終幕に向かう少年
これから、よろしくお願いします
”グレートメン”
それを知らないという人は恐らく世界の大多数を占めている。
それもそのはずだろう。なぜならそれは世界が人々に対して隠しているからだ。
そもそも、グレートメンは1999年になり突如として現れた歴史上の偉人の名を語る者だった。始めは嘘だと笑われていた。しかし、本人しか知らない事を言ってのけるなどの行為により、その可能性が少しずつ疑われ始め、2003年になり、調査が行われた。その結果、そうなってしまった理由は分からないが、確かに偉人が潜んでいるとした。
しかし、それは器と呼ばれる偉人を入れる人間が必要であり、器になった人々は名前を失い、デペイズと呼ばれる特殊な力を所有することができる。
そのため、世界各国はそれを悪用されないためにグレートメンを秘匿した。
また、デペイズの所有者は各国家に属することになり、国際的な軍事利用に使うことはしてはいけないという事が、各国の秘密の了解となっていった。
★☆★
【品川駅近辺】
所狭しと立ち並ぶ飲食店の通りを走る男達を少年、光秀は追っていた。
光秀の見た目は黒髪で、顔立ちは整っているものの、あまり顔はパッとしないが、悪くはない、そんな感じの印象を人に与えるような顔立ちだった。
光秀は十八才の大学生で、デペイズの所有者達の秘密結社、
『国営特異犯罪研究所』の職員という立場にある。
「ちくしょう、今日は休日なのになんで働かされなきゃいけないんだよ。」
光秀は愚痴をこぼす。すると後ろから黒いスーツの男達が追ってきた。
「明智光秀だね。私達に大人しく投降してくれないかな」
男の一人が光秀に言う。
「言ってる意味が分からないけど、君達はノラかい」
光秀は男達に笑いかけるように問う。
そもそも、ノラというのは国家に属していないデペイズの所有者、または一般人がデペイズの発動の近くにいたことによりなった者を指す。
「そうだとも。私達は世間で言われているようなノラと言うような存在かな、どうだい、私達と共に理想を歩まないかい」
「嫌だよ。だって君達はノラじゃないか。どう考えても給料でなさそうだし、それなら休日出勤させても給料をくれる方がいいに決まってる、それにさ、僕の仕事の邪魔する気なの。」
男は笑うと、
「いやいや、そんなつもりはないよ。なにせ、私達が君のこの仕事を作ったんだから。君をここまで働かしていずれは使い捨てるかもしれない奴等に属するよりも、私達の所に来るといい。きっと君を守るよ。」
後ろからさっきまで追いかけていた男達が姿を現す。
「なるほど。要は、俺を欲しくて欲しくて堪らないお前らが俺の休日出勤の原因を作った。それでいいかな」と、にっこりと微笑む。
「ん。ああ、そうだとも。それぐらい私は君を高く評価している。だからどうかな、ともに理想な世か‥‥‥」
手を差し伸べるような仕草を見せた男の言葉は最後まで言い切ることは出来なかった。それは、光秀が殴ったからだ。
「よし、分かった。話は早い。てめぇらを叩けば俺の休日が返ってくる。それで十分だよ」
光秀は男達に獰猛な虎が兎のような小動物を見つけて、狩るような目をしていた。
殴られた男は一瞬唖然としたが、表情を戻し、不気味な笑みを浮かべる。
「ははは、そうか。なら話は早い。ぶち殺してやる‼」
鬼気迫った表情をする男に光秀は男達に
「突発的過ぎる人はこのご時世、可哀想としか思われないよ」と言う。
光秀の発言に気分を害したのか男達は一斉に
『炎上網!!』と叫んだ。名前の通り、光秀は炎の檻に囲まれる。そして男が勝ち誇ったように
「君は氷のデペイズの所有者だが、炎には敵わない」と言う。
光秀は溜息をつくと、辺りを見回した。
