第四十二話 嵐到来(一)
時は乱世である。
力のある国人や武士が平気で国主を倒し、武名を挙げるのは珍しくない世の中である。
石ノ松城城主細田幸元恒近も、ついにその下克上の波に飲まれたのであった。
その日の夕刻、くだんの岩棚から戻った後、丞蝉はこの異変を知った。
白菊丸のことが心配で様子を見舞おうにも、彼はひとりで部屋に閉じこもりきりだそうで、智立法師すらどのように声を掛けてよいものやら苦慮していた。
丞蝉は智立と対峙すると、
「白菊丸殿はいかがなりましょうや」
と、問うた。
だが智立は腕組みをし、「うむ……」と唸るばかりである。
長い沈黙の後、
「とにかく様子を見ることじゃ。平助殿が申すには、側近衆はすべて国人側についたという。もう誰も白菊丸殿を擁護し、城を再興しようという者はおらぬのじゃよ……」
「恐ろしいことです」
高香の頬が青ざめている。
「いくさが人の心を変えてしまう。この世は、これからどこへ流れてゆくのでしょう?」
そう、白菊丸の悲しみを癒すこともなく、日々は流れていく。
そんな世であった。
「これで白菊丸殿も、ただの下稚児じゃ」
「なれば寺におる以上、相応な奉仕を拒否できぬのう」
それから三日も経たぬ間に、偶然耳に入った寺男たちの言葉に丞蝉の血は逆流した。
それは、下稚児として伽を言いつけることの出来る喜びよりも、いち早く彼を自分のものにせねばならぬという焦りが沸き起こったせいだった。
たしかに白菊丸を哀れとは思う。だが同時に好機が巡ってきたとも思っていた。
だがそんなことを思っているのは、自分一人ではないのだ。
今丞蝉はそれに気付かされ、頭を殴られた気さえし、低く呻いた。
早く白菊丸と肌を合わせねばなるまい。
そうだ、どうせ俺だけのものにしてはおけぬのだから。
気持ちは急き立てられながら、それでも高香の手に支えられるようにして歩くやつれ果てた白菊丸の姿を見ると、とても手が出せないと萎えしぼんでしまう。
昼も夜も、常に白菊丸を見張るような日々が続き、さすがの丞蝉もすっかり疲れた。
忍耐も限度であった。
だがついに、その日は、昼遅くからの遠雷を伴ってやってきたのである。