第四十八話 家臣たち
真言の供養を終え城を出てきた丞蝉は、野原で数人の武士に囲まれた。皆野武士のような酷いなりをしていたが、不思議と下劣さがない。
男の一人が口火を切った。
「お主、真言の僧だな。本日、末成義詮が命で幸元様の御霊を弔ったというのは本当か」
「本当だが」
「出来れば我らに城の内情をお教え願いたい。恒清様か恒孝様のお姿を、ちらとでも見なんだか?」
――細田家の家臣か。
そうは思ったものの、まだ丞蝉は黙っていた。味方だと言ったところで、すぐに信じてもらえるはずもあるまい。
代わりに背中の袋から、白菊丸より預かった小柄を取り出して見せた。
「おおっ! そ、それは……!」
それは白菊丸が寺へ預けられる折に母御是が持たせたもので、細田家の紋がついている。
武士たちは皆感極まって泣き出した。
「白菊丸殿はご無事だ。ご無事で、ある山におられる。俺についてくるがいい」
河原近くの掘っ立て小屋で、家臣たちは雲水姿の平助に再会した。この幸元付きの老年の小者の顔は、皆さすがに見知っている。
ここでも男たちは営々と涙した。
「それでは、恒清様も恒孝様も、すでに末成に殺されたと申すのか。何たること……!」
「お方様も、さぞご無念であられたろう……。おのれ、末成め!」
平助の場合は、嬉し泣きである。白菊丸に約束したとおり、何とか家臣たちが見つかったのである。
「ご貴殿方も、ようご無事で。さぞや、若君も喜ばれることでございましょう。これも、幸元様やお方様のお引き合わせでございます」
そのうち、やっと一人が丞蝉のことに及んだ。
「して、お主はまことの僧侶なるや」
平助が言う。
「まこと円嶽寺の僧侶、丞蝉様でございます。若君は丞蝉様を大層信頼されておりますれば、この度こうやって丞蝉様を城へ間諜に遣わされたのでございます」
「おお、思い出したぞ! そなた、いつぞや若君が帰城された際、幸元様の覚えめでたきことがあったな。獣から身を挺して若君を守られたとか」
一斉に皆の注目が丞蝉の身に降り掛かった。
「は。恐れ多くもあの時、幸元様は拙僧にももったいなきお言葉をくだされました。寛大なるお心のご領主様であられました」
丞蝉は自身の気を抑えつつ目を伏せたまま答え、内心では今や自分が白菊丸の念者であることを得意に思っている。
――こいつら、俺が白菊丸の念者だということを知ったらどんな顔をするだろうかな? ふふ、だが刀を抜く者もあろう、用心用心。
家臣は六人。名は次のとおりである。
後藤田平八。
沖田伝次郎道保。
金田仁兵衛。
木下小五郎。
滝権三衛門義影。
山根勝之進。
いずれの雄も、末成義詮を宿敵と狙っている。