海の恋
いつか、海は毎朝海岸を歩く少女に恋をした。
少女は、自然な茶色の長い髪を幼い麦わら帽子で押さえ、白いワンピースに小さい足を裸のままに、いつも一人で打ち寄せる波の際を歩いていた。
どうして、いつも一人なんだろう。寂しくはないかい。海はいくつも少女に尋ねたくなったが、海の言葉は少女には届かなくて、ただ足下へ、足下へ、波を寄せて少女に触れた。だが、少女は、波がいくら近付いても、濡れないように、濡れないようにと、ちょうど打ち寄せてきた分だけ海から離れて、それでも海岸を毎朝歩いた。
申し訳なくって、触れられなくて狂おしくて。海はどんより、翳った。海は、そうして、荒れた。
大波が、平和を歩く少女を、まるで襲うかのように呑み込んだ。海の意思なんて関係なく、勝手に、自然に、少女は波の中に揉まれて、海に流れた。
海岸線から、少女の姿は消えた。海は分かっていた。少女は自分のそばに、隣に、内に居るのだと。そしてそれ故に、寂しいのだと。