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魔王の美酒  作者: 白起
今生の魔王と王妃達
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魔人の煎れた茶

 金箔で修繕された磁器が隆之の為に用意されていた事は彼にも理解していた。

 何かの理由で壊れてしまったのであろうそれはきちんと修繕されて、隆之の目の前で煎れられた紅茶が湯気を立てている。

 ベアトリスの現実を突き付ける言葉に少し意気消沈しつつも、隆之は紅茶を飲む。

 すると、ベアトリスがくすりと笑う。


其方(そなた)は魔人の()れた茶は飲まないのではなかったのか? 先日届いたシンクレアからの手紙にそのように記してあったが?」


 ベアトリスは何処(どこ)までも意地が悪いと言えた。

 客人として迎え入れてくれたベアトリスの馳走に隆之が応えぬ訳がなかったが、


「それには少し訂正が必要ですね。人間を踏み(にじ)る魔人の煎れた茶は不味いと感じます。勿論、失礼ながらも貴女が()れた茶も私の口には合いません」


 隆之のその失礼この上ない言葉にベアトリスは鈴を転がすかのような笑い声を上げた。

 その表情に不快さは微塵も感じられず、隆之の素直さに満足そうな表情を浮かべる。


「まあ、口には合わなくとも、社交辞令として飲み干すが良かろう。さて、仮に其方(そなた)の蓄えた財が徴収と言う名の掠奪の憂き目に会った場合、其方(そなた)如何(いか)にする? 人間を敵に回すか?」


 自身の財等、【ライオネル王国】の直轄領である【ヨルセン】に保管している限り、当然それに目を付ける輩が存在すると考えるのが正しい。


「まあ、その時になってみないと分かりません。私が産まれた国で掠奪を免除する代わりに課税する権限を与えられたヴァレンシュタインと言う人物が居ました。傭兵に掠奪させない代わりに村落に重税を課し、一大傭兵軍を立ち上げた人物です。そのような権限が与えられた人物が【ヨルセン】に現れた場合、私はこう申すでしょう」


 隆之は元の世界で巨大になり過ぎて暗殺された人物の名を出した。

 その人物にベアトリスは興味が湧いたのか、隆之に先を話すように(うなが)す。


「【ヨルセン】は既に数年分の課税を支払っている。掠奪をするのであれば、するが良い。出来るものならなと」


 隆之の言葉には自信が溢れていた。

 人間の傭兵風情が数万押し寄せようが、風の前の塵に他ならない。

 物資や金銭が奪われる事は在り得ない。

 隆之は【ヨルセン】で平穏無事に産まれて来る子供の育児に専念したい。

 虎の尾を踏む愚か者には然るべき対応で迎え入れるつもりだ。


「……タカユキ、【ジゼル】と【ヨルセン】は其方(そなた)の領地だ。シンクレアは決して約束を違える事はしない。されど、其方(そなた)如何(いか)に強力な【魔力障壁】を施したところで、其処(そこ)に食料がある以上、飢えに苦しめられた王国民が殺到しよう。それに其方(そなた)は耐え切れるのか?」


 ベアトリスが話す言葉が隆之の耳に痛い。

 それに耐えなければ、【怠惰シンクレア】と【傲慢クラリス】の二人を相手に戦う事になり得る。

 戦闘に関して言えば、爵二位淑妃以上、対人戦に非常に秀でたカーネルが居る。

 隆之と魔力では全く話にならないカーネルであったが、以前植え付けられた恐怖からカーネルを隆之は非常に恐れていた。

 逆にカーネルを嵌め込み、殺す事が(あた)えば、二人の魔人との戦いを七分三分(まで)持っていける。

 カーネルの対人戦の連撃は非常に素早く、無駄と言う物が存在しない。

【魔力結界】の応用で隆之自身にダメージが無くとも、その間に【怠惰シンクレア】と【傲慢クラリス】が連携して魔法を仕掛けて来た場合を隆之が想定すると……

 何ら問題は無かった。

 此方(こちら)に補給が無いように、相手にも魔力回復の手段が限られて来る。

 しかし、形振り構わず、人間を魔力に変換された場合、【ジゼル】と【ヨルセン】以外に【ライオネル王国】に人間は存在しなくなる。

 やはり、戦わずに済むならば戦わずいたいのが隆之の本音であったが、そうは問屋が(おろ)さない事は容易に想像がついた。

 心の中で葛藤する隆之にベアトリスはそっと両手を隆之の右手に添えた。


「自信が無いのであろう。辛かろう。苦しかろう。強がってはいても、タカユキはタカユキよのぅ。()はシンクレアにも義理がある(ゆえ)、最初から味方は出来ぬが、其方(そなた)が窮地に(おちい)りし時は必ず駆け付ける(ゆえ)、許してたもれ」


 そんな様子を見せつけられたエリーナは少しだけ悲しそうな表情を覗かせた。

 隆之とベアトリスの間にある絆の強さに心の底から湧き出す感情は嫉妬(しっと)と言うべきものであったかもしれない。

 それを表に出さないように注意しながら、夫である隆之とベアトリスを見つめた。

 ベアトリスが隆之に向けるのは一方通行の愛情であったが、隆之に届くだけでもエリーナは不安だった。


「美味しいお茶を頂きまして誠に有り難く思います。これより【ヨルセン】に戻り、出来る限り手は尽くしてみます。ベアトリス、ありがとう。貴女様の言葉に少しだけ救われると共に、自分が成すべき事を少しだけ自覚出来ました。エリーナ、ベアトリス様に御別れの挨拶を……」


 夫に(うなが)されたエリーナは、失礼の無いように立ち上がり、


「タカユキの事をお願い申し上げます、ベアトリス様」


 とベアトリスを認めると同時に彼女の気持ちを推し量る事が無礼だと感じたのか、それだけを口にした。

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