ヲタ彼女
俺には悩みがある。羨ましがられる悩みらしくて、現状を知れば誰もがイジろうとしてくる。……そんな悩みだけど。
その悩みの原因は、俺の彼女の「岡詩子」。読みは「おかうたこ」だが、俺は「おかしいこ」と読む。シーコと言えばあだ名に聞こえなくもないので、今はまだそれがバレてない。
シーコと付き合い始めたのは少し前、1週間くらいだ。短いだろ、これだけの短期間で悩みになるほど、こいつと付き合ってると頭を抱えることになる。
友達としてのこいつは……まあ正直、モテると思う。気配りができて聞き上手。お洒落で異性の服まで見れてしまう。そして顔が綺麗だ。これは少し言い辛いが、胸もあるし、スタイルだって良い。
だからこそ、男子は皆こいつの恋人になることに羨ましがってたよ。嬉しかったし。……でも、こいつと話していて、言われた一言に悩んでいるんだ。
あれは祭の夜、浜辺を歩いていた時だ。祭に合わせて草履っぽいのを履いて来たシーコに腕を貸していた時。
「大和って優しいんだね」
「今更だろ?つか、詩子程じゃねーよ。迷子見つけて即行動した時は、少女漫画の主人公かよって思ったわ」
「後悔したくないだけだよ。私は何時だって後悔の無い選択をするだけだもの。大和と付き合うのもね」
「……ほほう、それは俺と付き合わなければ地獄に落ちるほど後悔を受けると?」
「なにそれ。……うん、でもまあ、そう思われてもいいけどさ」
違うこれは悩みを抱える少し前だ。恥ずかしいから忘れろ。や、恥ずかしくないけど、忘れてくれや。
「なあ、詩子」
「なに?」
「お前は、なんで俺と付き合わないと後悔すると思ったんだ?」
「……」
これは何時も思っていたこと。俺も極たまに女の子に告白される時はあっても、シーコなら他にも選択肢があったはずだ。その中で俺を選んだ理由があるはず。
この時の俺は、シーコが離れていくのが怖かった。その理由を知って、好みの男であり続けようと思った。
だが、シーコはこの話題を出すと決まって口を閉じる。忘却の彼方に追いやったであろうすこし甘酸っぱい会話を見た人は分かるだろうが、さすがに「ごめん、理由なんて実はないんだ。まあちょっと遊び?というか、大人になっての予行演習っていうか。あんまりマジで迫られても、……結婚とか、重いし」なんて言われることは無いであろうが。
……いや、ほんとに無いよね?
「……ねえ、大和」
「は、はい!?な、なんだよ」
「私は、大和と付き合っていたい。でも、これを聞いたら大和は、私から離れていくかもと思うと、不安」
「……言ってみろよ。彼氏だぜ?彼女のことなら、なんでも受け止めて見せるさ」
「……そっか、そうだよね!」
「そうだよ」
「えとね、私が大和と付き合いたいと思うようになったのは……」
初めて明かされる、俺との交際の理由。
すこしキョドったりして、心臓がバクバクする。女々しくて、少し弱い自分。がんばれ、超頑張れ。
「わ、私が、大和と、付き合いたいと、思うように、なったのは……」
「お、おう」
まだ、この時に「言い辛いなら、言える時でも良い」とかキザったらしくごまかしたとしても、この悩みは生まれなかった。
それを知ってしまった時には、もう手遅れなのだ。
「わ、私!大和の、体目当てです!」
「……あ?」
予想外すぎる言葉に、つい威嚇してしまった。気づいてないからいいけど、コイツ今、なんつった?
