冥界へ行き魔物を退治する
とりあえず、朝食を片付けて家族を含め紹介してから椅子に座ってもらう。フィアが気を利かせてお茶を運んできた。
「これはスマナイ」
お茶を受け取り、一口すすったドイトスは顔を俺に向けると話し始めた。
「いきなりの訪問を許してくれ、少し時間が無くてな。この場所は冥界の門に近いことは周知だと思うが、その冥界で困った事が起きた。“契約者”の力を借りれれば助かるのだが、どうだろうか?」
「とりあえず話しを進めてください。判断は後からで」
そう言って先を促す。頷いたドイトスは続ける。
「わかった。先日あった“精霊の輝き”が冥界へも降り注ぎ、あらゆる活性化が起きた。地下で死にかけていた冥界も活力を取り戻したのだ。だが、良いことだけではなかった。先祖が封印した魔物も力をつけ、今にも復活しそうなのだ。昔と違って、冥界に住む我々は弱くなった。だから助けて欲しいのだ」
話し終わると口を閉じ、俺の目を見て反応を求めた。
「人族とか魔人族とかに助けは求めないの?」
そう聞くと隣のマクレイが太ももをつねった。痛て、聞いたらマズかった?
ドイトスは苦笑いをして、
「なるほど、噂通り“契約者”は“転移者”のようだ。過去、冥界の主の一部は地上を渇望し、何度か攻めた事がある。その際、数多くの血が流れた。未だ禍根があるかもしれんでな、無理なんだよ」
「すみません、言いにくいことを……」
謝ると、ドイトスは笑って頷いた。いい人だ。
テーブルを囲んでいる家族を見ると真剣な表情で注目している。マクレイの目が“断れ”と語っていた……。ああ、もう!
「わかりました、お手伝いします。詳しくはどこで?」
すると再び太ももをつねられた。隣からは負のオーラが感じられる。怖い…から見ない。
「おお! ありがとう! 恩に着る。さっそくだが冥界へ来てくれないだろうか? 家族には悪いが……」
「気にしないでください。全員で行きますから」
「は?」
喜んだドイトスに答えると意外な顔をして固まった。あれ?
「えっと、ここの家族は妖精を除けば皆、それぞれ強いですよ」
「そ、そうなのか!? 一人はわかるが全員とは……。失礼した」
冷や汗をかいたドイトスが頭を下げると家族はニヤリとしている。わかる一人はマクレイだな。
それから冥界に行く準備をするため、ドイトスに居間で待ってもらった。
ベネットの部屋へ行くと準備中だったようだ。着替えの服を手に持ち気がついてこちらを向いた。
「あ! ナオヤさん、どうしました?」
「ドイトスには“皆”とは言ったけどベネットは大丈夫? 危険だよ?」
「少し不安ですけど大丈夫です! それに最近いろいろ話しを聞いて、ナオヤさん達の所にいるのが一番安全だと思うから…」
ベネットに確認すると少し照れながら言ってきた。口を開きかけると後ろから声をかけられた。
「それなら安心してください、私達がついています」
振り返るとカレラとリンディがいた。二人とも微笑んでいる。
「フフ。任せなよ、心配性だね」
そう言ってリンディがベネットの肩を抱くと嬉しそうに頷いた。まあ、いいか…。
「二人とも頼んだよ。よろしくね」
「いいえ、当然です。さ、行きましょう」
ニッコリしたカレラが手を取って居間に向かった。既にマクレイとモルティットは準備が終わっているようで待っている。
遅れてフィアとクルール、レミアも来た。モーピアはお留守番だな。
皆、揃ったところでお茶を飲んでくつろいでいるドイトスに声をかけた。
「お待たせいたしました。それでは行きましょうか」
「おお、そうか。いや、こちらこそ無理を言っているのでな。では、まいろうか」
立ち上がってドイトスが先導して行く。ここでようやく石像化していたロックが動き出す。
それを見たドイトスは驚いていたが無言で進み始める。すると今度は家を出るとソイルが消えた。
「少し、待っていただきたい。ゴーレムはわかるが奥方の一人が消えたが、どういうことだろうか?」
さすがにビックリしたのか目を見開いて聞いてきた。なんか言いずらいな。
「すみません。彼女は精霊主でして、一緒に暮らしてます…」
「は? 精霊主様と同居してるのか? 嫁なのか?」
「ええ、まあ。似たようなもので……」
「……」
照れて応えるとドイトスは無言になった。たぶん理解の範囲を超えたかもしれない。
「ま、まあいいか。では、まいろう」
とりあえず見なかった事にしたドイトスはそう告げ先を歩き出した。
前に冥界の獣、ヒロンボが出現していた場所を通りすぎ、まばらに木々の立つ所にちょっとした岩場があった。
「ここが冥界への入り口の一つだ。特殊な呪文を施してあるので見つかることはない」
ドイトスが説明した。ん? 前、出てきてたぞ?
