから! 家族的な“好き”なんだよ! 大切な家族ってこと!」

「嬉しいデす!」

 慌ててモルティットに説明するとフィアがギュッとしてきた。するとモルティットはため息をついて、

「もう! フィアちゃんじゃないよ。ベネットの事!」

「ああ、そっち! 何かあったの?」

 慌てて聞くがモルティットは膨れて、

「あの子、デートとか言ってたけど? どうなの?」

「ええ!? ギルドに行くだけだよ。どうしてそうなるの?」

 ビックリして答える、するとモルティットが噴出した。

「プッ。ああ、そうなのね。ふふっ、みっともないね、私」

 モルティットが恥ずかしそうに抱きついてきた。

「ひょっとして妬いてたの?」

 頭をグリグリしているモルティットに聞くと、無言でギュッとしてきた。ははっ、面白い。

「フフ。こんなモルティットさンを見たのは初めてデす」

 フィアも笑っている。顔を赤くしたモルティットは何もなかったように誤魔化しながら逃げて行った。もう遅いよ…。


 というわけで、ベネットとギルドに着いた。

 中に入ると受付にダイロンが座っていた……。

「え? ダイロンってもう復帰してたの?」

「おお! 来たのか! どうせ引き継ぎもないだろ?」

 嬉しそうにダイロンが言ってくる。そうなのか…。

「確かに特に伝える事も無いけど…。どうしようか? せっかく来たから少し冒険者的な事をする?」

 ダイロンに答え、横にいたベネットに聞く。突然でビックリしたのか、

「え!? ぼ、冒険ですか! えっと、お父さん?」

 自信なさげにベネットがダイロンに振るとにこやに、

「いいじゃないか! せっかく冒険者に登録したんだからな。行ってこい! 初めての冒険だな! ワハハ!」

「ええ!? ベネットって町から出たことないの?」

 ビックリして聞くとダイロンは笑って答えた。

「俺と一緒なら出たとこは何度もあるがな。ワハハ」

 マジか……。いきなりハードルが上がったんですけど。ちらりとベネットを見るとワクワクな顔をしている。…余計な事を言ったような気がする。

「わ、わかった。じゃあ少し出てみるよ。行こうかベネット」

「はい! がんばります!」

 両手を握って気合を入れてる。いや、薬草取りだからね? 俺も危険な所は怖いし。


 アルルの町を少し離れた森の近くへ来た。懐かしいなぁ。昔はこの辺でよく薬草を採取していたのを思い出した。

「あの? ここで何を?」

 辺りを見渡したベネットが尋ねてきた。え? そこから?

「ああ、この辺で薬草を取るんだ。地味だけど冒険者の第一歩って感じがするな。俺も薬草取りまくってたよ」

「あー! あれってナオヤさんだったんですね。前に薬草だけが余ってた時があったんです。私も薬を作るのを手伝いましたよ!」

 ベネットが嬉しそうに言ってきた。しかし、俺はショックを受けている。供給が多かったわけだ…。ダイロンには悪いことをしたなぁ。

「そ、そうか。ベネットは他の素材とかわかるかな?」

「そうですね…。でしたらビックラビットとかはどうですか? 皮はなめして使えますし、肉は食べれますよ!」

「無理!」

 ベネットの提案に即座に拒否した。断られるとは思っていなかったのか悲しい顔をしてる。ああ、もう。

「ちょっとベネット。俺達の装備を見てみなよ。武器になるものは短刀ぐらいだろ? それにどつかれたら大ケガするよ」

「た、確かにそうですね。武器がなければ…。って、ナオヤさんは“契約者”なんですよね? だったら精霊様を使えばいいじゃないですか!」

 やっぱり言うと思った。そんなに便利なものじゃないんだよなー。

「これくらいの事でソイル達を使うのは悪いよ。危険が迫ってるわけじゃないしね」〈フフ、気にしないで。優しいですね〉

「そうなんですか?」

 少し納得がいってないベネットが聞いてくる。

「そういうこと。自分達で出来る事はしないとね。じゃ、薬草を取ろうか?」

「確かにそうかもしれませんね。できる事から頑張ります!」

 ベネットは納得したようだ。

 それから二人で薬草を採取して、切りのいいところで休憩した。


「はぁー。なんか開放的でいいですね。それにナオヤさんといると気が楽です」

「そう?」

 フィアに作ってもらったお弁当を食べているとベネットが言ってきた。いつもみたいにガッツいてないぞ。

「普通なら男の人と二人になったら大変だけど、何もないってわかってると警戒せずにいいですからね」

 にこやかに語っている。

「えーでも、サッキュバスなら自分でいくもんじゃないの?」

 そう言うとベネットが真っ赤になって怒ってきた!

