1 俺の愛機と整備士を紹介しよう
とりあえず、1話を投稿します。
1947年7月23日、壱岐島・牧崎飛行機発着場、第3格納庫。
「…暑いな、冷房くらい支給してくれてもいいだろ…」
俺は肩に掛けたタオルで額の汗を拭い、夏空を仰いだ。日差しは休むことを知らないようだ、少しは休んでもいいんだよ。
俺は大日本帝国海軍特別航空強襲部隊所属、遠雷特別強襲隊の部隊長、武井翔。この部隊は他の部隊とは違い、強襲を得意とする者が集められた部隊だ。
それに、目的とするのがただの敵航空機だけでは無い、朝鮮空軍基地及び対馬諸島から日本に向け発進する本土爆撃機を日本の本土上空に到達する前に日本海海上にて迎撃、撃墜することを目的にしている。
作戦内容が特別な為、帝国海軍内でも存在が怪しいと言われている。まあ、俺はその存在が怪しい部隊に所属しているんだけどな。
出撃命令は1週間に1~2度くらい、どちらかというと少ないほうである。だからこの部隊に来てからは暇なことが多い、今日も暇ということで俺の愛機を見に来たのだ。
格納庫のシャッターは全開になっている、機体の下には人影が見えた。
「どうもー、今日はあついな」
俺が声を掛けると、機体の下に居た人影が這い出してきた。這い出してきたのは、作業服に身を包んだ10代の青年だった。
「あ・武井大尉!失礼しました!」
その青年は俺を見るや否や、慌てて立ち上がり背筋をピンと伸ばして敬礼をしてきた。
「やめろ、そういう堅苦しいのは無しにしろって言っただろ」
俺は苦笑いをしながら、側にあった机に腰を掛けた。
「いや、しかし階級が上の方に対してはやはりこうしないと」
とは言ってるものの、青年は肩の力を抜いてその場にしゃがみこんだ。
青年は俺専属の整備士の1人、望月啓太年齢は18歳。こいつは父親と共に整備士として働いている、いわば見習いみたいなものかな。
「おい望月、お前の親父さんはどこに行った?用があるんだが」
「えーっと、多分海へ釣りに出掛けたんだと思います」
こいつの父親、高俊は63歳のおっさんで、俺がこの部隊に配属される前からの知り合いで確か釣り好きだったような。
「しょうがないな、まったく呑気なんだから」
「すいません、帰ったらよく言っておきますから」
俺の言葉に啓太は細かく頭を下げていた。
「ところで、どうだ?機体の調子は」
俺は立ち上がって、愛機に触れながら訊いた。
「あ・はい、先程親父が調整を行っていたので絶好調だと思います」
俺は機首に触れてそのままなぞるように指を動かした、深緑の塗装が日差しに当たり、綺麗な緑色が浮かび上がる。
俺の搭乗している機体は、大戦中に使われていた局地戦闘機「紫電改」を改造し、見た目はそのままで中身をアメリカ製の良い物に変えた。邀撃戦闘機「炎天」
日本の戦闘機は大戦中は、世界水準を超える優秀な機体だった。なら何故負けたか、それは資源の枯渇にあった。どれだけ優秀な機体でも、燃料が無ければ動かない。
だからこそ、俺は日本の戦闘機にこだわった。今の日本はアメリカとの国交を回復済みで、燃料も輸入できる、資源があれば日本機は十分に優秀な機体に戻れる。
それで改造したのが、「紫電改」だ。
通常、海軍ではアメリカから支給された戦闘機を使用する人が多い。だが俺のように改造したり、昔にこだわったりして日本機を使用する人も少なくは無い。
「おーい、今帰ったぞー!」
と、やけにでかい声が格納庫の外で響いた。声の主は…考えるまでも無い、どうせあいつだ。
俺は外へ足を運んで、声の主…望月高俊の前に立った。
「遅かったな、じいさん。こんだけ時間が経ったんだから、それはそれは物凄い大物が釣れたんだろうな」
俺の姿を見て驚いた表情を見せたが、直ぐに表情を戻し、俺にクーラーボックスを渡してきた。手に持つと、確かに伝わる重量感があった。
「おっ、何だ釣れてたのかよ。それなら仕方がないn……」
そう言いながら蓋を開けたクーラーボックスには……大き目の岩が1つと、長靴が1つ、缶詰の空が2つ。
「……って魚じゃないのかよ!!」
「おい小僧、ワシはお前にクーラーボックスを渡しただけで釣・れ・た、とは一言も言っておらん」
高俊は勝ち誇った笑みを浮かべている。なんで立場が反転してるんすかね…
「そんなこと言って、釣れなかったのを有耶無耶にしようとするな!ジジイ!」
「小僧!年配の人に対する態度が分かっていないようだな、ならその体に刻み込んでやる!」
高俊は雄叫びを上げながら俺に突進してくる、俺はそれを避け、すかさずに首をホールドしにかかる。
しかし、俺が掴み掛かった先には何も居ず、俺は宙を掴む。ヤバイと思った瞬間、俺は足を取られ派手に後ろに倒れた。
「覚悟しろ、小僧!」
声がしたのと同時に、俺の腹に高俊が乗っかり雄叫びを上げ、俺の頭にチョップを叩き込んできた。
「クッソ!釣り下手が!」
俺は上体を捻り、高俊を横に投げ飛ばした。直ぐに立ち上がって追い討ちを掛ける。
「クソ、小僧が卑怯だぞ!」
「黙れ!これでも食らえ!」
俺はクーラーボックスから取り出した長靴を、高俊目掛けて力一杯投げつける。高俊がそれを腕で振り払い、宙を舞った長靴はそのまま啓太の顔面を直撃した。
「「あ」」
2人同時に口をぽかんと開け、倒れる啓太を眺めていた。
「……」
「……」
「…じゃなくて、大丈夫か!啓太!」
「よくも息子に手を出したな!」
高俊が飛び掛ってくる。
「今のは完全にあんたのせいだ!」
そして、また乱闘が始まった。
これからは、なるべく週1で投稿しようと思います。
どうぞ、よろしくお願いします。