住人が増えて町らしくなる
翌日、さっそくアビアは町から離れた場所にいる国王の部隊を町に案内した。
どういう説得をしていたかは謎だ。ただ、町に入る部隊を見たハドーの唖然とした顔と部隊長のすまなそうな顔が印象的だった。
一応、部隊用の宿舎を建てたのでそこに過ごしてもらう予定だ。もちろんできる仕事はお願いする。
その辺の許可はダイロンとハドーに取ってある。ダイロンは笑いながら、ハドーは苦笑いで承諾してくれた。
今日はめずらしくマクレイと二人でお出かけしている。
町の外側には部隊が隊列を組んで回っているのが見える。手を振ると気が付いたのか振り返してくれた。
「なんだか馴染んでるねぇ。最初は嫌々だったのにさ」
苦笑いでマクレイがその様子を見ている。
「ま、いいんじゃない? なんかお風呂とか喜んでたし。あと、マクレイが稽古つけてるから楽しそうだよ」
「フフ。あいつら少しはイイ顔になってきてるしねぇ」
ニコリと笑いかけられるので握っている手で応えその場を後にした。
町に来た部隊は真新しい宿舎に驚きベッド付きの個室に喜び、食事に感動していた。ちなみに宿舎の食堂へはメイドが当番制で作りに行っている。いつか人を雇うか……。
一度ベネットが手伝いに行った時はサッキュバス効果で目がギラギラした部隊員に襲われそうになり、その場にいたマクレイがボコボコにして難を逃れた。それ以来ベネットは部隊に近寄らないようにしている。その話しを聞いて初めてベネットの能力を実感した。
その後、矯正のためマクレイとリンディが訓練をして、町の外側の巡回や整備など手伝いを始めて今に至る。
二人で町を離れて草原へ出る。爽やかな快晴で付近には誰もいない。
見晴らしの良い所で布を下に敷いて二人で座る。
「久しぶりだね」
お弁当を用意しているマクレイに笑いかけると微笑んで応える。
「フフ。外では確かにそうかもね」
用意し終わるのを待って抱き倒す。
「ち、ちょっと! ナオ! まだ早いって!」
「いや、今がその時だ!」
マクレイを下にして顔を近づけると頭をつかまれる。あ! ギリギリして痛てぇ!
「あああああ! マクレイさん! 痛いです!」
「アタシは早いって言ってんだよ!」
鬼の形相になったマクレイが俺の頭をつかんだまま離れる。痛いままだ!
「もう! すぐコレなんだから。少しはガマンしなよ!」
「ごめんなさい! ガマンします!」
謝り倒すと解放してくれた。顔が真っ赤だぞマクレイ。
そのマクレイはなぜか胸元を広げて下を向くと囁く。
「もう出てきても大丈夫だよ」
え? 何? と思っているとマクレイの胸元からクルールとレミアが出てきた。
「な、なんでいるの?」
「この娘達が一緒に行きたそうだったから、さ」
赤い顔で答えるマクレイ。だから抵抗したのか……。自由になったクルール達は俺達の周りをフラフラ飛んでいる。
「早く言ってよマクレイ!」
「なんでさ? ナオが無分別なのが悪いのさ」
苦笑いで言われるが納得いかない。俺が憤慨しているとクルール達が頭に降りてきた。
お弁当の蓋をあけながらマクレイは赤い顔を下に向ける。
「それに目的があるんだろ? この間も二人で出かけたら押し倒したじゃないか」
「む。でもその時は応えたじゃん!」
膨れてマクレイを見ると顔を逸らしている。耳がピクピクしてるぞ。
それから楽しそうなクルールとレミアを交え昼食をする。水はアクアに出してもらった。
「で、どうすんだい?」
落ち着いたところでマクレイが聞いてくる。ふと周りを見るとクルールとレミアが草を使って遊んでいる。
「一応、ダイロンには許可は貰ったけど、どの辺までがいいかな?」
「そうだねぇ。放牧地は除いて農地の外側を取り囲むようにすればいいんじゃない? どうせ広げるときはナオが直すでしょ」
顎に指を当てて考えてこちらを見る。なるほどね。
「ま、そうだね。そうしようか。お城みたいに堀は必要かな?」
「う~ん、あってもいいけど、川を通すと住み着く魔物も出るかもしれないからやめた方がいいね」
「さすがマクレイ。じゃあ壁だけでいいか」
笑顔で褒めると照れたマクレイがギュッと抱きしめてきた。かわいい。
とりあえず話しがまとまったので、さっそく造ろう。
「ソイル、アウルム」
精霊主を呼び出すと草原の先に背の高い壁が次々と地面から盛り上がって造られ、周囲を取り囲むように出来上がっていく。
「はぁー、何度も見てるけど凄いねぇ」
マクレイが感嘆している。凄いのは精霊主なんだけどね。〈そのような事はありませんよ〉ありがとう。
満足して振り返るとエルフがキョトンとしている。妖精達は壁が出来る光景を楽しんで見ている。
「さ、終わったし、続きをしようか?」
「は? そんな気分じゃないよ。今はこれでいいだろ」
