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第四十九話 裏切り

 白菊丸は、いつも傍らにいてくれた丞蝉の不在に大いに心痛めていた。

 こうして立っていても、不安でたまらない。

 心もとない。

 だがそれより何よりも、寂しくて寂しくて死にそうであった。 

「丞蝉、早く帰ってたも……」

 そうつぶやくと、そっと袖で目元を拭うのだった。


 丞蝉が寺を出て五日目の午後のことである。

 またひとりで丞蝉のことを思いながら、庭の池の側に咲いた花菖蒲の青をぼんやりと目に留めていた白菊丸は、いきなり袖を引かれて我に返った。

「大変だ、白菊丸殿。すぐに来てくださらぬか!」

 天礼だった。

 丞蝉と親しいこの兄弟子の常ならぬ取り乱した様子に、白菊丸は、もしや丞蝉の身に何かあったのでは、と顔色を変え、天礼に手を引かれるまま僧房へ上がると長い廊下を小走りに渡る。天礼は口も利かず、強引とも言える力で引っ張っていった。

 たまらず、白菊丸は声に出した。

「天礼殿、お待ちくだされ。丞蝉殿に何かあったのですか? 教えてくだされ、後生じゃ!」

 それを聞いた天礼は少し振り返り、「とにかく早う」と言い、さらに手に力を込めた。その手が異常に熱を持っている。

「こちらへ。お入りなされ」


 そこは滅多に誰も立ち入らぬ、いわば物置部屋のようなもの。

 暗い中に納められた何かの像がこちらを睨んでいる。

 古い巻物が山と積まれ、かびた臭いがした。

 天礼は部屋の戸を閉めると、不安で泣き出しそうな顔をしている白菊丸の正面に立った。

「どうしたのです、天礼殿。何があったのです……」

 いきなり天礼は白菊丸の肩を掴んで後ろを向かせると、強い力で抱き上げた。

 白菊丸の足は、完全に宙に浮いてしまった。

「何を……何をなさるのです! 天礼殿、下ろしてくだされ!」

 白菊丸の懇願を無視し、天礼は無言で水干袴の紐を解いた。

 袴が下に落ち、天礼の手が着物の裾を割って初めて白菊丸は天礼の意図を理解した。

「やめて! やめてくだされ!」

 だがあっという間に床の上に倒され、そのまま自分の肌に男の肌身を感じる。

 いかにもがけど、大人と子供では逃れようはなかった。


 ――ああ、丞蝉!


 天礼の与える痛みに耐えながら、白菊丸の意識は次第に遠くなった。

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