「一つ言っておこう。僕は寛容だから見逃してあげようと思ったけれど、君達はデペイズを所有しているのに国家に属していないこと。これは、まぁ、外国ではよくあることだから一歩譲るし、君達みたいな偉人が潜んでいない奴等、まあ、面倒だから俗称のノラでいくけれど、ノラは本来デペイズを発動している人の近くにいないとそうはならない。彼らはそれから深い傷を負うようになる。だから彼らは心を閉ざすけれど、君達は心を閉ざすどころか、同じような奴と徒党を組んでいる。だから‥‥」
男は大きく咳払いする。
「それで、何が言いたいのかな」と微笑む。
「簡単だよ。お前らは公衆の面前で堂々とデペイズを発動した。つまり、犠牲者を作ろうとした。でも、僕の仲間がやってくれたようで、現在、この辺りに人はいない。だから、お前らは、潰してあげるよ」
男達は炎上網の範囲を狭めていく。男は見下すように
「いいのかい。これじゃあ死んじゃうよ。ほら、謝って僕らに投降すれば許してあげるよ」
「そうか、なら要らないよ。犬にでも食わせておけば」
男は狂気に溢れた顔になりながら、
「ここまでこけにしたんだ。お前は殺す‼」
更に速く炎上網の範囲を狭めていく。すると光秀は目を瞑り、指をパチンと鳴らした。
すると光秀を覆っていた炎は消えた。
「どおして、消えたんだ」と男達は唖然とする。
「君達は馬鹿なのかい」と光秀が馬鹿にした口調で言う。
「何の技を使った」男達は失意のなか、光秀に尋ねる。
光秀は笑うと、
「なに、簡単だよ。君達がさっき言ったように僕は氷のデペイズの所有者だよ。だから僕は君達の炎を利用して炎に氷を君達に見えないようにしておいて、引っ付けると氷は溶けて水となり、その水で炎が消える。そういうことだよ。なあに、簡単だっただろ。」
男達は驚きつつも、ポケットから拳銃を取り出す。
「ありがとう。君のやり方はこれから参考にしていこう。だから、安らかに眠れ。」
男達は拳銃の引き金を一斉に弾く。すると、拳銃が暴発してしまった。
男達は暴発のため、気絶する。少しすると後ろから白髪の女の子が現れた。
「ああ、見てたの。尊氏ちゃん」
「ちゃん付けは止めてよね。それと、さっきのは氷結界と見ていいのよね。」
「その通りだよ。銃口に結界を用意し、暴発させた。」
「そう、少し大変だったわよ。特に、私のデペイズは認識を阻害することが出来るから事なきを得たけれど、こんな駅の近くでデペイズを発動したのは、あなたの考えかしら。」
「まぁね。けど、伸び伸びとお話をするのは、少し骨が折れそうだよ」
そう言って光秀は男達の主犯格だと思われる男を指差す。すると、男は体をピクピクと動かしながら、立ち上がる。
光秀は険しい顔をすると、尊氏に
「尊氏ちゃん、もう一回お願いできる。」と尋ねる。
「分かってるわよ。全く、詰めが甘いのよ。」
怒る素振りを見せつつ、そう言いながら光秀の後ろに尊氏は向かい、光秀は険しい顔を少し緩めて、
「それ、言わないでくれるかな。結構気にしてるんだよ」
と清ました風に言う。
また、男を見て、「まだやられたいのかい」と尋ねた。
男は体を震わせながら、
「いいだろう。本気を見してあげるよ」
そう言って男は指をスーツの内ポケットから取り出した針を刺す。
出てくる微量の血を地面に押し付けると、大きな炎を纏った虎を出現させた。
虎はずっしりとした威圧感を放ち、体に纏わっている炎は近づく者全て燃やすかの様な荒々しさを印象付ける。
光秀は深い溜息をつき、顎に手を当てると、
「君は、これを世の中の人に役立てる気は無いのかい」
すると、男は虎に乗り、
「ははは、そんなのはあるわけないだろ。」
「そうか、お前がその気なら僕は自分の考えに従うよ」
すると光秀は男の前に指を出し、指を鳴らす。すると、男は虎を後ろに退かせる。
氷の矢が何本も男が乗っている虎に刺さる。しかし、虎は何事もなかったかのように進みだす。それは"主を守る最強の盾"そんな表現が光秀の頭の中に浮かぶ。
「ふむ、なるほど。圧倒的な炎により無数の氷の矢を水に変えた後、水蒸気に変えることで無効化したわけだね。荒業だけど、よくできたと思うよ」