するとギュッと抱きしめてきた。お預けをくらったがしかたがない……。軽く唇を奪うと返してきて微笑む。
「これ以上はダメだよ。ナオはすぐ調子にのるからね」
「……」
少し睨んで顔を離す。……当たっているだけに何も言えません。
それから寄り添って座り新しくできた壁と景色を楽しんだ。しかしクルールとレミアは興奮してチュッチュしてくる。
マクレイは顔が真っ赤になりながらその攻撃を耐えていた。
夕暮れ近くに家路につく途中、カレラが姿を現した。
俺達を認めると手を振って近づいてくる。
「お帰りなさい。ダイロンさんが呼んでいたので迎えにきました」
「ありがとう、カレラ」
「心配性だねぇ」
マクレイが優しく微笑んでいる。カレラは少し照れて俺の手をとった。
「ええ、もちろん。家族ですから」
キラキラ笑顔で答えるカレラ。これは…抱きしめたくなる。
「ホントにこの男は移り気が多いね!」
ムッとしたマクレイにつねられた。カレラは苦笑している。何故か読まれている……。
三人で屋敷へと戻っていくと玄関で待っていたアビアに案内されダイロンの部屋へと入って行く。
書斎ではダイロンが待っていた。
「おお、戻ったか。巡回していた王国の騎士殿が報告してきたぞ。突然壁ができたってな」
「えー。ダイロンの希望通りだけど。説明しなかったの?」
カラカラと笑ってダイロンは水差しを手に取りコップに注ぐ。
「ワハハ。何故説明しなければならないんだ? 娘を襲ったのに」
「そう言わないで。未遂だったし」
困って言うと、水を飲みこちらを向く。
「ま、その件はいいだろ。ところでナオヤ達のお陰でこの町もかなり過ごしやすくなった。特に水道と下水道は王都にしかないから、こんな田舎町には勿体ないくらいだ。ありがとう」
ニヤリと悪巧みしてそうな笑みで頭を下げられる。……嫌な予感がする。
「ダイロン! 頭を上げてよ! 自分達の為でもあるんだらからさ」
慌てて止めると顔を上げた。
「そうか。ところでお前に手紙がきているぞ。ほれ」
書斎の引き出しから一通の手紙を取り出して渡す。受け取り見ると高級そうな封筒に蝋で印がされている。この場で開けていいか迷う。
「それは冒険者ギルドからの辞令だ。先に言っておくと、この町のギルドマスターに就任したぞ」
「は!? 誰が?」
ビックリすると顔を崩したままのダイロンが指をさす。
「もちろん、ナオヤだよ」
……やられた。この間、王都に行った後に確認してから先手を打ったのか。困った視線を送るとダイロンが笑顔で続ける。
「とりあえず明日からよろしくな! あと、小耳に挟んだんだが国をつくるとかなんとか?」
「あーもう! マスターの件は了解したよ!」
イスから立ち上がったダイロンが手を差し出すので仕方なしに応じる。
「ま、もし本気なら側近になるぞ。ワハハ! 楽しみだな!」
それからギルドの打ち合わせをして嬉しそうなダイロンを残し部屋を後にした。しかし、いいのか? 王を裏切って。
まさかギルドマスターになるとは……。これからどうなるの?
マクレイ達の部屋へ戻ろうと廊下を歩き始めるとメイド長のアビアが待っていた。
「アビア。待っていたの?」
「もちろんです。この屋敷のご主人様ですから」
微笑んで返事するアビアに家族を集めて欲しいと伝え、先に居間へ移動した。
居間に行くと他のメイドが控えており、お茶を出してくれた。お礼を言って受け取り、ソファーでぐったりする。
やがてモルティットを筆頭に家族が集合した。
「で、またトラブルなの?」
ぐったりしている俺の隣に座ったモルティットが身を寄せてくる。
「うーん。まずこれを読んで」
手紙を渡すと受け取ったモルティットは開封して読み始めた。
「ん、どれどれ。えーと、あら、キリークからね。え? アルルの冒険者ギルドマスターに任命する!? ってナオ?」
すると家族全員が驚いて目を見開いた。
「なんかそうみたい。明日からギルドに行くからよろしくね」
「プッ。悪い冗談みたいだね。ギルドランクじゃ、最下層なのに」
吹き出したマクレイが笑いをこらえて感想を述べる。
「じゃあ、私がお手伝いしますね!」
手を挙げてベネットが主張する。ギルドが好きなのかキミは……。フィアは首を傾げて未だ事態を呑み込めてないようだ。
「それじゃあ、前みたいに順番で手伝うかい?」
「あ、それはいいですね」
リンディが提案してカレラが賛成している。何故誰も反対しないんだ。俺は嫌なのに……。
そんな俺の視線に気がついたマクレイは苦笑いして俺の元まで来る。
「ナオ、前に自分で国を造るとか言ったからだよ。確かにギルドマスターは驚いたけど、皆ついていくよ」
そう言うと俺の頭をくしゃくしゃする。そうなのか…頑張った方がいいのかな?
