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第五十七話 星霜

 丞蝉が法臨坊大導師の庵に籠ってから、一年が過ぎた。

 その間、細田家家臣らによる石ノ松城奪回は、ただ一度のみ試みられた。

 それは年も明けて間もなくの頃であったが、血気にはやる男たちの望みはあっけなく潰え、幕府軍を率いた滝権三衛門義影は切腹、沖田伝次郎道保と金田仁兵衛の二人は捕らえられて死刑になった。

 そもそも末成義詮が非情にも、二人に武士としての切腹を許さずあくまでただの罪人として(はりつけ)獄門にしたことで、残った家臣たちの肝は縮み上がり、それにより、以降彼らの謀反心の芽は摘まれることとなったのである。

 後藤田平八と木下小五郎は敗走し、なおも城近くに潜伏する。


 白菊丸は、「それでもいつかは」という健気な思いを捨てず、山根勝之進にこっそりと剣術の指南を受けていた。

 が、残念なことに筋立ちは期待できるものではなく、見ていて痛々しいというのが実情であった。

「なんとお気の毒なご境涯よ」

 そう言って小者平助はさめざめと泣く。

「しかし若君のご運はお強い。あの義詮めもいまだ若君には手も足も出せませぬ」

 勝之進は、やや楽観的な若者であった。

 だが実際、末成義詮は真剣に白菊丸の行方を捜していたのだから、まだ見つかっていないということ自体は奇跡である。

「きっと、智立様の法力のおかげじゃ。この寺にいらっしゃる限り、御身はご安泰と存知まする。ありがたや」

「――亡き父上、母上、兄上も、私を見守っていてくださる」

 ぽつりと言った白菊丸のその言葉が、二人の従者をさらに咽ばせた。

「若、何としても、石ノ松の御城に連れ帰って差し上げまする……」


 そんな中、いよいよ白菊丸の居所が知れるかもしれないという危機がやってきた。

 年季を終えた上稚児たちが、親元へ戻っていく時がきたのである。

 当然、奉公中に城を失い孤児になった哀れな稚児のことは話に出るだろう。

 放置していてくれればよいが、噂になって洩れ出る心配は多分にあった。

 智立は、

「人の噂をやたらしないことも、立派な成人の務めでもありましょうぞ」

 と、それとなく諭しはしたが、どうであろう。

 と言って、わざわざ仔細に触れれば、かえって人というもの、噂の種にしてしまうものだということは、よくわかっていた。

「この寺を出られてはいかがか」

 しかし、智立の法力で守られていると信じている二人は頑なに固辞するのであった。


 そういう日常の、風が冬めき冷たくなってきた頃、丞蝉は帰ってきたのである。

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