4 隊員の機体を紹介しよう
戦闘を書かなくて申し訳ありません!
6話位に必ず戦闘を、必ず戦闘を!書きたいと思います。
1947年、7月24日AM10:00、牧崎飛行機発着場、第2格納庫。
「隊長…やっぱり無理です。やめましょうよ……」
美春がそう訴えてきた、その目には微かに涙を浮かべている。
「何言ってるんだ、これが出来るようにならなきゃ1人前になれないだろ?」
「……」
そう言うと、美春は無言のまま目線を落とした。それに俺は追い討ちをかける。
「それとも、半人前の子供のままでいるか?」
「それはっ!」
顔を上げて、美春が声を荒げた。その目は必死だ。
「だったら我慢しろ、まず教えたとおりにやるんだ。そしたらお望みどおりにしてやるから、まあ最初は苦しいと思うがそれも我慢しろよ」
俺が言った言葉は、遠回しにやれと言っているようなものだ。
「しかし隊長!私は男の人が駄目って知っているじゃないですか!」
美春はもう半泣きだ。
「じゃあ、お前は1人でそれが出来るのか?」
「!?……いいえ…」
悲しいだろうが、これが現実なのだ。男である俺が、経験者である俺でないと、美春に教えることは不可能だ。
「……隊長」
「何だ?」
美春は恐る恐る顔を上げ、上目遣いで俺を見てきた。
「私……こわいです」
「最初は誰だってこわいんだよ、ほらいくぞ」
俺は優しく、美春に手を差し伸べた。美春は警戒したが、ゆっくりと俺の手を取る。
「隊長…」
「美春…」
「ほら、もたもたしてると日が暮れちゃうぞ」
「分かりました、優しくお願いします」
美春は俺を見て、ニッコリと微笑んだ、とても可愛らしい。
「よし、まずはエンジンを掛けてもらおうか!」
「はいっ!」
俺は昨日の情報、敵の偵察機が領空内に進入してきたという情報を聞いて、戦闘はそう遠くは無いと判断した。そこで、素人である美春に、戦闘機の操縦法を叩き込もうと朝から奮闘しているのである。
昨日、本国から美春の専用機が届いた。名前は「閃電」第2次世界大戦中に開発していた機体だそうだが、戦況の悪化だかなんかで製造中止になった幻の機体だそうだ。
美春は座学の方を熱心に勉強していたという事もあり、基本的な操作法はわかっていた。後は少女である彼女が、飛行中のGに耐えられるかということだ。
Gに耐えるということは、戦闘機乗りにとって出来なければならない事。これは実際に乗らねば分からないことだ、座学ではGは体験できない。
「Gには気をつけろよ」
「大丈夫です、海軍学校では練習機に乗ったことがありますので」
そう言って、美春は自信満々の顔で言ってきた。多分勘違いをしていると思うので、一応言っておくことにした。
「おい、海軍学校の練習機とこの機体じゃ速度が桁違いだぞ」
その言葉で、美春の手がピクリと止まった。そしてゆっくりと俺の方を見る、その顔は少し青ざめていた。
「……どれ位ですか?」
「さあ、詳しくは知らないが、とにかくその機体は新機体だから練習機なんかクソみたいに遅いぞ」
練習機はGで気絶する人がいるから、そういう人の為に速度はかなり遅いはずだ。
「隊長……お願いがあります」
「何だ?言ってみろ」
俺は身構えて、次の言葉を待った。
「やっぱり、やめます!」
そう叫ぶと美春は機体から飛び降りて、一目散に外に駆け出していった。
「おい!待て!」
俺がそう叫ぶのは、当然聞くわけも無い。しかし建物の陰に差し掛かった所で、何者かが飛び出し美春にぶつかると、そのまま押し倒した。
「!?、ちょっと誰ですか!」
