第七十七話 夢の子供
天文二年、桜の季節に、円嶽寺ではまた武家から行儀見習いの稚児たちを迎え入れていた。
僧たちも規則正しく朝の勤めをこなし、それぞれ修行に入る。
色々なことが、また以前のように戻りつつあった。
丞蝉は相変わらず白菊丸に寄り添いながら、だが智立に隠れ、魔道との接触は怠りなかった。
目的を持って魑魅魍魎を呼び出すではなかったが、丞蝉の組む邪悪な印に引かれ、ふらふらと地の底から這い出る魔魅は後を絶たなかった。逆に、お呼びでないとばかりに、丞蝉の方が結界を張って消滅させる。
妖魔たちは日々、湧いては結界に潰され、を繰り返していた。
だが丞蝉は、使うべきところでは妖魔を操っていたといえる。
すなわち、それは夢の中においてである。
夢の中で、丞蝉は陰陽併せ持つ子供のことを知りたいと願う。
いつ生まれ、どこにいるのかが知りたいと願う。
そう強く思っていると、呼び出しはしないのだが、向こうから勝手にやってきてドロドロとした像を見せるのだ。
それは最初はまったく形を成さなかったが、春を過ぎる頃から、徐々に人の形を取り出した。
そしてそれは――。
幼児だった。
まだ三歳くらいの。男か女かはわからない。
――それは問題なかろう。どうせひとつの体の中に、男と女を備えている。……だがやはり、あの嵐の夜だったな。
皮肉っぽく口の端を上げると、もっとよく見ようと目を凝らしてみる。
が、その影は、水に映ったもののように一瞬後にはゆらりと溶け出してしまうのが常であった。
また違う妖魔は、ひゃひゃっと笑いながら一方を指差してくれる。
その方角を捜せと言っているのだろう。
とはいえ、そいつは出てくるたびに違う方角を指差した。
妖魔のような知恵のない輩のくせに、ひょっとして丞蝉をからかって悦んでいるのだろうか。
――雷は笹無村に落ちたのだ。
丞蝉には確信があった。
――子供は笹無村にいる。
もう急ぐ必要はない、これで陰陽の秘法は手に入ったも同然。
そう楽観した丞蝉は、天礼が苦労を高みの見物と決め込んだ。
天礼は妙に猫なで声で丞蝉に話し掛けてくる。
「どうだ。お前のその才覚で子供を探り当てたか? お前なら、訳もなかろう」
そのたびに、丞蝉は夢で妖魔が指差した方角の村を教える。
すると天礼は、いそいそと出掛けていくのであった。
兄弟子のこういう馬鹿な姿は、丞蝉には可笑しくてたまらない。
必ず肩を落として帰ってくる天礼の様子を、白菊丸と一緒に窺い楽しんでいた。
ある日、智立が村の法要に呼ばれたのを機会に、丞蝉はついに思い立った。
「白菊よ。そろそろ俺自身が笹無村へ行ってくる。二、三日で戻るからいい子にしておれよ」
白菊丸はただ笑っている。
その頭を撫でると、留守を龍円に任せ、丞蝉は意気揚々と山を下っていった。
だが、笹無村に子供はいなかった。