最終話.今日も魔国は平和です
ん?今、姉のキモすぎる思考が電波で流れていたような気がする。
気のせいだろうか?
もし、気のせいでないなら弟が不幸になる気がする。その不幸に、気がつかなければいいが...
この世界から、元の世界には帰れない。
悪いが、弟。姉は引き返せないところまで来ている。私が下手に止めればお前が危ない。なので、姉としては最低な行為だが見捨てることにする。悪いな。お前を守るためだと思ってくれ。
姉、とにかく自分の危なさを弟に気づかれるなよ。でないと、私が呪い殺すぞ。陰陽師のプロとして、呪い返しのない方法などいくらでも知っている。ここからできないと思っているのなら、甘すぎる。霊力と魔力を扱える私なら、その程度は造作もない。
今日は、魔王様がラフレやローズちゃん、私、国の重鎮たちを執務室に集めて、夜のお勤めのローテーションを組んでシフト制にしたことに文句を言ってきた。これでは、魔王としての仕事に悪影響だと。はたして、そうだろうか?みんなで相談して、体力的に魔王としての仕事に影響が出ないようシフトを製作をしたはずだ。そう、体力的には影響が出ないはずだ。だがしかし、ここ最近の魔王様はイライラしっぱなしだ。正妻パラス様をはじめとした、アイシア様以外の妻たちから後宮を管理する侍女長に、「もっと丁寧に扱って欲しい」と魔王様に伝えるよう言った欲しいと言われたそうだ。まあ、これはものすごくオブラートな表現だが。やはり、女性だからか直接的な表現は避けたようだ。
後宮に勤める妻たちの侍女たちによると、魔王様はアイシア様にまだ手を付けていないようだ。だから、機嫌が悪いのか。他の妻たちには、夜の務めを果たしているのにアイシア様を大事にしすぎて手を出さないとはどんなチキンだ。
これには、ラフレとローズちゃんがキレた。
「できないならできないで、魔王だからという権力を使えばいいだろう!息子ながら情けない」
「そうね。愛しているなら、とことん攻めなさい!」
「父上、母上、他の妻たちはともかくアイシアを大事にしたいのです」
「うわー、引くわー、元は自分がまいた種なのにアイシア様以外の妻たちはどうでもいいと言ってるのに、ドン引きだー」
「そんなことは言ってないだろう!」
「いや、言ってるな」
「そうね、言ってるわ」
「言いまくりですぅ」
「なんなんだよ、其の言い方!」
ツッコむのは私の言い方かよ。他にも、ツッコミどころがあるだろう。
「それに、アイシアを監視してなんになるんだ!」
「魔王様の後宮に、魔国きっての問題児であるアイシア様を入れるにあたり、魔王様の妻たちに迷惑がかかると、みんな思ってる。だから、アイシア様を妻にする条件として、フェルが魔王様にアイシア様を監視することの同意書を書かせたはずだが」
「アレはそういう意味だったのか!」
「それに、アイシア様のご両親からの同意書もいただいている」
と言って、私は二枚の同意書を取出し、魔王様に見せた。
魔王様は私から同意書をひったくり、二枚とも破ってしまった。
「フッ、これでアイシアの監視はなくなるな!」
こんなことをして、自信満々に言うことだろうか?他の手を考えるとかしないのか?恋愛馬鹿になった魔王様を思わず、蔑んで見た。
「息子よ、なんて馬鹿なことをするんだ!」
「恥を知りなさい!!」
と言うと同時に、ローズちゃんは魔王様に踵落としをお見舞いした。
魔王様は、絨毯の上に這いつくばって立てないようだ。
慌てるラフレとローズちゃんと国の重鎮たちを尻目に、私は再びアイシア様を監視する二枚の同意書を取出した。
「ほら、コレ」
と、私は同意書二枚を見せた。
「なんでまだあるんだよー!」
「こうなることを予想して、同意書二枚は複数のコピーがあります。一枚破けば、また一枚増えます。半永久的な魔法をかけたので、破っても意味ない。永遠に、この二枚の同意書を無くしてしまうのは絶対確実に無理です♪」
「なんで、そんなことに才能の無駄遣いをしているんだー!」
「無駄遣いだからこそ、才能を発揮できるのですぞ」
私は、執務室にいる魔王様以外の人たちとハイタッチを交わしました。
「もういやだ、この娘...」
魔王様は、酷く落ち込んでしまいました。
そして、この部屋には魔王様を慰めようとする優しい人は存在しない。ここぞとばかりに、アイシア様を妻にした魔王様に対する説教と愚痴をし始めました。
かれこれ一時間、いや三時間は経過してしまった。
魔王様はもう立ち直れない。
私はこの隙に、夜のお勤めのシフト制同意書を取出し、魔王様にサインをさせた。
魔王様は落ち込みすぎて何の書類にサインさせたのか気付いていない。
今日の夜のお勤めは、正妻パラス様の日だったな。
魔王様を慰めるのは、パラス様に分投げよう。
魔王様の成分の半分以上は、ツッコミでできているからな。ツッコミのできない魔王様は魔王様でない。魔王様に説教をして盛り上がる周りをよそに、私はそう思った。
この後の人間国は、私の姉が来ていたことによりカオス化し、魔国攻めいることはできなくなった。どんなふうにカオス化しているのかは、魔国の間者は遠い目をしてから私を見るたびに憐れんだとだけ言っておこう。
獣人国との関係は相変わらず、良好に続く。
龍国は、学習することなく魔国に返り討ちにされるのに懲りないようだ。今度はもう少し、精神的に抉りまくってみようと思う。
魔国は魔王様の愛情が、アイシア様より正妻パラス様に向き魔王城が少しだけ平和になった。一人にしか愛情を向けれない魔王様をラフレとローズちゃんと私で締め上げ、平等に愛するように忠告した。パラス様なら、きっと何とかしてくれるだろう。パラス様の父君が、それは保障すると言って下さった。
そして、魔王様は今日も今日とて周りに文句を言いつつツッコミをする。




