表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/360

第九十七話 亡霊

 その夜、亥の刻(午後十時)を回った頃――。

 円嶽寺の木戸が激しく叩かれ、寺男の一人が慌てて対応に出ていった。

「こんな時刻に、どなたじゃな」

 すると、か細い声が、

「龍円にございます。ここを開けてくだされや」

 と言う。

「りゅ、龍円さん? わかりました、すぐに」

 昼間、高香が戻ってきたこともあり、続けて行方知れずの者が戻るとは不思議な日よ、とも思いながら、結局は疑わずに木戸を開けた。

 ――と。


「ひっ、ひっ、ひっ、ひっ……」

 寺男は腰を抜かし、その場で尻もちをついた。

 そこに立っていたのは、確かに龍円。――であったろうと思われる。

 今やその顔はどす黒く倍以上に膨張し、目鼻は崩れ、頬にはうじが湧いている。衣服はボロ布と成り果て、二の腕はすでに白骨であった。

 完全に死人である龍円は、しかし、カクカクと奇妙に揺れながら立っているのである。

「ひゃぁぁぁーーっ!!」

 ついに寺男は口から泡を吹き、気絶した。

 その横を、わらわらと悪霊どもが通り過ぎ中へと入ってゆく。

 龍円の体からもヤモリのような妖魔が這い出しそれに続くと、亡霊は立つことかなわずどおと地に崩れ落ちた。


 その背後に現れたのは、丞蝉である。

 丞蝉は、龍円の腐った体を踏み越えて、まさに不敵に笑みつつ境内へ足を踏み入れていった。


 辺りはいつもと変らぬ闇であったが、何となく天礼は寝付けなかった。

 今日、念願かなって丞蝉が破門されたというのに、たいして晴れ晴れしい気分にもなれない己が忌々しく感じられてならぬ。

 ――私はやつを恐れているのか?

 違う、と心の中で否定してみるものの、不安は去らなかった。

 さらに先ほどからの、この異様な冷気は何であろう。 

 ぶるっと震え、それでも天礼は無理に目を瞑り、よいことばかりを考えようとした。

 そう、丞蝉は去り高香が戻ってきた。

 高香こそ「陰陽併せ持つ者」に違いないのだ。

 そして明日からは、誰にも邪魔されずにその秘密を探ることが出来る……。


 その時あり得ぬものの気配を感じ、はっと目を開けると部屋を見た。

 すると。

 何と、そこには、赤い光に包まれた丞蝉の姿があるではないか。

「じょ、丞蝉……!」

 天礼が飛び起きるのと同時だった。

 長い爪を持った枯れ枝のような手が伸びてきて、一瞬にして天礼の両目を突いた。

 悲鳴を上げ天礼は、顔を覆うと横倒しに夜具の上に倒れ、のたうった。

 脳を掴みえぐられるような痛みと、さらなる恐怖に胸は裂けそうである。

 いひひひ……という魔物の笑い声と、風の唸るような音が混じり、その中から丞蝉の低い声が耳に突き刺すように聞こえてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