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第九十二話 密告

 勝之進は今夜動く――。

 そう思ってひっそりと廊下の暗がりに身を沈めていた天礼は、勝之進が丞蝉の部屋に入るのを見て自分も忍び寄った。

 そうして勝之進が開け放ったままになっていた障子戸の隙間から、丞蝉が勝之進を刺し殺すまでの一部始終をしっかりと見たのである。


 幸い風が強く、木々のざわめきが天礼の気配を消してくれていたとみえる。

 気づかれることもなく天礼は即座に自室に駆け戻り、夜具の中で震えながら思案した。

 もう一刻の猶予もない。

 ただちに師に丞蝉を破門してもらわねばならない。


 翌朝、振鈴の前に天礼は智立の部屋を訪れ、「じつはゆゆしき事態が」と切り出した。

 (しとね)から身を起こし、このところ続いている陰惨な事件がため眠りも浅くなっている智立は、やや(うと)ましげに何事かと聞いた。

「丞蝉が……丞蝉が山根勝之進を斬り殺してございます」

 智立は一気に眠気が飛んだようだった。

「何っ?!」

 と、思わず声がうわずる。

 天礼は続けて、夜具の中で思案した言葉を述べた。

「夜半、(かわや)に立ちましたところ、かの者が丞蝉の部屋に忍び入るを見ましたれば、つい覗いてしまいました。そこで山根殿が、白菊丸の仇と思い違えて丞蝉に斬り掛かるのを見ました」


 さすがの智立も顔面から血の気が失せ、呆然と言う。

「山根勝之進は、丞蝉をそのように恨んでおったのか……それは筋違いじゃ。それで逆に丞蝉に殺されたというのか」

「は」

「それならば正当防衛じゃ。丞蝉に罪はあるまい」

「ところが」

 ――「ところが」、と天礼は身構えた。

 そう、ここからが肝心なのであった。

 心の中でにやりと笑う。

「ところが、あやつは(しゅ)を使ったのです。何と、悪鬼を――魑魅魍魎どもを易々と呼び寄せていたのを、この目ではっきりと見ました」


「何と! 何と申した、魑魅魍魎じゃと?!」

「はい。あやつは魔道の術に手を染めたに違いありません」

「うぬぬ……」

 智立が眉間を険しくして、すっかり黙り込んでしまったところをさらに追い詰めるように、天礼の声は自然と低く、だが決然と発せられた。

「師よ。師もお感じになられたことがおありのはず。やつが白菊丸の部屋から出てきた時、私ははっきりとやつに魔が憑いたと感じましたぞ」

 ついに智立の手が夜具を掴んだまま激しく震え出した時、天礼は「勝った」と思った。

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