「え、なんだって?」
「体が目当てなんです!」
「ワンモア」
「体が目当てなんです!」
「もう一回」
「体が、目当てなんですぅ……」
声を張り上げすぎたせいか、最後は息を切らしながら言った。微モテの童貞にどう対処しろっていうんだよ、コレ。
思春期の純情を掻き回した張本人は、唖然とする俺に説明を始めた。
「私、可愛いじゃないですか。気配りも出来て、スタイルも良い。そんな女の子だから、影では結構イロイロ言われるんですよ。それで、彼氏が欲しかったんです。でも私、私……!オタクなんです!二次元しか愛せないんです!三次元の男の子なんて、みんな女の子とHすることしか考えてないじゃないですか!」
「それで、体目当てか。……称号目当てって言われるよりマシだけど。でも、その理屈だと俺もダメだろ?」
「そんなことないです!だって、大和君は超受けな男子じゃないですか!女の子顔も、気遣う性格も、華奢な体格も!私の理想ですよ!」
「ところで、詩子。口調と呼び方、変わってないか?」
「……普段は気遣われないようにタメ口なだけで、独り言が多いから、私丁寧語の方が地なんです」
正直、ため息が出そうになった。
俺は中学から周りの男子が大きく、頑丈になっていくのを見て、自分があまりにも男っぽくないことがコンプレックスだった。
高校に入って、服装を大人っぽくお洒落にしたり、シーコじゃないが、下に見られないように口調もそれなりに男っぽくした。
シーコの様に言ってくる奴も少なくないが、気にしないフリを通してきたが、コンプレックス目当てに付き合う女の子に目を付けられるとは思わなかった。
普段なら落ち込んだところなんて見せたりはしない。女の子に言われた言葉を着にしてるなんてますます女々しいし、女の子に申し訳なくさせてしまう。
だが、シーコの言葉はそんなフリをする余裕も無くさせるほど、心を抉った。
「……やっぱり、こんな理由、嫌……ですよね」
「あっ!いや、えと」
「いいんです、私が悪いんですし、こんなことを聞いて嫌にならない人はそう少なくありませんし」
「詩子……」
「迷惑なのは分かっています。それでも、私と交際を続けていただけませんか?」
「う、ご、ごめん。ちょっと心の整理を……」
正直言うと、かなり嫌になった。嫌いな部分を好きになられても、この先は気まずい関係になるだけだ。こんな時ほど、長く続かせて有耶無耶にするより、スパっと断った方が良い。大丈夫、付き合い始めて5日目に、しかもデートをした日に別れても、俺の作った信頼はそう簡単に崩れないはずだ。
「詩子、やっぱり……」
『……言ってみろよ。彼氏だぜ?彼女のことなら、なんでも受け止めて見せるさ』
「え?」
「ごめんなさい、ここまで知られちゃったら、さすがに別れるのは都合が悪いんです。大和くんには悪いけど……」
「え?」
「私、オタクなの隠してるから」
「え?」
「……カメラで撮ることができるのは?」
「写真」
言質取られてたー!?
「私に、協力してくれますよね?」
「……ああもう、わかったよ!拒否権は無いんだろ!」
「あ、ありがとうございます!いやぁ、そういうと信じてましたよ!私は」
「調子いいな、おい。……別に、オタクなんて珍しいものでもないぞ?俺もすこし知識はあるけど、クラスでもオタクはまあ、結構多くいたと思うぞ?」
「で、でも、私みたいなリア充オーラ全身から光の様に放っているのが話しかけたら、みんな逃げてしまうんですよぉ……」
「……お前、結構嫌なやつだな。じゃあよく一緒にいる璃子とかに言ってみれば相談すれば良くないか?」
「言えませんよ!女の友情は一度ヒビが入れば瓦解までは時間の問題なんですよ!も、もし璃子や他の皆に『腐乱臭がするんだよ!便器の中にでも引きこもってろ!』とか『ゴミ虫以下の花畑イン・ザ・ヘッド!』とか言われたらどうするんですか!?」
「それは気にしすぎだろ……」
「それに私、限界なんです!璃子達と遊ぶ時間のためにどれだけのイベントを犠牲にしたか!二次元から飛び出してきたような大和くんと一緒に2人でプリ◯ュアコスしたいですー!」
「待てそれ女児向けアニメだったよな!そんなのまで見てんのか!?」
「大和くんのキュ◯ロゼッタコス……はあはあ」
「それ妹が好きなキャラだから知ってるけど!俺はあんなに髪の質量無いし!オレンジ色でもないよ!」
本能がもう逃げろってサイレンを出しまくっているが感極まったシーコが俺の肩を万力の様に掴んでいるのでそれすらできない!ていうか女の子に負けるって……。
「だ、誰か助けて!」
「あはは!受けですね!助けてくれるのはどんなイケメンでしょうか?ジュルリ……おっと失礼」
「ちょ、お前キャラ変わりすぎだろ!どんだけ完璧な外面だったんだよ!?」
「大和くんいやもうむしろ、やまとくんだけが私の心のオアシスなんです!はう~おっ持ち帰り~♪」
――終わり――
時間がないのでこの辺で終了とさせて頂きます。
会話主体なので他に書いたのと違って読み終わるのが早く、テンポ良く疲れずに読み終えて頂ければと思います。
また、結構書きやすいキャラだったので、連載用として使うかはこの小説の評価によって決めようと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
シーコ「や、もう今夜も熱くなっちゃいますよ!ボンバヘッって!」
大和「むっちゃっしって知った!本当の魔王!」