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第六十話 廃寺の闇(一)

 一年前、廃寺において丞蝉がどのようにして悪しきものを呼び出せるようになったかと言えば、それは定かではない。

 ただ、向こうからやってきた、とも言える。

 おそらく、丞蝉の持っている凄まじい気に引き寄せられてきたのであろう。

 だが妖魔たちは、ただ暗い中空にゆらゆらと漂い臭い息を吐くのみで、特に丞蝉を主と仰ぐ様子もなければ下知を待っている風でもなかった。

 ともすれば、自分の肉を喰らいかねぬとさえ、丞蝉には思えた。

 つまり、彼らを操るどころではなく、どうにか抑えるためにこそ、己が気を磨かねばならなかったのである。

 丞蝉がひとり趺坐(ふざ)する廃寺の一室は、あたかも墓場そのもののように荒れすさみ、くだんの魔道書は紐解けば紐解くほど、いよいよ妖しい気配が辺りに満ちていった。

 丞蝉は魔道書の呪文を唱え、魔魅や魍魎を次々に呼び出した。

 だが収める方法がわからない。

 妖魔たちはぞくぞくと湧いて出て、あるものは下界へと彷徨い出、あるものはまた悄然と魔界に戻り、あるものはこの男の側に(とど)まった。

 日々次第に体が重くなるのを感じたが、同時にそれに負けまいと緋色の気を大きく放つような技を身につけたのは、この男の稀有なる才覚であろう。

 やがて『魔道ノ書』を読み進めるうち、魑魅魍魎を己の意のままに操るには「餌」が必要なのだと丞蝉は知った。

 その「餌」とは。

 ――俺の命か。

 なるほど、この書を残した者も、自分の血で書き付けたに相違ない。

 指先で血文字に触れると、一瞬文字が生き物のようにうねり、鈍い光を放つのだ。

 ――この血文字は生きている。これを書き付けた者も、おそらく自分の命を削ったに違いない。

 たが丞蝉には、まだ己の命を削ってまで魔物を動かしたい道理はなかった。

 それよりも、命を削らずとも従わせる方法を見つける――これを己に課した。

 そして数日、書を耽読(たんどく)するうち奇妙な声が聞こえてきたのだった。

 ――ぐわぁはは……呼び出すだけで、すでにお前は精気を削っておるわ……


 ぶわりと黒い霧が舞った。

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