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第五十四話 白菊丸と丞蝉(二)

 最初、(かたく)なに閉じられていた白菊丸の体も、徐々に柔らかく開き出した。

 ことが終わった後、丞蝉が言葉どおり幸元らの最期を語って聞かせると、白菊丸は身を伏せて、それでも声は上げずただしゃくり上げた。

 泣き声を無理に殺す方が苦しいことはわかっている。

 丞蝉は声音(こわね)も優しげに、

「無理をするな。男でも、泣きたい時には泣けばよいのだ」

 と言った。


 その夜、再度丞蝉の部屋を訪ねてきた白菊丸の抱擁は、それほど自分が恋しかったのだろうかと思うほど度を増していて、舌を絡み取られるような稚児の接吻に丞蝉は驚いた。

(どこでこんなことを覚えたのだ)

 ちらりと白菊丸の顔を見ると、頬が上気し、完全に陶酔している。それはそれで愛しいとは思うのだが、かえって丞蝉の方が、冷めた。

「おい、白菊」

 ぐいと白菊丸の体を離し、

「そんなに俺が恋しかったのか?」

 と聞いた。


 当然、はい、という恥じらいを含んだ返事が聞けると思っていた――だが丞蝉が聞いたのは、白菊丸が正気に戻って、はっと息を呑む音であった。

 その赤い唇が震え出したのを見て、丞蝉はとんでもないことを夢想してしまったのである。

 白菊丸を突き放すと、声を荒げた。

「裏切ったな、白菊! あの家臣だろう、やつらの誰に抱かれたのだ! 言え! そいつを殺してやる!」

 血相を変えた白菊丸が、必死で丞蝉の胸に飛びつく。

「いいえ、いいえ違います! そんなことは……! ああ、あなた以外の誰にこの身を任せましょうや。丞蝉殿、信じてくだされ!」

「ではなぜ震えるのだ。最前お前は、俺を思って酔っていたのではあるまい」


「……(むご)うござりまする!」

 その時急に、白菊丸は開き直った。両手で顔を覆って号泣する。

「白菊はずっと寂しゅうござりました! ずっと丞蝉殿を思い……こうしてお情けをいただける時を夢見、ひとり寝の夜を過ごしてまいったのです。それでつい、あまりにも淫らな姿をお見せしてしまったのかと思うと、我ながら恐ろしくなったのです。私は卑しくも、細川幸元が一子白菊丸。今その誇りも失せたかと思うと……それもこれも、丞蝉殿、皆あなたのせいでござるぞ!」

 逆に丞蝉が責められ始めたようだ。

 妙な展開に先ほどの怒りもどこへやら、である。

 実際「誇り」とか言われても、丞蝉にはよくわからない。元来、面倒くさいことは嫌いな性質(たち)であった。

 泣きながら、「お恨み申します、丞蝉殿!」と繰り返す白菊丸を、今度はなだめながら、謝るしかなかった。

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