第三百四十四話 盗賊襲来(一)
「盗賊だ! 盗賊が攻めて来た!」
見張り台の上から又八が叫んでいた。
戸口で震えているおいとに、藤吉が言う。
「隠れ穴に隠れてろ。絶対に出るなよ」
そう、こういう時のために、どの家も家の中には隠れ穴が掘ってあるのだ。警鐘が鳴った時、女子供、老人たちには隠れ穴から出ないように指示してある。
おいとは震えながら頷くと、一瞬又八を見上げ、すぐに家の中に姿を消した。
粉雪がいよいよ舞う様は、これから非日常的な物事が繰り広げられる前哨にふさわしいとさえ見える。
井蔵がやぐらを見上げて聞いた。
「又八、盗賊は何人ぐらいだ!」
「ざっと見たところ二十だ……とても太刀打ちできねぇ!」
「何を言っていやがる。村を守らねばなんねぇぞ!」
ぴしゃりと言い、そして疾風に、
「おめぇたち、頼んだぞ」
語気を強める。
疾風は頷いた。
「ああ、任しておけ」
「腕が鳴るぜ」
聖羅は獲物を狙う猫が喉を鳴らすような調子である。
「行くぞ!」
疾風の声を合図に、皆が一斉に走る。
と平原で、又八の言ったとおり黒馬の一団が見えてきた。
――真っ白な雪。真っ黒な盗賊たち。
その対照的な光景が紫野の目に焼きつき、紫野は右手を背中に回すと長剣を引き抜いた。
盗賊どもは手にした武器を高く掲げ、奇妙な声を発して威嚇したが、臆することなく突っ込んだ疾風が目にも止まらぬ速さで数人を斬る。
それは彼の名のとおり、疾風そのもの。
敵の豪胆さにあっけにとられ、一瞬動きを止めた盗賊の頭や喉を、聖羅の矢が次々と射抜き始めた。
矢はあまりにも容易に突き刺さり、やがて接近戦になるや、聖羅は腰から引き抜いた仕込み鞭を嬉々として振るい出した。