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第六話 村祭り(三)

 遠くから、笛や太鼓の音が聞こえてきた。


 両手を長吉と次郎吉に繋いでもらったしのは、その聞きなれないが楽しそうな音に、大はしゃぎで村の広場に到着した。

 着くなり長吉と次郎吉は「うおーっ」と声を上げ、しのは甲高い声を立て興奮する。

 村の広場は、たくさんの提灯が木々に吊るされていて明るかったばかりか、大勢の村人たちの持つ提灯の明かりがゆらゆらと揺れて幻想的な雰囲気だった。

 賑やかな笛や太鼓は、祭りを盛り上げるために町から招かれた芸人たちが奏でている。

 そしてその前では、たくさんの村人たちが思い思いに踊っていた。


 今夜は村中の人間がここに集っている。

 疾風は辺りを見回した。

 もちろん村の人間の顔は皆見知っている。

 が、今夜はあちこちの村からも人が出ていた。

 もしかしたら、通りすがりの旅人なども混ざっているかも知れない。

 今夜は無礼講で、誰かれ構わず酒が振舞われ、簡単な食べ物が出されている。

 焼いた芋や、あぶった川魚、そしてぜんまいなどの入った粥など、皆で豊穣の恵みを感謝しそれを分かち合う意味のある祭りであった。

 よそ者とて一緒に祝うというのがこの草路村の人々の心根であったのだ。


 その人いきれの中に、疾風は赤子を背負った小太りの茜の姿を見つけ、近寄ると声をかけた。

(あかね)

 疾風の声に茜が振り向く。そしてあかぎれた頬を緩ませた。

「いつもより賑やかだね」

「うん。他の村からも大勢来てるな」

「ねぇ疾風、弟たちを知らない? 先に出たんだけど」

 疾風は元いた方を振り向いた。

「あそこにいる」

 疾風が指差したのは長吉と次郎吉だ。二人とも、踊りの人々に見入っている。

「あれ、ほんとだ。いつの間にかあんなところに」

 疾風は先にしののことを話した。

「真ん中にいるのは昨日からミョウジのところに来た、しのって子だ。やっと次郎吉にも子分ができたぞ」

 疾風のその言葉に茜は可笑しそうに笑い、

「子分がねぇ……この子もいずれ子分にされちゃうね」

 赤子の尻を軽く叩く。

 赤子の名は、末吉。七歳の茜の背中でぐっすりと眠っていた。

 続けて茜がうきうきと言った。

「うちの父ちゃんと母ちゃん、川魚を配ってるんだ。あとでもらいに行こ」

 疾風の頭に、昼間、自分が寺へ持っていった鮎が浮かぶ。

(川魚? ……今、寺で食べてきたところだ)

 疾風はもじもじと下を向くと、やっと言った。

「う、うん。でも、俺、芋にする……」


 とたんに茜の小さな目が吊りあがったように見えた。

「あんたも……あんたもあの三姉妹が気になるっての?!」

「えっ? 三姉妹?」

 茜の顔は真っ赤だった。

 怒ると狭い額と丸い鼻の先がてかてかと光ってきて、疾風の目はそっちへ釘付けになった。

「言い訳しても駄目だからね! 男は皆あの人たちに優しくするって母ちゃんが言ってた……あんたなんか、まだ子供のくせに!」

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