6.魔王様に婚約者がいなかった件について
ここ魔国には、身分制度がない。
なんでも、人間国での身分制度をまねて作ったが、人間国の身分による腐敗やそのほか諸々の悪すぎる面を見て、魔国では身分制度を無くしたとか。
メリット面はもちろんあったが、身分制度を失くし能力制で城勤めする者を決めているらしい。詳しい方法は知らん。
ラフレによると、
1.ラフレ祖父・・・身分重視の貴族の横暴さを目の当たりにし、身分制度を廃止
2.ラフレ父・・・身分制度復活の声を元・貴族が声を上げたが、能力重視にすると政治運営がうまくいったので、その声を重鎮たちと潰す。
3.ラフレ・・・めんどくさいので、そのまま
4.現在:魔王様・・・そもそも、身分制度に馴染みがないのでそのまま
というところだという。
魔王様に女の影がない。アレほど、美形ならあるはずだ。身分的にも子をなすのは義務のはず。不思議に思い、ラフレに訊いた。
「そうだ、ラフレ。魔国ではどういった人がもてるの?」
「気になるのか?」
「純粋な興味。魔王様に、女の影がないと思って」
「確かに...!息子め、まだ婚約してなかったのか?よし、サクラ、今から訊きに行くぞ」
ラフレに連れられて、執務室に向かった。
執務室に着くと、いつも通り扉をノックせずに入った。
「息子、お前まだ婚約者がいないのか?」
「いきなりなんなんですか、父上!」
「情けない。儂がお前ぐらいの年頃には母さんと出会ってたぞ」
「いや、仕事中なのですから扉のノックぐらい...」
「儂はな。母さんと初めて会った日に半殺しになるまでボコボコにされたぞ。そして、儂はその強さに惹かれその場でプロポーズした。その後も何度も何度も、蛙を踏みつけてペシャンコになるごとくボロボロにされた。そしてある日、なぜだかプロポーズを受け入れてくれた」
頬を染め、うっとりして語るラフレは気持ち悪かった。ドン引きだ。
魔王様は、顔を引き攣らせている。
「現在では、若作りだが昔はそれはそれは鬼神のごとく美しかったのだぞ」
それにしても、鬼神って美しいものなのか?
どうも、美しいイメージはないのだがな。人によって違うといったところか。
そして突然、ローズちゃんは扉をノックしないで執務室に入り、ラフレにミドルキックをくらわし、悶絶させていた。相変わらず、いい蹴りをしている。
どうでもよくないが、ラフレといいローズちゃんといい、魔王様の身内だからといって、執務室に扉をノックしないで入るのはどうかと思う。思うだけで、指摘はしないが。
執務室には、魔王様にどことなく似た人がいた。弟なのだろうか?
その人は私の視線に気づいて、
「はじめまして。異世界の者。私は、魔王様の弟フェルミア・ハードハイド。フェルとお呼びください」
「サクラで」
「では、サクラ。父上はなぜあのように?」
「魔国でどういう人がもてるのか訊いたらああなった」
「なるほど。魔国では単純に強さですね。顔の綺麗さではもてませんよ。顔だけでもてるのは、人間国くらいです。くだらない。なので、兄上の顔はもてる要素の飾りにすらなりませんね」
「何気に毒吐いてる」
「事実です」
フェル自身も美形なのに、顔に関する評価を切り捨てていいのだろうか?
その間に、ラフレは魔王様を問い詰めたようだ。
「サクラ、息子は恋人も婚約者もいないと抜かしおった。情けない」
「じゃあ、王道幼馴染で」
「幼馴染が王道?」
「元の世界の恋愛小説で、こういう王様や身分違いの相手の恋愛相手の王道は、幼馴染。もちろん、相手の身分は低い。教養などは察しろ。ライバルは、弟・兄・もう一人の幼馴染といったところだな」
「それでいうと、該当者は俺しかいませんね。しかし、あの幼馴染は弱すぎて興味を全くもてない上に、纏わりついてきて鬱陶しい」
毒吐いている上に吐き捨てさせるとは、どういう女性なのでしょう?
