そして、肉祭り
あれからソイルと共に暮らし始めた。
いままで人と暮らしたことのないソイルは、料理や掃除、お風呂など楽しんでいた。
料理はフィアにカレラと共に教わり、掃除や洗濯など皆で分担して教えた。
たまにアーテルやアクアなど他の精霊主が出てきては楽しそうに手伝っている。
「フフ、毎日が充実してるわ。人の営みは楽しい。早く知ればよかった!」
居間のテーブルでお茶を片手にアクアが感想を漏らした。
「ま、そういうのは今のうちだよ。そのうち面倒になるんだからさ」
リンディがニヤリと言ってきた。
「もウ! リンディさンはサボりすぎデす!」
フィアが怒って苦笑いでリンディが応える。
「いい、ナオ。今度はちゃんと邪魔いらずのデートをするからね?」
「はい。お願いします…」
モルティットが怖い笑顔で言ってきた。断れないじゃん。
頬を膨らませてモグモグしているベネットが床にいるモーピアに肉の欠片を食べさせている。しかし、ベネットは毎日あんなに食べてるのに全然太る気配がない。不思議だ。
モーピアは好き嫌いなく何でも食べている。皆のペットみたいだな。
「はぁ。ここに来て良かったー。料理は美味しいし、居心地よすぎ!」
嬉しそうに言ってベネットは頬張っている。
「フフ。あまり食べ過ぎないようにね」
マクレイがウインクで注意した。かわいいな、それは。
カレラは最近、編み物を始めたようで集中して編んでいる。マフラーかな?
クルールとレミアは俺の頭に乗ってくつろいでいる。ロックは静かに見守っていた。
今日はフィアとお出かけしている。すっかり町のアイドルになったフィアは通りがかる人やお店の人に声をかけられていた。
冒険者ギルドに寄るとダイロンが暇そうに剣を磨いていた。
「こんにちは!」
「おお! ナオヤにフィアちゃんか!」
嬉しそうにダイロンが声をあげた。けっこう暇だったようだ。
「あノ、差し入れデす」
フィアがダイロンに包みを渡す。
「おー! ありがとな!」
ダイロンは早速、包みを開けて中のお菓子を食べ始めた。遠慮なしだな、さすがだ。
「ところでナオヤ、ベネットとはどうだ?」
「ん? 普通かな。あ、食べる量が増えたかも」
するとダイロンは驚いている。
「ナオヤ…なんで手を出さないんだ? 俺は待ってるぞ!」
「いや、そのうち良い人が現れるから!」
慌てて反論する。フィアは笑ってやり取りを見ていた。
しばらくダイロンと雑談してギルドを出た。
フィアと手をつないで町外れを歩いていると声をかけられた。
「おや、ナオヤ! 丁度いいところにいたな!」
顔を知っている農家のおっさんだった。
「こんにちはー。どうしたんですか?」
「ちょっと畑を見てもらっていいかな?」
挨拶すると申し訳なさそうに言ってきた。フィアを見ると頷いている。
「ああ、いいよ。案内してもらっても?」
「もちろん! ありがとう。こっちだ」
おっさんが笑顔で案内する。
行った先は一面畑がある場所だった。見渡しても変なところはないように感じる。
「もう少し行ったところだ。今朝気がついたんだが、大きな穴が開いててビックリしたんだよ」
言いながら進むと確かに畑の真ん中に穴が空いていた。
「こレは不思議でスね。穴の底はどうなっているのでしょウか…」
フィアが穴を覗いている。俺もつられて中を見る。
穴は六メートルぐらいある大きなもので、すり鉢状になって底が盛り上がっている。
「う~ん、よく見えないなぁ」
「どうだ? とりあえず埋めてもらえれば俺はいいけどよ」
おっさんが聞いてきた。ソイルはわかるかな? 〈フフ、お望みならいつでも。私のナオヤ〉
とりあえずソイルに調べてもらった。
すると底の盛り上がった土から二メートルぐらいのでっかいモグラが出てきた!
「おわぁ!? なんだあれは?」
おっさんがビックリしている。俺もだ。フィアは興味深そうに見ている。
「ふ、フィアはあれの事わかる?」
「ハイ。ジャイアントモールでスね。実物を見たのは初めてデす。一般的には害獣で畑を荒らすので有名デす」
聞くと解説してくれた。そうなのか、退治した方がいいのかな?