男は少し笑うと、光秀から視線をずらし、後ろにいた尊氏を見てから、もう一度光秀の方を向く。
「ご明察、恐れ入るよ。それはそうと、そちらの彼女を倒せば、この認識阻害を解けるかな」
尊氏はまた光秀の後ろに隠れた。
「光秀、今のままいくと完全にヤバイわよ」
「ああ、そうだね。ここで一つ終わりにしようか」
光秀は挑戦的な笑みを男に見せた後、尊氏の方を向く。
「尊氏ちゃん。"アレ"、持ってるかい」
「ええ、持ってるわよ。早く勝負を決めてよね」
尊氏はバックから拳銃を二丁取り出し、光秀に投げる。
「了解っと」
光秀は危なっかしげにそれを受け取ると、男に銃口を向ける。しかし、男は別に撃っても構わないという風に光秀を値踏みするように見ていた。
「なるほど、XD拳銃か。タクティクル。いや、それなら少し大きいはず、ということはサービス、そうか、サービスだな。どうだい、合っているかな」
「正解だよ。よく分かったね。」
「ああ、ちょっと銃を扱うからね。けど、サービスよりもサービスを5インチ大きくしたタクティクルの方が撃ちやすく、反動も制御されているから、タクティクルの方がいいだろうがね、どうして君はそれを使うんだい」
「ここまで聞くかな。まあ、言うけど、俺はこっちの方が馴染んでいるのさ」
「君は、アナログだなぁ。君と戦えるのを嬉しく思うよ」
光秀は無言で頷くと、虎が一匹入るような結界を作り、男を閉じ込める。
「これで、君は終わりだ。何か言いたいことは、あるかな」
男は首を横に振り、意思を示す。
「俺の銃を当てたご褒美にと考えたけど、無駄なことだったようだね。だから、俺はいいことを教えよう。俺が作ったこの結界をこの銃で撃てば、結界は中にあるもの全て共に消滅させることができるよ」
「この台詞だけ聞くと、完全に君が悪役だね。けど、私の部下が使えない現状、どうしようもないだろうね」
「それが分かってるなら話は早い。とっとと‥‥‥」
しかし、男は意図も簡単に結界を破壊する。光秀はその光景に先程までとは違った雰囲気を感じ、全身に危険だというかのように、一瞬武者震いをしだした。そのため、光秀は銃を二丁とも、男の方に向ける。
その顔はさっきよりも険しく、余裕というものが感じられなくなっている。
「なぁに、そんなに私に銃を向けないでくれるかな。私は少し傷付いているんだよ」
光秀は何か一語一語に狂気を感じながら、「名前は」と尋ねる。
「ふむふむ、ああ、確かに名乗っていなかったね。私は近松。近松門左衛門、という名前だよ。すまないね。自己紹介がとても遅れたよ」
「いや、俺が聞きたいのはお前の名前じゃなくて、元にいた人格の名前だ」
男、近松はニコニコと笑うと、
「へぇ、気づいたんだ。なら、ご褒美のお返しだよ。元いた彼の名は、岸本春夫。ただのノラだよ。」
「そいつはどうなるんだ。」
「うん、そうだねぇ、まあ、使い捨てるよ」
「おかしい、お前は間違ってる。」
光秀は今までに感じたことの無い、恐怖を感じた。
どおして、こいつはこんなことを平然と考えられる。それが光秀が近松と話していて与えられた印象だった。
「よく言われる。けど、君が立ち上がり助けない限り、終わらない。だから、私と戦うといいよ。」
よく考えるまでもない。俺の立場上、行かなければどのみち同じになる、なら、どうするかなんて選択肢そもそも存在しない。
「駄目だよ。あの男、すごい強いわよ、光秀でも簡単に死んじゃうかもしれない」
さっきまで光秀の後ろにいた尊氏が光秀を止める。
「知ってるよ。でも、やらなくてもこいつは俺たちをまた同じように殺すなら、今ここで止める」
「利口な選択だ。光秀君。君は、つくづく惜しい存在だ。私と組まないかね。役に立たない木偶共よりも、優秀な部下一人の方が私は楽でいいよ」
近松の呼び掛けに光秀は「やめておくよ。」と断る。
「残念だ」
これ以上は近松は何も言わなかった。