「アイシアを悪く言うな!」
「俺は問題の多い奴に纏わりつかれ優しくなんてできない。俺は、父上みたいに自分より強い女性と結婚する」
「マザコンか!」
「違います。俺が、馬鹿女を求めていないというだけですよ」
「クッ」
「つまり、魔王様はものすごくはてしなく愚かな女性を好きということで。なら仕方ない。ラフレ、こうなったら一夫多妻をしましょう」
「儂は妻は一人で十分だと思うが」
「元の世界での一夫多妻は、昔の王家の義務ですね。血を残して、一族繁栄をさせるという義務。今では、権力と経済力を示すというものですが」
「ふーん」
「一夫多妻が合法化しているのは一部地域のみ」
「魔国でも合法だが、歴代の魔王は妻は一人しか娶らないな」
「弱い女性が好きな魔王様のために、他の女性も娶ってもらいアイシアさんとやらを迎えではどうだろうかと」
「あの女はどうかと思います。男に媚びることにたけ、人を乏しめ、我儘で傲慢な女ですよ。取り柄すらありません」
「魔族というよりは、人族みたいな人だね」
「そうです。本当に魔族かと疑いましたよ。だから、反対なんです」
「なら、アイシアさんの苦手な人とか天敵を入れてみては?」
「それならいいですね。パラスは兄のことを思っていますし、彼女を正妻とすれば、彼女の父も納得せざるを得ないでしょう。俺に大きな借りがありますし」
「アイシアが、正妻でいいだろう!」
「無理ですね。明日、城に勤める重鎮たちや影響力の強い者たちを大広間に集めます。それで、アイシアを正妻にする許可が取れればかまいません。その程度、できないといけないでしょう?まあ、無理でしょうけどね」
「アイシアさんは、ある意味有名なのですか?」
「ええ。有能な男性には大変不人気ですよ。縁談も断られまくっているとか。彼女の父と母はとうに諦めました」
「とりあえず、優秀な子を作らないといけないので他の候補者を出してみたらどうです?」
「そうですね。サクラはどうです?」
「イヤです♪」
「...ですよね」
問題の多い女を好きだという男の妻の一人となる気はありませんね、形だけでも。
「俺の方が、サクラを遠慮する。父上と母上の同族だぞ」
それを聞くとラフレとローズちゃんが、魔王様を締め上げ気絶させてしまいました。
「うちの娘をお前のような馬鹿息子にはやらん!」
「そうね。サクラにはぜひ強い男性を」
「それなら、私は自分より強い人がいい」
それを言うと、ラフレとローズちゃんとフェルが同時に私を見た。
「サクラ、儂とローズ以外でお前より強い奴は儂が知る限りいないぞ」
「そうね、私も知らないわ」
翌日、魔王様は城に勤める重鎮たちや影響力の強い者たちの前でアイシアを妻にしたいと言ったら、「国を傾かせる気か」と大反対にあったらしい。それなら妥協して、一夫多妻の正妻にと言っても、大反対。どうしても、アイシアを娶りたいならば大勢の妻の中の一人と言うなら妥協すると言われたらしい。もちろん、一番身分の低い妻という位置。アイシアを妻にしたかった魔王様は、それを受け入れて数ヵ月後には複数の妻を持つことになる。
私は、仕事中に魔王様にそのことを愚痴られた。あまりにもウザかったので、手に持っていた箒で叩きのめし気絶させた。
これは魔王様にとって、ある意味、ハッピー・エンド?
私に関係ない限り、どうでもいいか。
それにしても、ここ数日のフェルは笑顔が黒いな。黒い笑顔に耐性のある私は気にしないが。他の者たちは怯えきっている。
フェルは私が気絶させた魔王様を叩き起こして、黒い笑顔でアイシアさんに常に護衛を張り付けることを終始笑顔で説得していた。逆らえない雰囲気を出している。
魔王様は、純粋にアイシアさんを心配していて護衛の件を了承した。
こうして、魔王様に婚約者がいなかった件は解決した。複数の妻を持つことと引換えに。これは、ハーレムなのでいいのではないかと私は思う。




