第三百五十七話 さらわれた子供たち(一)
大きな笠を被り、真夏の太陽から身を守りつつ、作造は庭の松の木を剪定していた。
パチン、パチンという鋏の音が頭にまで響く。
あまり大きな枝は、もう作造の力では切り難かった。
「どんどん年老いてゆくのう」
作造がひっそりとため息をついた時だ。与助が息せき切って駆け込んで来たのだった。
「ほい、与助。どうした。えらく勢い込んでるじゃないか」
走って来たにもかかわらず、与助の顔は真っ青である。
「作造、和尚は、紫野はどこ? 大変なんだ」
言うなり、わっと泣き出した。
とりあえず、作造は和尚を呼んだ。
そして驚いた和尚が一体何事かと尋ねると、与助は泣きじゃくりながら袂から紙を出して渡したのだった。
それを見た和尚の顔つきが見る見る変わる。
作造も不審そうに横から覗き込んだが、次の瞬間、目が飛び出さんばかりに驚き、手にした鋏を取り落とした。
『霞の紫野、子供たちは預かった。無事返してほしくばひとりで我らの所領まで来い』
紙にはそうあったのである。
和尚は与助に迫った。
「与助、子供たちとは誰じゃ。誰がさらわれたのじゃ。この文はどうした」
よく見れば与助の顔は涙と鼻水ばかりか泥にもまみれ、手や足からは血が出ている。
おそらくここまで必死で走ってくる途中、何度か転んだに違いなかった。
「綾ねと太平と一刀、権三、吉、それから珍念も。遊んでたんだ、そしたら盗賊が来て……みんなを縛り上げ、俺にこれを持ってけって。紫野に渡せって」
この頃では紫野たち霞組三人の活躍が自慢になっていた恵心も、ただごとではない気配を察し慌てて走ってきたが、和尚から渡された文を見て尻餅をついた。
「恵心、さらわれた子供たちの親に知らせろ。寺に集まってもらうのじゃ。急げ」
そして震える声で、紫野にも告げた。