「この間、ヒロンボと大きな翼の短い獣が出てきたけど、冥界からは自由に出られるの?」
「なんと!? そんなはずはないが……。ああ、確か少し前に冥界の封印していた魔物が暴れた時がある。たぶん一時的に呪文の影響が弱くなったかもしれんな」
額にしわを寄せドイトスが答えた。そして、灰色のフードを被り岩場に近づくと呪文を詠唱し始める。
すると岩場が薄くなり消えると地下に続く階段が見える穴が出現した。
「ここを降りると冥界だ。さ、早く。あまり時間をかけると元に戻るでな」
ドイトスはそう言いながら階段を下り始めた。俺達もその後に続く。その穴はロックでも悠々通れる大きさだった。
地下への階段は真っ暗で光源がどこにもない。ドイトスは夜目が利くのか平然と進んでいる。リンディも大丈夫なようだ。
そっとアルブムに薄明かりを周りにつけてもらった。これで安心かな?
「む、いつの間に…。すまんな」
振り返ったドイトスはお礼を言うと先を急いだ。
どのくらい下ったかわからないが、長い時間、階段を歩くとやがて水平の穴が出迎える。
ほっとして先を進むと明かりが見えてきた。
「もうそろそろだ。馬車を待たせてるから見えてくるだろう」
そう説明するドイトスを先導に明かりに向かって進むと、やがて大きな洞窟を抜け外に出た。
外の風景はいつか行った地底都市とまた違った世界だった。
空は灰色で天井が見えず、雲が薄く流れているようだ。木々も薄い色をしており、全体的に淡い印象を残している。
近くには灰色の馬がつながれている四頭立ての大きな箱馬車が二台が待機していた。一応、人数分は乗れそうだ。
御者がこちらに気づいたのか一人近づいてきた。ドイトスは手を振って応える。
「ノールト! 客人を連れてきた! 用意を!」
ドイトスが声を上げると近づいてきた御者が慌てて馬車に戻り、客室の扉を開け踏み台をしつらえている。
さらにこちらを向くと声をかけてきた。
「さ、こちへ。二組に分かれて乗ってください」
頷いてそれぞれ乗り込んだ。が、最初は何故か全員同じ客室へ入ろうとしていたので話し合ってなんとか決めた。
俺の隣に座るのを決めるのになんでそんなに殺気ばってるの? マクレイを見ると苦笑いしている。
一台目にはドイトスと俺、マクレイ、フィア。二台目にモルティットとリンディ、カレラ、ベネットが乗り込み出発した。ロックは後から追いかけるみたいなので手を振っていた。
それからは灰色の世界を見ながらの移動になった。目的地を聞くと一旦、ドイトスの屋敷へ向かいそこで封印された魔物について説明を受け、作戦を練るとの事だった。配下の兵隊も駐屯しているようだ。
移動している間、ドイトスから冥界について一通りの説明を受けた。冥界では五つの地域に別れ、それぞれ領主が納めていて、ドイトスはその領主達をまとめる役割を持っているようだった。王の様に権力を集中するわけではないようで、過去の反省から戦力を分散させるためにしているらしい。難しい話だな。マクレイを見ると寝ていて、フィアは興味深そうに聞いていた。胸元のクルールとレミアも寝ていた……。
議長のような役割をしている冥界の主、ドイトスは、今回の様な場合に代表者として外の世界との交渉権を持っているとのことだった。
いろいろと興味深い話しを聞きながら進むと、やがて大きな屋敷が見えてきた。
囲いを巡らせ、外には大型のテントが多数張っている。やっと着いたようだ。
「そろそろですな。長い道のりをありがとう、皆さん」
ドイトスがお礼を述べる。とりあえず温かい食事とベッドがあればいいなと門を抜けて屋敷に向かう中、ぼんやりと眺めていた。
屋敷に着き、馬車を降りた俺達はさっそく会議室のような大きな部屋へ通され、そこでお茶と軽い食事をいただいた。なんとなくどれも薄い味がする。隣に座っていたモルティットに目配せすると困った顔をして微笑まれた。どう解釈すればいいの? これ。
落ち着いた頃に、各地域の武官が入って来てそれぞれ紹介し合った。
俺達が家族全員で来ていることに皆、驚いていたがマクレイとモルティットの名声はここでも響いているようで納得していた。
そして会議に移り、どうやら封印されている魔物は三つあるらしく、どれも危険との事だった。過去にはもっと狂暴な魔物はいたんだろうか?