美春が喚きだす、何者かは美春の腕を摑んで強引に立たせた。
「何逃げようとしてんだ、お前は」
呆れ顔を見せて美春の腕をつかんでいるのは、遠雷特強隊副隊長臼倉翔太だ。彼がいた建物の中には機体が1機、その上で整備士達が何か作業をしていた。
翔太の機体の名前は「皇雷」太平洋戦争末期に、日本海軍が開発していた単発単座の試作局地戦闘機「震電」を改造した機体だ。
ちなみに隼人の機体の名前は「神速」第2次世界大戦末期に、ドイツ第3帝国軍が使用していた機体を、戦後帝国海軍が回収し、改造を施したのがこの試作高高度強襲戦闘機「神速」である。この機体は、高高度からの急降下強襲に特化した機体で、今後これを元に特別強襲隊専用量産機を生産するとかしないとか。
「……って副隊長!?、何でここに!?」
美春は驚きを隠せないといった表情だ、そんなのお構い無しで、翔太は俺の元まで美春を連れてきた。
「隊長達の声が隣まで聞こえてきて非常にうるさい、やるんだったらもう少し静かに頼むよ」
そう言って俺に美春を渡し、今度は美春に向き直った。
「お前も。隊長の言うことは2割は正しいんだから、しっかり聞けよ」
「2割じゃねぇよ!そんな割合じゃねえだろ!」
「おっとすまない、1割だったね。訂正するよ」
頭を下げて謝罪をしているようだ、何故だろう。少しも謝られた気がしない。
「馬鹿にしてるよね!?訂正して1割!?より悪いだろ!?」
こいつとは合うのか合わないのか、よく分からない。多分合わない気がする。文句を言う間もなく、翔太は自分の格納庫に戻っていった。
「……ん~、納得できない」
まあ、いいや。俺は諦めて美春に向き直った。
「よし、続けるぞ。さあ乗るんだ」
俺は閃電を指差し、美春へ機体に乗るように指示を出した。美春は苦い顔をしたが諦めたのか、ゆっくりとタラップを登り、閃電に搭乗した。
「まずはエンジンをかけるんだが、クランクでプロペラを回せ」
「りょ、了解…」
美春は操縦席の脇からクランクを取り出し、ごそごそとやりだした。金属音がしてプロペラがゆっくりと回りだす、俺はプロペラを摑んで補助をした。
ある程度回り始めたところで、すばやく後ろに下がった。
「よし、エンジンをかけろ!」
「はいっ!」
美春が操縦席で操作をすると、エンジン音と共にプロペラが勢いよく回りだした。プロペラのローター音が耳を刺激してくる、俺は操縦席に登り美春の側まで行く。
「よし、後はお前1人になるが慎重に離陸しろ。飛行場を1周したら俺が指示を出す、そのとおりに着陸しろ、いいな?」
俺は聞こえる程度の大きな声を出す、その言葉に美春は激しく首を横に振った。
「隊長~!操作法が分かりません~!」
………は?今なんて?俺は思わずキョトンとした。
「どういうこと?」
「だって、計器が座学と違うんですもん!」
泣きながら美春はそう訴えた、俺はそこで気づいた。こいつは確か訓練機しか乗ってない、そして今乗ってるのは最近完成した新機体だ。操縦法もマニュアルとは違うはずだ。
「って、お前なんで気づいた時に言わないんだ~!」
「だって今気づいたんですもん!」
見ると機体は既に前方へ進んでいた。このままじゃ操縦席に乗っていない俺は下に振り落とされて、操縦法をしらない美春はこのままだと墜落するだろう。あれ?ピンチじゃね?
「美春!取り敢えずエンジンを停止させろ!このままじゃ俺達死ぬぞ!」
「うえぇぇん!もうどれがどれだか分かりません~!」
美春はパニック状態に陥っていて、俺の指示なんて聞いちゃいない。どうすれば……どうすれば!