「なら、退治する?」
「そうでスね、ちなみに肉は食べれるそうデす」
フィアの言葉に俄然やる気が出てきた。
「よし! お肉のためにやるぞ!」
「ナオヤさン。変わり過ぎデす……」
呆れてフィアが言ってきたタイミングで土が盛り上がりジャイアントモールを乗せて地面が平になった。
すでにジャイアントモールは息絶えている…。さすがソイルは仕事が早いなぁ。〈フフ。当然です〉
「え? もう終わってるのか?」
またおっさんは驚いている。
フィアはトコトコと動かないジャイアントモールに近づいて調べている。
「じゃあ、大丈夫だと思うんで俺達はこれで! 何かあったら声をかけて!」
「ああ、噂以上だな! ありがとう!」
フィアの後を追いながら、おっさんに声をかけて別れた。
少し調べたフィアは軽い感じでジャイアントモールの尻尾をつかむと引きずり始めた。どこにそんな力があるの?
突っ込みたかったが、楽しそうなフィアの顔を見てると野暮な気がしてきた。
「ナオヤさン。明日はお祭りでスね」
笑顔で言ってきた。こっちも楽しくなってきた。
「そうだな。この間もお祭りしたけどね」
「フフ。楽しいでスね」
片手でジャイアントモールを持ち、片手は俺と手をつないでいる。
とりあえず、ジャイアントモールは広場に置いてギルドのダイロンに報告しに行った。
「へぇ~。じゃあ準備しないとね」
家に帰ってマクレイに報告すると言ってきた。
「やったあ! 明日はお肉ですね! 楽しみ!!」
聞いてたベネットが喜んでる。すっかり食いしん坊キャラになってるけど、いいのか?
いつの間にかソイルは俺の横にいてニコニコしてるし。
「ま、その前に今日の夕飯だね」
リンディが催促してきた。たまには手伝おうよ?
「そうでスね。でハ、準備してきマす」
フィアはそう言うと台所に向かった。マクレイとカレンもその後に続いていった。
「やっぱりナオと出かけると何かあるね? 不思議ね」
モルティットは椅子に座って考えている。
するとモーピアが来たので抱き上げると少し嬉しそうだ。
クルールとレミアもフラフラ飛んで来て頭の上に降りる。ロックは何時もの位置で見守っていた。
それから、賑やかに料理を食べ、皆で片付けた。
夜も更けた頃、カレラの部屋へおじゃました。
「どうしたんですか?」
カレラは編み物をしている途中のようで突然の訪問に驚いている。
「いや、最近カレラと話してないから…」
「気遣いありがとう、ナオヤ!」
微笑んだカレラはそう言うと抱きついてきた。抱きしめて口づけを交わす。
「ねぇ、話すんじゃなかったの?」
魅惑的な瞳で聞いてくる。もう無理、身体で話そう!
何も答えずにベッドに押し倒した。
カレラは笑顔で囁いた。
「ゆっくりでいいよ……」
で、できない、ゆっくりなんて!
それからカレラを求め続けてしまった。
……
落ち着いた所でカレラが胸に顔をうずめ聞いてきた。
「もう、どうして先に話しができないんですか?」
「ごめん。カレラが魅力的だから…」
そう言うと顔を赤くして抱きつく手に力が入った。
「じゃあ、今から話そうよ?」
「フフ、そうですね」
カレラはそう答えると顔を上げ口づけしてきた。
そして二人が眠くなるまで会話を楽しんだ。
翌日、下にカレラと一緒に降りるとベネットが真っ赤な顔で抗議してきた。
「ナオヤさん。私の部屋は隣なんです! 聞こえるんですからね!」
「えー、マジで!?」
驚いて隣のカレラを見ると顔が真っ赤になっている。
ベネットが詰め寄ってきた。
「いいですか、今度はちゃんと見学させてください! じゃないと私の糧にならないです!」
とんでもないこと言ってきた。それはダメだろ!
「ええ!? そっち? いや、ダメだって! 今度、壁を厚くして防音にするから!」
「それはやめてください! ね? ほ、ほら、私はいないと思ってくれれば…」
今度はベネットが慌ててる。呆れたカレラは頬を染めて一言、呟いた。
「…エッチ」
椅子に座ってそれを見ていたリンディは爆笑している。くっ、恥ずかしい…。
しばらくベネットを説得してやっと落ち着いてくれたようだ。
それからジャイアントモールを調理しに道具を持って町の広場へ家族と共に移動した。
広場ではダイロンがすでにいて、ジャイアントモールを解体し始めていた。
こちらに気がつくと手を振ってきた。
「こんにちは! ダイロン!」
手を振りながら挨拶する。
「おお、来たか! 待ってたぞ! さ、始めてくれ!」
近づくと声をかけてきたので、それぞれ分担して作業を始める。しばらくすると町民がちらほら現れ、手伝いをしてくれた。
フィア、マクレイ、モルティットが切り分けた肉を次々と焼いていく。その横でベネットは物欲しそうな顔で様子を見ていた。手伝わないのか…。
焼ける肉の匂いが立ち込め始めた。う、美味そうな匂い。
匂いにつられたのか人が集まり始めた。その様子を見て、急いでテーブルなどの準備をした。
自分のできる範囲で準備を終え、周りを確認していたら後ろから青い腕に抱きつかれた。
「今日の夜はあたしに付き合ってよ、ダンナ様」
耳元で囁いた。身体を回すとリンディが正面から抱きしめてくる。お返しに囁いた。
「……夜はわかったけど、サボってるでしょ?」
すると、めっちゃ良い笑顔でリンディが逃げていった…。ズルい!