そこで、俺達に三組に別れて各自に戦って欲しいとドイトス達は主張したが俺は拒否した。皆、驚いていたようだが、家族がバラバラで何かあったら自分が壊れそうで怖い。この幸せだけは誰にも邪魔させないつもりだ。
とにかく封印の解けそうな魔物から順番に当たるよう説得した。家族を見ると嬉しそうに俺の案を受け入れてくれた。
ドイトス達は俺の要望を受け入れ、俺達が向かう以外の封印されている魔物の所には監視の兵を置き、何かあったら即座に連絡をするようにしてくる予定になっている。
会議が終わると、ドイトスが夕食会を開いてくれて皆で晩餐を楽しんだ。だが、やはりどれも薄味だった。いつも美味しい物を食べていた妖精二人は不満顔をしているので、こっそり持ってきたお菓子をあげると喜んでいた。
ドイトスに食事のお礼を言うと寝室に案内してもらい家族で休むことになり、案内の使用人に連れ添って行くと大きな部屋にどでかいベッドが一つあった……。
「えーと、これは?」
思わずビックリして使用人に聞くと、
「こちらは旦那様から言いつけがありましたので、ご家族全員が快適に寝られるよう工夫しました。いかがですか?」
と、ドヤ顔で説明してきた。いかにも一仕事したぜ! って雰囲気。
「あたしはこういうのが好きだね!」
リンディはそう言うとベッドにダイブしにいった。ずいぶん元気ですね。
使用人にお礼を言ってそれぞれくつろぎ始める。
「はぁ~。こんな大勢で旅するとはなぁー。意外に大変だね」
「フフ、そうね。でも、私達は楽しいよ。たまにはこうして出かけるのもいいかもね」
俺の隣に座ったモルティットが体をあずけて言ってきた。
「まあ、家の近場でならいいかも?」
「そレは、いいでスね」
答えるとフィアが嬉しそうに言ってきた。
するとカレラとマクレイ、ベネットも参加してきて家族旅行の話で盛り上がった。みんな行く気満々だわ…。
翌日、支度を済ませると、ロックは玄関前に佇んで待っていた。ロック……。
武官の案内で最初の封印されている魔物の所へ出かけた。
また馬車に揺られ道なき荒野を行く。灰色の景色が続くと気がだれるな。
今回はモルティットとカレラが同じ客室へ入った。スムーズに済ませたところを見ると昨日、話し合ったのかな?
やがてゴツゴツとした巨大な岩山に近づくと馬車が止まった。
武官が降りて俺達を案内する。
岩山を登って行き中腹あたりにくると巨大な横穴が口を開いて待っていた。
横目で武官を見ると無言で中に入って行く。…やっぱり。嫌な気がするなぁ。そう思っているとマクレイが手を握ってきた。
「ほら、行くよ。今更ビビっても遅いよ」
ニッコリ笑って言われるとなんだがむずかゆい。反対側の手はフィアが握っている。
アルブムに明かりをつけてもらい暗い横穴を進んで行く。
「もう少しで封印の間に着きます。どうぞお気をつけて」
武官はそう言うと立ち止まり先を指さした。一緒には行かないのね。
怖がるベネットを皆で励ましつつ足を運ぶとやがて広い空間に出た。先には大きな柱が鎮座していた。
「きっとあそこだよね?」
「まあね。他にないしねぇ」
ひとりごちるとリンディが続けた。俺ってビビリかも。
柱に近づくとヒビがあちこちに入っているのが見えた。表面には呪文とおぼしき文章が彫ってある。
モルティットを見ると解説してくれた。
「これは古代の呪文ね。確かに封印のための術式が練り込まれているね。これ以上は専門的な話しになるけど?」
指を顎に当てて聞いてきた。急いで頭を横に振ると苦笑いしていた。
柱に手を当て周囲を回るとほのかに暖かい。と、うっすら中が見える部分がある……。え? これは?
「ちょ、ちょっと誰か!」
慌てて呼ぶと、それぞれ観察していた皆が寄って来た。
「こ、これってどう思う?」
「う~ん。よくないねぇ。ナオって女運がいいの? 悪いの?」
リンディが冷やかして言ってくる。そうじゃないでしょ!
「でも、嫌な気がするんだけど…」
中を覗いたモルティットが俺を睨んだ。なんでそうなるの?
