トマールの戦い アイン・フリーマー将軍
「馬鹿が!」
アインがシンクレアの騎竜であるクリームに農民兵が矢を放ったとの報告を受けた時、報告した兵を殺しかねない形相で叫んだ。
距離は離れていた為、黒竜に傷はあるまいとは思うものの、楽観の出来る状況ではない。
既に、アインが望まぬ形で戦端が開かれており、彼の脳裏には、これから展開される戦況を予想する。
(最悪、【殲滅魔法】でトマールが消えるやも知れぬがこれはあるまい。家畜共が何時も通りに馬鹿の一つ覚えみたいに突撃して来ておるからな。奴等を巻き込むのが確実な【殲滅魔法】は恐らく使用することは無いであろう。しかし、怠惰が何時もよりは動く可能性は否めぬ。家畜共も武器も持たず、己の腕力だけで我等を蹂躙するか……全く以って、巫山戯た話だ!)
アインは思考しつつも、冷静に戦況を分析し、指示を飛ばしている。
突如として、暖かな光がライオネル王国軍を包み、彼の身体が黄色く光出す。己が身体が発する光を見て、彼は軽く鼻を鳴らした。
「光栄だな、【怠惰】。この儂の首がこの遊びの勲功の第一か……」
黄色と言うことはこの戦で生き残る可能性は限りなく低くなった。しかし、同時に安堵もした。黄色い光を放つ者は一人だけだ。これで、フランク将軍を逃がし易くなった。
絶対的に経験が足りないが、アインの見る限りフランクは決して悪くは無い。
自然と口元が緩むが、直ぐに現実に引き戻される。
農民兵の後方部隊で、兵士が内側から弾け、訓練の行き届いていない農民兵は当然、恐慌状態に陥っていた。
「何時でも、我等を殺せるか……【怠惰】よ……あまり人間を舐めるでないぞ!」
アインは自らの愛槍を馬上で構え、矢で全身を貫かれても、素手で兵を引き千切る魔人の家畜共の相手をすべく馬を走らせた。




