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第六十九話 陰陽併せ持つ子

『稲光と雷鳴が轟く夜に生まれた陰陽併せ持つ子は、これを征服せし者の絶対の宝となりて、

 征服者の死または子自身が陽にあって陰と真に契り合い、解き放たれるまで一体となる。

 陰陽併せ持つ子とは、すなわち、天の気を味方に、地の気の加護を受けた者である。

 これにより征服者は、天と地の征服者となる。……陰陽伝』


 今この書を目の前にして、丞蝉は異常に心躍るのを感じていた。

 『魔道ノ書』を見つけた時とはまた違う、あの時が「どす黒い希望」だとすれば、今は「白光の野望」だ。

 ――天と地の征服者となる。

 この最後の一行に、丞蝉は魅せられた。

 ――そうだ。これこそが俺の望んだ究極のものだ。俺は天地の征服者ならんとする。神仏が何だ。人間など蟻の群れに過ぎぬ。天地を統べればすべてが俺の足元に屈する。

 そしてこの後には補足とでも言うべき文句が書き添えてあった。

『陰陽とは、正と負、上と下、天と地、朝と夜、男子と女子というような対極のものをさす。

 すなわち、その対極を身体にそなえたる子は嵐の夜に生まれ出ず。

 その子は神人(かみびと)なり。

 恐れ多くもこの子を女子として契るがよい。 

 しからばこの神人をして天地思いのままに動き、最高の快楽を得るであろう。

 神人は契りをもってその力を強め、汝が命尽きるまで汝永劫に主なり、一切、(はん)受くることなし。

 もし神人、男子としてまことの情けにて女人と交われば、その功徳はたちどころに消滅する。』

 またそれに続き、『神人の起源とは……』とある以下の文は、故意か偶然か破り取られていた。

 書を眼下に、丞蝉はにやりと笑う。

 ――陰陽併せ持つ子、か。嵐の夜に生まれた、そんな子がいるというのか。……よし、面白い。捜し出してやろうではないか。

 そしてもう一度つくづくと秘伝書を眺め渡した時、丞蝉の心にふと疑問が浮かんだ。

 本当に天礼がこれを自分に渡せと言ったのか、ということである。

「だがまあいい」

 丞蝉にはこの秘伝書が、自分の手に渡るべくして渡ったのだという不思議な確信があった。


 翌日丞蝉は円嶽寺に赴き、天礼に会うと、秘伝書を確かに受け取った旨伝えた。

 天礼のその時の驚きと失望は、隠そうにも隠せるものではなく、「そうか、それはよかった」と言いながら、顔面は蒼白であった。

 むろん、気づかぬ丞蝉ではない。

 この秘伝書は何らかの手違いで自分のもとに巡ってきたのだと悟り、可笑しみがつい言葉の調子に乗った。

「天礼兄。この秘伝、当然兄も(もく)されたと見える。さて、手に入れるのはどちらが先になることでしょうな?」

 この時、いつもは穏やかな天礼の眼に(ほのお)が上がった。

 いや、眼だけではない。

 両の拳が、両の肩が震えていた。

 この静かな男は、全身から焔を上げていたのである。

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