準備が整い、料理が運ばれる。そして広場の壇上ではパフォーマンスが始まっていた。
町民は揃って皆、出し物を見ながら料理を食べている。
全ての料理を出し終わり落ち着いたので家族のテーブルに行くと、どうやら女子だけの会話が弾んでいるようだ。そっと離れて、町の人達がいる大きなテーブルに料理を盛った皿と酒の入ったカップを手に盛って向かった。
「おー! 珍しい! こっちに座りなよ!」
食堂のおばさんが手招きしている。お言葉に甘えて隣に座った。
「ありがとう」
お礼を言うと笑顔で返してくれた。
「おう、ナオヤ。どうしたんだ? ケンカでもしたんか?」
隣にいた雑貨屋のおじさんが聞いてきた。
「ハハハ、ケンカはしょっちゅうだよ。今は女同士の話しっぽいから逃げてきた」
「あー、わかる! 女連中の話しに加わると怖いからな! ワハハ!」
酒の入ったコップを上げると笑いながら飲み始めた。俺も同意のしるしにコップを上げ酒を飲んだ。
「でもあんた、美人の嫁ばかりだからさ、町の者には女たらしって噂になってるよ」
「ええー!? いや、まあ、その方が安心か……」
食堂のおばちゃんの言葉にビックリしたが、よく考えたらいざこざが無くていい気がしてきた。
「ハハハ、面白いねぇ。フィアちゃんはたまに手伝ってくれるから助かってるよ」
「そうなんだ。皆、いろいろしてるなぁ…」
関心していると、雑貨屋のおじさんが肩を叩いてきた。
「なに言ってんだよ! お前も町や周辺をよくしてくれるじゃねぇか!」
笑って応えるとまた酒を飲み始める。それから楽しく町の話題で盛り上がった。
フィアやベネットは商店街の手伝いをしたりしているようで、顔なじみが多い印象だ。逆にマクレイやモルティット、リンディとカレラは交代で町周辺の巡回をお願いしてるから商店街の人にはなじみが薄いが、町の外側で農家や牧畜をしている家の人にはよく会っているみたいだ。
やがて祭りも終わり、片づけてお開きになった。
道具を回収して家族と共に帰宅する。
「はぁー、美味しかった! またお願いします!」
ベネットが嬉しそうにお願いしてきた。苦笑いで返すとフィアが、
「まタ、出てきたらでスね」
ニコッと答える。かわいいなぁ。その後ろをマクレイ達が話しながらついてきている。
家の玄関ではモーピアと妖精二人が出迎えてくれたので、モーピアを抱き上げて撫でると嬉しそうにしている。妖精達は頭の上に降りてきた。
それから皆、居間でくつろいでからそれぞれの部屋へ向かっていった。
とりあえずリンディの部屋へ行きノックして入ると誰も居なかった……。
あれ? もう一度、下に降りて居間に行く。が、誰もいな…ロックがいた。
しかたないので自室に入るとリンディがベッドにいて、
「フフ。ビックリした?」
俺に気がつくとニヤリと笑う。微笑んで、
「リンディが自分の部屋にいないから探したよ」
そう言いいながらベッドに腰かけるとリンディが抱きついて押し倒してきた。
「そういえば、壁は厚くしたの?」
「あ! 防音にするの忘れてた…」
リンディが甘い声で聞いてきたが苦笑いで答える。
「ま、大丈夫だよ。ベネットの部屋は隣じゃないし」
「あたしは聞こえてもいいけどね、フフ」
そんなことを言ってきたリンディの唇を奪って塞ぐと目を閉じ、艶めかしく身体を絡めてくる。
吐息が漏れると理性が無くなった……。
翌日、家族で朝食を取っていると誰かが訪ねて来た。
いつものようにリンディが出て行く。なんでこういうのだけ積極的なんだリンディ?
やがてリンディは背の高い灰色のローブを着た者を連れてきた。
「ナオ、お客さんみたいだよ」
リンディがそう紹介し俺達を一瞥すると灰色のローブの者はフードを外し顔を見せた。
「初めまして皆さん。ワシは冥界の主、ドイトス。折り入って“契約者”にお願いがあって来た」
そう挨拶をしたドイトスは、痩せぎすで頬がこけた青白い顔をしている。が、目はギロリとして生気が溢れ威厳を見せていた。
冥界って、地下世界の事?