「でハ、お弁当を作らなイと」
ようやく理解したフィアが嬉しそうにしているとアビアが止めてきた。
「フィア様、そちらは私達が……」
「作りマす!」
「え、あ、わかりました」
膨れたフィアにアビアが負けた。さすが料理好きだね。
それからは今後について話し合い就寝するため解散した。
「なんか今日は疲れた……」
「ハハッ。まあいいんじゃない? 面白くなってきたね。町の周りには丈夫な壁がそびえて中には“契約者”がいる。フフ」
ベッドで隣にいるリンディが楽しそうにしている。
「ホントに。ダイロンにしてやられてかもね」
「意外にしたたかだよ。フフ。面白い!」
抱きついてきて耳元で囁く。
「頼りにしてるよダンナ様……」
お互いに唇を重ねて夜が更けていく。
それからギルドへ行き、前のような退屈な日々を過ごしている。
魔物退治はマクレイの指揮の元、王都の部隊にも手伝ってもらっているので比較的楽だ。そもそも、あまり出現しないので一種のイベントになっている。たまにジャイアントスネークなどが討伐されると町で肉祭りが開催された。
また部隊は町の門番も引き受け自主的に治安を守っている。そろそろダイロンから給料がでるかな?
近頃は噂を聞きつけた個人や家族がたまにこの町へ移住してくるようになった。人数的にはまだ村の範疇だが、その内に町らしくなってくるのかもしれない。
お目付け役のハドーは一向に王都へ帰る兆しがない。ここが気に入ったのかわからないが毎日のびのび過ごしている。いいのか?
ある日、珍しくメイド長のアビアがギルドヘやってきた。
「ご主人様、お客様がお見えでしたのでこちらへ案内いたしました」
「ありがとう。アビアもここで休んでいけば?」
「はい。でも先にこちらを」
アビアが後ろにいる人物を前へ通すと見知った顔が二つ出てきた。
「タツミ! ユキエも!」
「久しぶりだな!」「お元気でしたか?」
受付カウンターから出てお互いに握手を交わす。二人は変わらず元気そうだ。ギルドにいるカレラとベネットも挨拶している。
「どうしてここにいるってわかった?」
「ハハ。噂を頼りにしてね。少し相談したいことがあるんだ」
笑顔のタツミ達にイスを進め着席すると少し照れながら話し始める。
「実はさ、俺達も落ち着こうと思って。どうせ住むなら安全な場所がいいって事になってさ、だったらナオヤの所が安心だねってなったんだ」
「傭兵もそんなに実入りがいいわけじゃないのよ。近頃は仕事も少ないし」
苦笑いのユキエが続ける。なるほど。傭兵稼業も大変そうだな。
「もちろん歓迎するけど、領主のダイロンに許可をもらわないと。俺の紹介にすれば直ぐだと思うよ」
「ありがとう。しかしあの屋敷はすごいな」
タツミが頭を下げる。隣のユキエはニコニコしていた。
「ハハ、精霊主に造ってもらったからね。後、ダイロンもそこにいるから」
「は!?」
二人がビックリしている。カレラとベネットは苦笑いして見守っていた。
「押しかけられてなんだけど。タツミ達も部屋に余裕があるから好きなだけ居ればいいよ」
「遠慮無くそうさせてもらうよ。ハハ、ナオヤには驚くことばかりだ」
「詳しくは夕食の時にでも。来てくれてありがとう」
話している内に新たなメイドが出てきてタツミ達を屋敷へ案内していった。
「後でカレラとベネットも紹介するね」
「フフ。なんとなく雰囲気が似てますね」
再びカウンターに戻ると微笑んだカレラが手を重ねてきた。
「確かに。彼らも“転移者”なんだ」
「あーなるほどー」
何故かベネットが納得している。
「ところで何であなたがそこにいるんですか?」
カレラが鋭い目で俺の隣にぴったりくっついて座るアビアを睨む。
「ご主人様が休んで良いとおっしゃたので」
すまし顔のアビア。カレラは俺の腕をとって膨れている。かわいいなぁ。
「でもアビアは、その、近すぎないか?」
「いえ。これでも遠いぐらいです」
ぐいぐい身体をくっつけてくる。けしからんおっぱいが押しつけられアビアの唇が首筋までくる。あわわ、理性が……。
「ダメ! 誘惑しないで! すぐ流されるから!」
俺を引き寄せ抱きしめながら声を上げるカレラ。するとアビアも寄りかかってくる。
三人くっついている状態でイスから転げ落ちるとアビアがのしかかってきた。顔が近いって!
ふと、上からハァハァと荒い息づかいが聞こえる。
三人で見るとベネットが本で口元を隠しながら前屈みでガン見していた……。
目が点になっているカレラとアビアを立たせてちゃんと三人で座り直す。
「さ、仕事、仕事」
「大丈夫ですから続けてください。私はいませんから」
ベネットが催促してくるが無視する。カレンとアビアの顔が真っ赤だぞ。




