スルドの野望
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「うん、いい感じに仕上がって来てるね。このまま行けば今生の【魔王の美酒】は爵二位までの顕在魔力を獲得する可能性が出て来た。そうなれば、【怠惰シンクレア】に対して反旗を翻すことも十分に考えられる。シンクレアも油断しなきゃ良いけど……」
【明星のスルド】は自らの屋敷で僕であるオネットと共に今回の隆之の行動を監視していた。
「他の魔人の方を覗き見るのはあまり感心いたしませぬな、スルド様。如何に貴方様が爵一位とは言え、王でない者が爵二位の魔力を手に入れられたベアトリス様を覗き見るというのは無礼に過ぎるというもの」
オネットは楽しそうに話す主に苦言を呈する。彼は近年のスルドの動向は活発に過ぎると思っていた。
【深淵】の中で未来を予知するはずの【明星のスルド】が【魔王の美酒】に対してだけは未来を予知しようとしていない。
監視はさせているが、一体、主が隆之を使って何をさせたいのかが、オネットには予想がつかなかった。
「それにしても、あの【勇者】の使えなさ加減には正直参ったよ。相手にしなかった僕も悪いけど、あそこまでお粗末だと手の打ちようがないよね。まあ、多少は良い夢も見て貰ったから本人も満足してるよね」
「あの者があのような目に遭わされることはこの老いぼれでも予測がつきましたぞ。スルド様はもう少し【勇者】の扱いに御配慮すべきではあったとも思います」
「オネットの言う通り、その点は認める。だけど、あれは良い性格してたよ。盛りの付いた犬以下だったでしょ。とても【勇者】の行動とは思えないことばかりしてたから、【魔王の美酒】みたいに君をお守に付けたとしても結果は大きく変わらなかったと思うよ。まあ、終わったことを気にするのは不毛なことだよ」
オネットはスルドの好い加減さに心身ともに疲れを感じてくる。本来、傀儡の彼が疲れなど感じる訳が無いのだが、この主を相手にしているとそんな気がしてくるので不思議である。
「まあ、次は【魔王の美酒】が【英雄】を斃せば、計画も順調に進むよ」
「スルド様はタカユキ様に何をさせたいのでございますか? 僭越ながらご教授願いとうございます」
オネットも主の考えを知らねば、動きようが無い。無礼だとは承知していても聞かずにはおれなかった。
「あれえ、言ってなかったけ? そう言えば、君にも教えて無いね。まあこの際だから教えておくけど、僕の本当の望みは爵一位級の魔人を五人 揃えることだよ。これは【魔王の美酒】の顕在魔力が高まれば彼の生存中に実現可能だと僕は考えてる。候補は僕と【傲慢クラリス】・【欺瞞イリス】・【暴虐ベアトリス】・【怠惰シンクレア】だね。五人の爵一位がいれば、人間を完全に統治することが可能でしょ。その中に王になりたいと考える者は僕を含めていない。あのいけ好かない裏切り者の【聖女アナスタシア】もこれで滅ぼせるしね。永遠を生きる魔人達が王になることなく人間を支配する。それが僕の夢だよ。だって、あの寄生虫共は管理しないと何れこの星を食い潰すから……」
スルドの口調は淡々としていたが、溢れる人間への憎悪は隠せてはいなかった。




