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第五十二話 計略

 天礼は丞蝉に近づくと、穏やかな声を掛けた。

「まったく傍若無人な種族よな。四本足の獣とて、もう少し恩というものを知っておるぞ。やつら、誰のおかげで白菊丸に会えたかわかっておらぬようだ」

「天礼兄よ」

 だがやっとのことで丞蝉は笑みを作った。

「師もやつらを快くは思っておられぬ。明日にでも、寺を追い出すだろう」

「何、それでは一緒に白菊丸をも連れて行ってしまうのではないか?」


 気のせいか言葉に焦りが見えたが、気にせず智立老師に言上したことをそのまま繰り返す。

「いや、白菊丸はまだ連れて行かさん。やつらが城を取り返したとき、俺が石ノ松まで白菊丸を連れて行くのだ。それまでは、ここで守ってみせる」

 天礼は笑顔になった。

「そうか。それがいい」


 夜気を含んだ風が廊下を流れてゆく。

 伽藍の鐘が鳴った。

「それで、お前はどうやって彼を守るのだ」

「何?」

 ――こやつ、敵か味方か。

 丞蝉がそういぶかった時、天礼はまたも釈然と微笑んだ。

「お前に剣は使えまい、だが才気がある。それを使え――いいものがある。こっちへ来い」


 灯りを手に、長い廊下を渡り、天礼は例の古い書などが雑然と置かれた開かずの間へ丞蝉を案内した。中へ入り、一箇所を指差し、「これを見よ」と言った。

 覗き込んだ丞蝉は、あっと声を上げそうになる。


(いにしえ)ノ秘術書』。


 そして何と、その辺りにうず高く積まれている書はすべて、古来の秘伝・秘術書の類であるらしかった。

「どうだ、これで力を得んか? お前になら出来よう。おそらく、剣よりも強力な武器となろうぞ」

「天礼兄、なぜこれを……?」

「たまたま見つけたのだ。だが私には使えそうもないのでな」

 その眼がきらりと光ったようであった。が、すっかり心奪われてしまった丞蝉には気づきはない。「これは……これは」と、唇を震わせた。

 すっかり書を読みふける体制に入った弟弟子をその場に残すと、天礼はそっと部屋を出た。


 おそらく彼は見つけるであろう、そのもっとも悪しき書を。

 そしてその力に魅せられるであろう。

 彼の頭の中に、智立とのやりとりの場面が甦っていた。


 ――そう、たとえば、己の欲のために人を傷つけたり、またはよからぬ悪法に手を染めたりした場合はどうなさるのです。

 ――自明じゃ。そのときは、一も二もなく破門しよう。


 天礼は闇の中で、その肉のこそげた頬に薄笑いを浮かべていた。

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