「みなさん、まだ子供のようですから大丈夫だと思うんですけど」
カレラがフォローしている。が、それも違うと思うぞ。
「まあ、こればかりは封印を解かないとわからないよ」
マクレイが最後を締めた。
俺達が見つめる先には十代前半の子供が柱の中にいる光景があった。長く青い髪が魔物感が出てるが、それ以外は普通の人族と変わらない姿だ。
魔法に詳しいモルティットとマクレイ、リンディと話し合ったが、柱の呪文はもはや修復不可能なようだ。このままだといつか破られるので、今ここで無理やり解いて再封印するか相手を倒すのが早いとの結論が出た。
「で、どうするの? ダンナ様?」
リンディが聞いてきた。
「嫌な予感しかしないけど、封印を解いて倒す方向で。皆はそれでいいかな?」
家族に聞くと皆、苦笑いで頷いた。
「じゃあ、私が封印を解くから後はお願いね」
モルティットが柱の前に立って確認する。その後ろにいて答える。
「ああ、わかった」
すると、モルティットが柱に手を添えて詠唱を始める。
ゴクリと喉を鳴らして見守っているとやがて手を離したモルティットが静かに柱から遠ざかった。
いつでも精霊主達を出せる気構えで柱を見つめると、ヒビが広がり柱のあちこちが崩れてくる。
やがて柱がバラバラになると中空にいた少女が床にべチャっと落ちる。その衝撃で眠りから覚めたようだ。
恐る恐る近づくと、気がついた少女が顔を上げた。
美少女の顔立ちで俺をマジマジ見ると眉が下がり涙を流し始めた。ええ!?
「あ、あの……」
話しかけると号泣しながら抱きついてきた。
「け、“契約者”さま~~~!!」
いきなりの事でとまどっていると後頭部を叩かれた。
「痛て!」
抱きつかれているため、頭を横に向けると視界に怒りのモルティットが映った。
「ち、違うだろ! 俺からじゃないじゃん! 見てただろ!?」
「見てました。その上で怒ってます」
えらい怖い笑顔で言ってきた。どうしたらいいの? 怖すぎる…。
青い髪の少女は泣きじゃくっているし。しょうがないので背中をポンポン叩くと、ますます号泣している。
するとアーテルが出てきた。
「ごめんなさい。これは私に関わりのあることです」
そう言って泣きじゃくる少女の頭に手を乗せる。
「ずいぶん寂しい思いをさせましたね。エキル……」
エキルと呼ばれた少女は涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をあげるとアーテルを見て俺をギュッと抱きしめて叫んだ。
「アーテルさま~~~! お会いしたかったです~~~!!」
いや、俺じゃなくてアーテルに抱きついて欲しい。真面目に。
周りを見ると唖然としている家族がいた。まーそうだよね。俺も唖然としたい。
やがて泣き止んだエキルはやっと離れてくれたが服の端を握って側にいた。顔をうずめた服のところはびちゃびちゃになっている。もう着替えたい…。
そこでアーテルが今回の事について説明してくれた。
昔、冥界が地下世界にできた頃、アーテルの他に従者のような三つの精霊がいたそうだ。
長い年月の間、三つの精霊は人の形になって自由になったが、その時にはアーテルは地上に出て“契約者”と共に目的を達成するために旅に出てしまっていた。
その間、冥界で留守番をしていたエキル達は後から来た人族と折り合いが悪く。それぞれ強引に封印されてしまったようだ。
だからアーテルも現場でエキルを見るまではわからなかったようだ。
長い年月を封印されてしまったために冥界に住む人族も本来の記録が無くなり、伝説と噂が合わさって巨大な魔物と言う事になったようだ。なんていい加減な……。
「ところでさ、エキルたちは元の精霊に戻れるのかい?」
マクレイがアーテルに質問した。
「ごめんなさい。この姿のままになります。よろしければナオヤさんの家に保護してほしいのですが……」
「ああ、俺は構わないけど、モルティットが…」
アーテルの要望に応えたいけどモルティットを見ると顔を赤くしていた。
「もー! 私が悪者みたいじゃない!? 全然かまわないよ!」
そう言って顔を背けた。ハハ、かわいいなぁ。
それからエキルの手を取って広間から出ていった。
「でも良かった。大事でなくて。後は二人を回収したら戻れるんですね」
爽やかにカレラが言ってきた。まあ、そうだね。何事もないのが一番。エキルは嬉しそうに手を握って歩いている。
「でもさ、こうなるとますます家族全員で来た意味がなくるような?」
「ハハッ! 昨日言っていた旅行だと思えばいいのさ! ね、みんな!」
リンディが俺の尻を叩くと楽しそうに言ってきた。
はぁー。後、二人か……。替えの服を用意しとこう。




