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第九十八話 絶体絶命

「その目は俺を裏切ってくれた礼だ」

 それを聞いても天礼は、両目を押さえ、夜具の上でひいひいとひきつった声を上げるしか出来なかった。

「天礼兄よ。さぞや思惑通りに運んで嬉しかろう。だが俺はお前に敗れたのではない。むしろ俺を魔道に誘い込んでくれたことには礼を言う。おかげで俺は誰よりも強くなれる……陰陽の秘伝も、俺が手に入れる」

 魔物どもが天礼の耳元でまた「げひひ」と笑い、天礼はそれを振り払うように逃げると、うずくまってみじめに呻いた。

「助けてくれ、助け……丞蝉、私が悪かった。命ばかりは……頼む」

 わはははと、また太い笑い声が渦巻くように伝わった。

「お前の命など、奪ったところで何の値打ちもないわ。生きたいのなら、生かしてやる。せいぜい陰陽の秘伝を追うがよい」


 その時、まぶしい光が部屋を照らした。

 そしてその光の向こうから、智立の毅然とした声が響いた。

「丞蝉、うぬは……何ゆえ、また悪霊どもを従えて戻ったのじゃ!」

 智立のその光に、魔物どもは次々と消し潰されていく。

 辺りは、まるで鳥が騒ぐように、ギャアギャアと騒々しくなった。

 だが丞蝉の眼の光はいよいよ怪しく(ほむら)だった。

「ふふ……。お前など、もう師でも何でもないわ。とり殺されたくなければ引っ込んでおれ」

「何っ?!」

 丞蝉は印を組むと呪文を唱え、さらに魔物どもを呼び出した。

 智立も真言で対抗したが、魑魅魍魎の数が半端ではない。

 後から後から湧き出ると、智立を取り囲んでしまった。

「う……ぬ、ぬ」

 ぞわぞわと、化け物どもはにじり寄ってくる。

 その化け物どもの中に混じって、はっきりと人形(ひとがた)をした悪霊が覗いた。


 一人は丞蝉に殺された山根勝之進。

 腹を突かれたのか、そこからドロドロと流れた血が下腹部を濡らしている。

 口をだらりと開け、目を白く剥いたその末期(まつご)の顔からは無念が感じられ、その喉から出る呪音はいまや丞蝉ではなく智立に向けられているのだった。

 そしてもう一人は祥元であるらしい。

 こちらはからだ中が破裂して死に至ったゆえ、もっとも悲惨な姿であった。

 顔の半分はすでに白骨が現れているばかりか、土の中から這い出てきたと思わせる全身は泥にまみれ、溶け出した皮膚と混ざり合って醜悪そのものである。

 想像を絶する異臭に、智立は思わずえずくのを抑えられない。

「ふふふ、どうした。それで終わりか、智立よ」

 智立の発する紫の光が翳りを見せ、額からは汗がこぼれ落ちた。

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