「こうなったら!」
俺は美春の乗っている操縦席に飛び乗り、美春を持ち上げ膝の上に乗せた。
「!?、ちょっと隊長!?何を!?」
「こうなったら2人乗りで俺が操縦する!」
それしか対処法は無いと考えた、俺が飛び降りれば俺は助かるが美春が死ぬ。かといって俺が飛び降りなければ、俺も死ぬし美春も死ぬ。
それなら、俺と美春で乗って俺が操縦させればいいことだ。
「隊長~!もう駄目です!死ぬ死ぬ!」
美春がパニックで暴れだした、機体はもう離陸寸前だ。
「あ~もう!美春、落ち着け!風防を、風防を閉めろ!」
風がビュンビュン入ってきて耳が痛い、俺は手を伸ばして風防を閉めた。
「美春!俺に来た手紙の差出人の名前は!?」
俺は美春の肩を摑んで、そう叫んだ。美春の動きが止まり、俺を見つめてくる。
「……えっと、浅羽千恵美……さん?」
「正解だ、落ち着いたか?」
俺は美春の頭を叩いて軽く笑った、美春は落ち着いて深呼吸をした。
「……はい…」
「よし、離陸するぞ。覚悟はいいか?」
俺の問いに美春は強く頷いた、それと同時に俺は操縦桿を手前に引いた。すると機体がゆっくりと浮上して、あっという間に飛び上がった。
それと同時にシートに押し付けられる、美春の体がぐっと俺に押し付けられた。
「よし、飛んだ」
「飛んだ!飛びましたよ隊長!というか体が重いです、これがGですね。意外と軽いです」
美春はさっきとは変わって、今度ははしゃぎだした、これはまだGといっても全然それではない。
「これから飛行場を1周し、その後着陸をする。旋回飛行をとるからGに気をつけろ」
「了解!」
美春は尚もはしゃいでいる、しかし俺はかなり不安だった。
「高度は200mを維持、速度も一定を保つ」
「200mですか…もっと上に行きましょうよ」
「馬鹿か、お前はともかく俺は軍服なんだよ」
美春は乗ることが決まっていたので、しっかりとした飛行服を着用している。しかし乗る予定の無かった俺にとっては、高高度はもちろんGも少しまずいかもしれない。
そのことに気づいた美春は「あっ」と呟き、申し訳なさそうな顔をした。
「すいません!私の技術不足で…」
「いや、これは前もって確認しておかなかった俺の責任だ」
新機体と聞いただけで、それは気付くべきだったかもしれない。
「それはそうと、そろそろ旋回するぞ」
「あっ……は、はい!」
俺は顔を覗かせて下を見ると、丁度海に差し掛かったところだ。
「いくぞっ!」
俺は左方向舵ペダルを踏むのと同時にスロットル・レバーを前に倒した、その直後に機体がゆっくりと左に傾き旋回を開始する。それと同時にGが俺の体を襲う。
「きゃっ!」
「うぅ、く!」
美春は目をつぶって苦しい表情をした、俺は体を左に傾けGに耐えた。
「いいか?今まで俺の操縦を見たか?」
見ていないでは今飛んでいる意味が無いので、一応確認をとった。
「大丈夫です、全部見ていましたから」
それなら話しが早い、俺は機体を水平に保つと操縦桿から手を離し、美春の手を摑んでその手を操縦桿に置いた。
「隊長?何ですか?」
「お前がやってみろ、ゆっくりでいい」
美春は俺の操縦をしっかりと見ていたらしく、直ぐに操縦桿を摑んだ。俺もその上に手を置き、ゆっくりと先程の手順で動かす。
「隊長…Gが来ました…」
「分かっている、俺にも来ている」
俺は美春の手の上に置いているだけなので、操縦は美春が全てやっている。それにしても、中々慎重で筋がいい、これは直ぐにうまくなるぞ。
「よし、戻せ」
「はい」
俺の指示にサッと動き、機体は水平になった。前方下には飛行場の滑走路が見えている、着陸だ。
