第三百五十六話 忍び寄る悲劇
「はい、みんな手を出して!」
目隠しをした綾ねがつんとした声を張り上げた。
綾ねを取り囲む六人の男の子たちが黙って片手を差し出す。
綾ねは手探りで一人ずつの手を掴み、掌や指を触り始めた。
太平と与助、それに一刀、権三、吉、珍念もいる。
六人は綾ねに手をべたべたと触られて、皆にやにやと笑っている。
吉は恥ずかしそうに、もう片方の手で頭をかいた。
「んー。この大きい手は太平でしょ。あっ、このこぶは、与助ね……柔らかいこの手は、珍念でしょ」
その時、男の子たちの後ろから「しいーっ」と声が聞こえ、驚いて振り向くと、そこにはにこにことした小男が立っていた。
小男は人差し指を口元に当てながら、左手を綾ねの前に突き出し、綾ねに手を探らせる。
いくら小男とはいえ、その手は明らかに子供の手ではない。
綾ねはびっくりして口をぽかんと開け、自分で目隠しを取った。
「あっ、おじちゃん!」
綾ねも、他の子供たちも、その男のことを覚えていた。
去年の冬に、やっぱりにこにこと現れて紫野のことを聞いていった男だった。
「よう、みんな、元気そうだな」
そして男は、
「あのな、面白いものを見つけたんだ。大きな木にうろができていて、そこに狸が可愛い子供を生んでるのさ。見に行かないか?」
その誘いに、皆一斉に顔を輝かせると、「わあ、行こう!」と声を上げる。
こうして、『河童のおじちゃん』を先頭に、七人の子供たちは連なって丘の道を進んで行った。
しかし行く手には大きな木のうろなどなければ、可愛い狸の子もいないのである。
見張り台からは見えない山の道にはいったところで彼らを待ち受けていたのは、五人の盗賊であることを誰が知ろう。
悲劇が幕を上げた。