表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
351/360

第三百五十一話 沈黙

 年が代わっても村人たちは警戒を強めたが、結局盗賊たちが二度と襲ってくることはなかった。

 だが村でも油断したわけではない――霞組は警邏には加わらず、さらに三日置きに集会を持って皆で対策を練っていた。


「いっそ盗賊の領地に攻め込んではどうだろうか?」

 翔太が言う。

 井蔵が「む……う」と腕を組み唸り、一瞬、しんとなったが、藤吉が言葉を投げた。

「それだと、やぶ蛇になる恐れもあるんじゃないか。今、やつらも治まっているし……霞の威力はよくわかったはずだ」

 ほとんど前歯のない久治郎も、にたにたと顎をさすり、

「そりゃあそうだ。霞を見て、あの最後の盗賊もあたふたと引き上げていきおったからな。あいつがよほどの馬鹿じゃない限り、二度と攻めては来んだろう」

「むしろ、やつらの方がたまげてあの森を出ていきはせんかな?」

 蓑介も言い、皆はやや気分も明るく、「そうだそうだ」と頷き合った。


「また襲ってくれば、倒せばいい」


 疾風の決然たる一言に、ふたたび満場が沸く。

 口々に、「今度こそ、皆殺しだ」と言い合い、手を叩き合った。

 さきほどとは打って変わり、井蔵も明るい調子である。

「今は雪の季節だ。どちらにしても、やつらは来ねぇだろう。そのうち春になったら、誰かが偵察に行かねばならねぇだろうがな」


 聖羅は、横に座っている紫野をちらりと見、少し様子が変だと気がついた。

 肘でつつくと、

「おい、どうした。気分でも悪いのか?」

 と聞く。

 紫野は低い声で言った。

「やつら――どうして襲ってきたんだろう?」

 気のせいか、その声は微かに震えている。

 たが聖羅は気づかない振りをした。

「どうして? どうしてだって? やつらが村を襲うのに理由なんかない。ただ侵略したいだけなんだ。作物やヤギを盗んだり、家に火をつけたり、女を犯したり」


 紫野がふっと瞳上げ、聖羅を見る。

 その暗い水を湛えたような瞳は、明らかに不安を漂わせ揺れていた。

 聖羅は紫野の次の言葉を待った。

 待たねばいけないような気がして、待っていた。


 だが紫野は何も言わなかった。

 紫野の中で、言葉は喉元まで出、また沈んでいったのである。


 ――じゃあ聖羅。なぜ……なぜやつは俺の名を知っていたんだ。あいつははっきりと言った、『お前が紫野か』と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