7 福岡防衛戦2
お待たせしました!
続編です。
雲を突っ切り、炎天は雲の中から飛び出した。その後を翔太、隼人の順で続いて飛び出す。
直ぐに機体を立て直し、辺りを警戒する。そこで、霜雷隊も到着した。
『どういう事だ!?』
隼人が驚きの声を上げる、翔太も息を呑む声が聞こえた。霜雷隊の連中も、大分困惑しているようだ。それは俺も同じだった、何故なら、敵機の姿が見当たらないからである。
『隊長!索敵班のミスですよ、敵機なんて何処にもいない』
最初はそう思った、しかし在り得ない、索敵班は敵の攻撃を受けたのだ。敵機が居ないわけが無い、いや居なくてはいけない。
そこで俺は、ふし当たる点に気付いた。それに気付いた瞬間、顔から血の気がサーッと引いた。
「全機!回避行動を取れ!」
俺はそう叫ぶと、操縦桿を強く握って、機体を回転させながら、降下した。隼人と翔太は、それに何とか着いて来たが、霜雷隊は何が何だか分かっていない状態だった。
その時、雲の中から閃光が走った。曳光弾だ。曳光弾とは機銃弾の中に四発に一発入っている、燃えながら飛んでいく弾の事だ。搭乗員は光りながら飛んでいく弾を見ながら、弾道の修正などを行う。
その数は半端じゃない、まるで雷の閃光のように、幾千もの二十ミリ機関砲の曳光弾が、空中を飛び交った。
『何だ!?』
霜雷隊も、初めて気がついた。敵はこちらの動きを察知し、雲の中を飛行していたのだ。霜雷隊の1機が、弾丸に機体を貫かれて、フラフラと落ちて行く。
アメリカの機体はその装甲の分厚いことで、被弾しても搭乗員は大丈夫、と言われ多く使われていた。しかし、残念なことに今の弾は真上から来ている、つまり操縦席を直接狙われていた事になる。
きっと今の機体も、機体自体には問題は無かったのだろう、しかし搭乗員に被弾すれば、戦闘機はたちまち落下する鉄の塊に成り果てる。
味方の機体は、そのまま海に墜落し、海中に沈んだ。
『くそぉお!』
霜雷隊の一人が突然叫びだし、機体を急降下させた。海面ギリギリの所で、今度は急上昇をし、雲に向かって機関砲を発射する。
その時だ。
雲から一機の戦闘機が、突然飛び出して来て、味方の機体とすれ違った。それと同時に、味方機の機首から突然火が上がり、コントロールを失って海上に墜落していった。
「全機、機体を降下させろ!隼人、お前は任せる!」
俺は機首を下げ、高度を下げた。零戦は高高度が弱点だ、しかし逆に低空ならば、格闘戦では零戦に勝てる戦闘機は存在しない。
隼人の機体は指示通りに、俺の編隊から離れていった。霜雷隊の生き残りの二機が、俺の編隊に加わった。指示に従う、と言う事だろう。
ふと、上空を見ると雲からは、約十数機の敵戦闘機部隊が続々と飛び出してきた。その後に続いて、巨大な爆撃機12機が、護衛をされながら悠々と出てきた。
『多いな……』
翔太が呟いた、確かにそうだ。こちらの動きを察知されているのでは、奇襲は意味を成さない。今までも何回か、自分達よりも数の多い敵部隊を相手にしてきた。
しかし、それは全て奇襲によって得た勝利だった。現実的に考えて多勢に無勢、勝ち目など無かった。
『遠雷隊!これは駄目だ、撤退を!』
「させない!」
俺は思わず叫んだ。これは侵攻作戦ではない、迎撃作戦なのだ。撤退は即ち、本土爆撃を許すことになる。そうすれば、軍人ではない、民間人が大勢死ぬ事になる。
「俺達が、ここで敵を守り抜かなかったら、福岡で大勢の民間人が死ぬぞ!それだけは許すな!」
『……』
「……良いか、皆。体当たりをしてでも、敵機の本土爆撃を阻止しろ。ここで死守するんだ!全機を海に叩き落してやれ!」
俺はそれだけを言って、機体を旋回させた。三機の敵がこちらに向かってくるのが見える、俺はわざとらしく再び旋回をして、敵機を誘った。
後ろを見ると、敵機の翼が規則的に光るのが見える、どうやら機銃を撃ったようだ。しかし、敵機の位置は俺の機体から三百メートルも離れている。
通常、その距離から撃って当てる奴は居ない。と言うことは…
「ヒヨコか…」
俺は唇の端を吊り上げ、静かに笑った。多分、敵の熟練操縦士は、この中には数えるほどしか居ないと思ったからだ。
俺は速度を落とし、3機の敵機編隊の前を、再び誘うように飛んだ。それに惑わされた敵機が、構わず機関砲を撃ってくる。
俺はそこで操縦桿を引き、機首を挙げ、宙返り飛行を取った。機体が大きく天を仰ぐと共に、強いGが体を押し付けてくる。後ろを見ると、咄嗟の反応に敵機は冷静な判断が出来ず、俺の機体と同じ運動を行った。
勝った。俺は心の中でそう叫んでいた。
零戦の強みとなる格闘戦に、敵がまんまと引っかかったのである。零戦は左旋回飛行と、宙返り飛行の旋回半径が、他の戦闘機と比べても、極端に短かい、それはつまりどう言う事かというと。
「貰った!」
敵機はそのまま空中で宙返りを続けている、しかしその時には俺の機体は既にもう一回転を始めていた。
俺はすぐさま目の前に取り付けられている、四式射撃照準器を覗き込んだ。
少し曇った硝子に、光学照準像が浮かび上がる。俺は機首を再び上げ、最後尾を飛んでいた機体に接近した。
それに気付いた敵は、急いで左旋回飛行を行う。しかし、先程も言ったように、零戦は左旋回飛行が得意だ。
俺は敵機をすかさず追いかけ、照準器を覗き込む。光学照準像で、敵機がはみ出すくらいに接近し、機関砲射撃レバーを握った。
ドドドッと言う音と共に、機体の震えが体に伝わる。それと同時に、主翼に取り付けられた二十ミリ機関砲4門の銃口が火を噴いた。
二十ミリ機関砲は、標的に着弾すると爆発する、炸裂弾で出来ている。しかし、二十ミリは口径が大きい為、弾の初速が遅く、当てるのは非常に難しいとされている。
しかし、当たれば良し。一発でも敵機に当てることが出来れば、たちまち機関砲弾が炸裂し、機体は内部から砕け散る。
俺の撃った機関砲弾は、特に外れることも無く、全弾が敵の機体に命中した。その瞬間に、敵機から爆発が起こり、黒煙と機体の破片を空中に散りばめながら、きりもみをして海面に墜落していった。
次も何時になるかは、分からないです。
次回「8 福岡防衛戦3」
お楽しみに!