トマールの戦い 戦の後
フランク・オットーは奇跡を与え給うた神に感謝を捧げる。神気を得た自分や騎士達の槍が魔人によって堕ちた者共に天罰を加えている。
何と痛快なことか。
彼は用兵家としての自分は今のこの機会に撤退すべきだと告げていることも自覚している。
農民兵達の生存者は後方に下げ、アイン・フリーマー将軍の亡骸も取り戻した今、撤退するべきであった。だが、同時に将軍の仇を討ちたいという気持ちも混在しており、彼は選択を迫られていた。
しかし、彼が答えを出す前に【怠惰シンクレア】が軍への撤退命令を下す。隊列も何もなく、好き勝手に逃げていくその姿を曝す魔人の奴隷共にアイン・フリーマー将軍が討ち取られたなどと、信じられる訳がなかった。
練兵も何も行ってないシンクレアの奴隷達は生け捕りにした者達を担ぎながらも途轍も無い速さで撤退していく。彼らを救えぬ自分の愚かさに、フランクは唇を噛みしめながらその光景を目に焼き付けていた。
力の限り握りしめた右拳から血が流れ出し、落ちていくのを側近であるミハエルが見ていた。
◆◆◆
【怠惰シンクレア】の奴隷軍の損害は戦死者百二十一、負傷者約六百。ライオネル王国軍の損害、戦死者三千余、捕虜となる者千弱、主な戦死者としてライオネル王国筆頭将軍であり、この度の戦の副将を務めたアイン・フリーマーが挙げられる。
ライオネル王国史において「トマール防衛戦」と名付けられるこの戦は後に【爵三位貴妃シンクレア】より自軍の敗戦を認める文が王宮に届けられる。
特筆すべきはライオネル王国に対しての五年間の不可侵を【怠惰シンクレア】が明記したことであろう。これは万金に勝った。
この戦で捕虜となった者も解放され、トマール平野で収穫された米もオットー家の元に届られた。この戦いは魔人の軍が人間に対して自らの負けを宣告した人間の有史以来初めての戦争として記録される事となる。