「ナオヤさんはどういう認識なんですか!? サッキュバスだからって、いつも欲情してるわけじゃないです!」

「そ、そうなんだ。ごめん。知らなかったよ」

 あまりの剣幕に慌てて謝る。するとプッとベネットが笑い始めた。

「あははは! もーいいですよ。でも、ナオヤさん達がこの町に来てくれてよかったです」

「そう? 皆の役に立てれば嬉しいよ」

「すごく役に立ってますよ! だって、町のあちこちを直したりキレイにしてるじゃないですか。お父さんが言ってましたよ“領地の整備費用がかからずに助かってる”って!」

 嬉しそうに語るベネットだが、それは違うぞ、意味が違う。

 言いかけようとした時にソイルから警告がきた。

「ベネット、ここにいて」

「え? あ、はい」

 俺の真剣な表情に硬くなったベネットが答える。その場から立ち上がり警告が来た方へ向くと振動を感知した。一匹だけかな?

 と、茂みから巨大な蛇が出てきた。でけぇ! 丸呑みされるな、これは。

「じ、ジャイアントスネーク……」

 後ろから声が聞こえる。ジャイアントスネークって言うんだ。そのまんまだね。

 ジャイアントスネークは俺を警戒して静かに近づくと、一気に襲う体制を整える。

「ニクス!」

 すると一瞬でジャイアントスネークが凍った……。あれ? 前よりも効果が上がっている。〈それはナオヤさんのお陰です。精霊が満ちていますから…〉なるほど、ありがとう。

「……」

 ベネットも固まっている。振り返えって愛想笑いし、

「これ、どうしようか? 持って帰る?」

 そう聞くと我に返ったベネットは噴出した。

「プッ。ビックリしました! 凄いですね!」

 笑いながら言ってきた。

 とりあえず昼食の続きをすましてから、凍っているジャイアントスネークの周りにある薬草を見つけて採取した。

「あのー、本当にどうします?」

 ベネットがジャイアントスネークを見ながら聞いてきた。

「今、ロックを呼んだからそれまで待ってようか。来たらそのまま町へ帰ろう」

 そう答えて、適当な場所に腰を下ろした。

「え? 呼べるものなんですか?」

 そう言ってベネットも横に座ってきた。

「そうか! 教えてなかったけどロックは俺の護衛みたいなところもあってさ、念じると通じるんだ」

「へ~。いいですね。私も念じてみようかな?」

 ベネットが頭に指をつけてる。

「ハハッ。がんばれば通じるかもね」

 笑いながら言うとベネットが真っ直ぐに俺を見つめてきた。

「通じました?」

「は? 俺に言ってんの?」

「……無理でした」

 寂しそうな笑顔でベネットは顔を背けた。なんとなくわかるけど知らない振りをしておく。

 少しぎこちないまま待ってるとロックがやってきた。

「ロック!」

「ヴ」

 ロックに説明すると、凍ったジャイアントスネークを軽々と持ち上げて俺達の後についていった。


 特に何事もなく町へ着き、ギルドへ直行した。

「おや、早いな。どうせ薬草取りだから飽きたのか?」

「聞いてお父さん! ジャイアントスネークが出たの!」

 暇そうなダイロンが声をかけるとベネットが興奮して言ってきた。

「なんだと! この辺じゃ珍しいな。死骸は持ってきたのか?」

「それがナオヤさんが凍らせて、そのまま持ってきたの!」

「まるごとか!? どこにある?」

 今度はダイロンが興奮して言ってきた。なんだ?

「外にあるけど……」

 ギルドの出入り口を指すとダイロンがダッシュで見に行った。後からついていくとロックが抱えている凍ったジャイアントスネークを検分していた。俺達が来ると嬉しそうに言ってきた。

「これは状態が良いな! むむ、お祭りだな!」

「え? これから?」

 ビックリして聞き返す。

「ああ。鮮度が良いうちに食べないとマズいからな! よし、広場に集合だ! 周りに声をかけてくる!」

 そう言うとギルドをほっぽり出して町中へダイロンは消えて行った…。行動早すぎ!

 しかたないので俺達も一旦家へ戻り、家族に伝え、支度をして広場へ向かった。

 途中で出来る限りの町民に声をかけた。



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