「後は着陸だ、やり方はわかるな?」
着陸は離陸よりも難しい、距離や進入速度が重要になるからだ。
「大体は。ただ車輪の出し方が…」
その言葉を聞いて俺はすばやく主脚昇降レバーを引いた、その瞬間に機械音がして車輪が出たことを告げる。
「よし、慎重にだ。まず速度を落とせ」
「はい」
美春が操作をすると、プロペラが唸り速度計の数値が下がっていった。ここまでは順調、あっという間に適正進入速度まで下がった。
「操縦桿を前に倒すんだ、ゆっくりと」
美春は言われた通りに操縦桿を前に、ゆっくり倒した。機首が下がり滑走路がより見えるようになる、後は一番重要な着陸位置だ。
「なるべく滑走路は手前に着陸しろ、滑走路の距離が足りないとオーバーランをするからな」
「は、はい」
オーバーランと言う言葉に一瞬反応したが、直ぐに操縦桿を強く握ってゆっくりと下降した。滑走路がどんどん近づいてくる、それと同時に高度も下がっていった。
「よし、直ぐに機体を水平に戻して、水平状態を保ったまま滑走路に降りろ」
「は、はい」
滑走路が真下に来た瞬間、ゴトンと機体が揺れてそのまま滑るように滑走路を進んでいく。美春は素早く主輪ブレーキペダルを踏み込んだ、段々と速度が低下して失速していく。そして滑走路を3分の2程進んだ所で、機体は完全に勢いを無くし停止した。
美春がフーと安堵のため息を漏らす、それにつられて俺も肩の力を抜き脱力した。
「終わった~」
「終わりましたね……」
俺は手を伸ばして風防を開ける、プロペラからの風と共に外の空気が一斉に流れ込んできた。その風がとても心地よい。
俺は美春を持ち上げて外に出してあげた、俺もその後に座席から飛び出して地面に着地した。
すると、格納庫の方から5人程の人がこちらに駆けてくるのが見えた。
「お~い!翔に美春!大丈夫か?2人で飛び立つのが見えたんでなんかあったのかと思って」
心配そうな顔をして駆けつけた翔太が声を掛けてくる、その他にも隼人やその整備士達が声を掛けてきたが、「心配ない」と手を振った。
「おい、誰か美春の整備士に機体の収容をさせてくれ」
「分かりました」
翔太が自分の整備士に指示をだすと、整備士の1人が小走りで美春の格納庫に向かっていった。
「どうだった、翔」
翔太が近づきながら訊いて来る。
「大丈夫だ、後は経験あるのみだな。操縦もこれからちょくちょく練習すれば直ぐにうまくなると思うぞ。ま、敵に弾を当てられるかは不明だけどな」
俺は笑いながら美春の頭を叩き翔太にそう告げた、美春は照れたのか俺の手を避けて少し離れる。
「そうか、それなら安心した。敵の攻撃もそろそろ近いと見たからな」
俺は何も言わずに唯頷いた、敵の攻撃は明日かもしれない、明後日かもしれない。もしかした今日かもしれない。だから今は気を抜かず、攻撃に備えるべきだ。
「よし、取り敢えず翔、美春もお疲れさん」
隼人が肩を叩いて俺と美春にそう告げた。
「それにしても、単座に二人で乗り込むとはな・・・。そもそも、しっかりと離陸するまで車輪に止め木を置いておけば、こんなことにはならなかっただろ」
翔太が、俺にしつこく愚痴を言ってくる。しかし、疲労に侵された自身の身体は、翔太の声を一切受け付けなかった。
「ああ、俺は取り敢えず一回宿舎に戻って休むわ」
俺はそう生返事をして、皆を置いて1人で宿舎に向かった、疲れが半端無い。今までこんなに疲れた事あったっけ?
教訓…戦闘機の2人乗りは危険だし疲れが倍になる。そうしみじみ感じた。
不定期ですが、着々と構想を練って書き上げていきます。
どうか生温かい目で見守ってください、失踪はしないと思うのでご安心を。