第九十話 血の断末魔
いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。今回は少々グロテスクな表現を含みますので、ご注意ください。
丞蝉がひとり部屋で何事かを唱えていた頃、祥元の体にはぶくぶくと赤い腫れ物が広がり始めていた。
それは最初、白菊丸が引っ掻いたふぐりが赤く腫れることに始まり下肢に現れ、段々と上部へ移っていった。
あっという間に胸まで火ぶくれたようになった時、さすがに祥元は気が錯乱する思いで叫んだ。
「早く医者を、医者を呼んでくれ!」
寺男が慌てて医者を伴って戻る。
すると、その目の前で腫れ物がぶつぶつと醜い泡を作り、まるで生き物のように蠢き出したではないか。ばかりか、色もどす黒く変り、一斉に膿を吐き散らした。
それこそ鼻が曲がるどころか、鼻がもげるほどの臭さである。
あまりの凄さに息も出来ず、医者も付き添いの僧も皆まろび出るように部屋から飛び出した。
「うわっ、うわっ、うわぁぁぁ〜っ!!」
部屋から祥元の声が上がる。
と、その叫喚に肉が弾き切れるような音が混じった。
ぶちっ……ぶちっ……!
「ぎゃぁぁぁぁ……っ!」
ばっ! と障子戸に血が飛んだかと思うと廊下で耳を塞いだまま震えていた小僧の顔に血膿が掛かり、小僧は悲鳴を上げて引っ繰り返った。
しばらくは、凄まじい勢いで世にもおぞましい音が交錯するのを、皆身動きも出来ずにただ聞いていた。
肉が破裂する音。
血飛沫が噴き上げる音。
そして祥元の断末魔の悲鳴――。
ようやく音が絶え、脂汗を額に滴らせながら中を覗き込んだ者たちは、その惨状に絶句せざるをえない。
血の海であった。
天井にまで血がおよんでいる。
その中で、祥元はほとんど物のように仰向けに絶命していた。
体中弾け、穴だらけである。
が。
その祥元、いきなりくるりと顔をこちらに向けた。
そして低い、風が唸るような声で、
「白菊丸を殺したのは、俺だ」
と言うと、今度こそ本当にこときれた。
その二日後、寺は白菊丸の葬儀を丁重に施した。
今は身寄りのない白菊丸を、丞蝉は永代に渡り供養していくものと思われた。
一方、祥元は今際の際の自白がために智立から憎まれ、骸は裏山にうち捨てられた。