第三百五十話 雪の日の祝言
かつて『別嬪三姉妹』といわれ、もてはやされた昔。
だが長女いおりは、盗賊に襲われ自害、真中の姉かえでも盗賊の子を生んだ。今は、藤吉の妻になって、幸せに暮らしているけれど。
そしてつゆの自身も、盗賊に殺されかけた。
もう何年も前のことなのに、今でもうなされる夜がある。
一度ぶくぶくと太り、今度はがりがりに痩せて、すっかり醜くなってしまった我が身を見ることが、今一番の恐怖であった。
こんな自分を望んでくれる男が、どこにいるだろうか。
もう女としての幸せは、完全にあきらめていたのに――。
そんな時、つゆのは清二という男と知り合った。
ある朝、清二は、川向こうからじっと自分を見つめていたのだ。
それだけで、あっという間に二人は引かれ合った。
あんなに恐れていたのが嘘のように、つゆのは清二に、何もかもをあっさりと捧げたのである。
(――こんなにも違和感なく男に抱かれることができるとは、考えてもみなかった)
清二の胸の中で、つゆのはそう思う。
そして、軽い寝息を立てている男の顔をまじまじと見つめるのであった。
「俺は、ずっと遠いところから来た」
最初の交わりのあと、清二は唐突に言った。
「だがもう落ち着きたいんじゃ。つゆの、俺の嫁ごになってくれるか」
その言葉を聞いて、つゆのは泣いた。
それから笑い、また泣いた。
清二の角張った顔を撫で、自分の痩せた胸に押しつけると、気のすむまで泣き通した。
こうして穏やかな正月が訪れ、積もった雪が陽光にきらきらと輝く朝――。
二人はめでたく祝言を挙げ、清二は草路村の男となった。