第三百五十二話 三者三様(一)
雪が溶け春になった頃、嘉平次の村に数人の盗賊が現れたようだが、霞の守りがあると知ってか、たいした悪さもせず去ったという噂が流れてきた。
草路村でもあれこれと画策はしたものの、結局盗賊の気配は毛ほどもないことに安穏とした日々が見る見ると半年も過ぎ、やがて、長雨の季節も終わり夏に入る頃となった。
三人は剣の稽古のあと、疾風の家に集まっていた。
自然と話が次の警邏のことになる。
ここぞとばかりに疾風が、
「そろそろ霞組も警邏を再開しようじゃないか」
と切り出した。
「あー、そうだな。村の中だけだと、体がなまる」
聖羅も大げさに背中を伸ばし、首を左右にこきこきさせた。
「おねに会いたいな」
おねというのは、細魚村の少女である。
疾風が笑いながら聖羅をつつき、
「『体がなまる』っていうのは、そっちのことか。この、色ぼけ野郎」
すると聖羅は、真っ赤になって大急ぎで否定しつつ、疾風を打ち出した。
「ちが、違う。剣の腕が、だ――馬鹿」
それを両手で防ぎながら、相変わらず疾風は笑っている。
「違うだと? どう思う、紫野」
ところがである。
こういうことでは滅多に意見をしない紫野が、珍しく眉をひそめて反対したのであった。
「まだこの村を離れない方がいい」
一見じゃれ合っていたかのような疾風と聖羅は、ぴたりと動作を止めた。
「なぜだ紫野。もう随分長い間、どこへも行っていない。そろそろ俺たちも村の外へ出ようじゃないか。いい気分転換になる」
聖羅も疾風のあとを受け、声を上げる。
「そうさ。気分転換しなきゃ」
「気分転換? 気分転換のために、村を離れるのか?」
責めるというよりは、むしろ困惑気味な紫野である。