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第三百四十九話 謀略(二)

(宝……?)


 それだけでは鬼六にはさっぱりわからない。だが紫野という人間が、丞蝉にとって意味のある人物であることはわかりすぎるほど、わかった。


「鬼六。野郎どもの中で、一番面構えのいいやつは誰だ」

「……面構え……ですかい?」

 その言葉に、鬼六は一瞬あっけにとられたようだった。首をひねっている。

「まあいい。二、三人つれて来い」


 そうしてつれて来られた男の中から選ばれたのは、清二という三十くらいの男だった。

 清二はもともと町人で、ある店の番頭をやっていた時、小石金を盗んだという濡れ衣を着せられたために逃げ出してきた逃亡者であった。

 だが生きていくため今度は仕方なく実際に盗みを働くようになり、盗賊団(ここ)に流れてきたのである。


「おい、清二」

 丞蝉は豪華な畳敷きの一室の、一段高くなったところから脇息(きょうそく)に右腕を置きつつ、清二に、自分が見た紫野の容姿を含め河童が掴んできた情報を伝えると、身を乗り出し、

「大切な役目だ。今から草路村へ行け。そして紫野を見張るのだ。何日かかってもよい、紫野が他の霞二人から離れる機会を待て。そしてそれを知らせるのだ」

 と言った。

 さらに、

「なぜおまえを選んだか、わかるか」

 と問う。

「いえ……」

 清二が首を横に振ると、丞蝉はふっふっと鼻で笑った。

「おまえはこれから草路村の人間になるのだ。村で妻を娶り、普通に暮らせ。もしおまえの手柄で紫野を捕らえられたら、褒美にそのまま村で暮らさせてやろう」

 これには側にいた鬼六も、思わず息を呑んだことである。

 清二は黙って頭を下げたあと、湯場で体を洗い新しい着物をもらって、さっぱりした風体で屋敷を出て行った。


「清二のやつを、抜けさせるんですかい?」

 やや怒気をはらんだかのような鬼六の言葉に、丞蝉は面白そうな目を向けただけで、酒をぐいっとあおり、深い息を吐き出した。


「失敗は許されん」


 その機嫌のよさそうな態度とは裏腹に、絶対的な何かを感じて鬼六は黙り込む。

 丞蝉の体の周りから、炎のような光がじわじわと広がり出ているようにさえ見えたのだった。


「失敗すれば、やつは死ぬ――鬼六、これはそれほどの大仕事なのだぞ」


 その凄まじい笑顔を見て、鬼六は、(多分そうなのだろう)と思わざるを得なかった。

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